中山修一著作集

著作集9 デザイン史学再構築の現場

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『著作集9』PDFダウンロード (17.1MB)  更新日:2025年2月11日

はじめに――著作集9の公開に際して

ここに公開する著作集9『デザイン史学再構築の現場』は、次の六つのパートとふたつのAppendixによって構成されています。

第一部 英国におけるデザインの近代運動の崩壊とデザイン史学の誕生
第二部 デザインの歴史学の創生――三人の英国のデザイン史家に聞く
第三部 デザイン史学を日本へ
第四部 集録「訳者あとがき」
第五部 デザイン史雑考雑話集
第六部 伝記書法を問う――ウィリアム・モリス、富本一枝、高群逸枝を事例として
Appendixes
Appendix A: ‘The Impact of William Morris in Japan, 1904-1994’, a talk to The William Morris Society on Saturday 26 August, 2.30pm 1995 at Kelmscott House, 26 Upper Mall, Hammersmith, London, W6 9TA.
Appendix B: The abstracts and keywords in English attached to my main articles on William Morris and Kenkichi Tomimoto.

この著作集9『デザイン史学再構築の現場』は、著作集1『デザインの近代史論』で考察した主題を引き継ぎ、幾つかの観点に立って、デザイン史学再構築の諸相にかかわる現場的側面について詳述することを目的としています。

第一部「英国におけるデザインの近代運動の崩壊とデザイン史学の誕生」は、およそ第一次世界大戦の終結から第二次世界大戦後の復興期において展開された、英国におけるデザインの近代運動について概説し、一九七〇年代に至り、それがいかにして崩壊に向かったのか、そして、この同じ時期に、「デザイン史学」という新たな学問が誕生したのかについて言及します。著作集9『デザイン史学再構築の現場』の導入部分となることを意図して、短くまとめた歴史記述です。

続く第二部「デザインの歴史学の創生――三人の英国のデザイン史家に聞く」においては、第一部の「英国におけるデザインの近代運動の崩壊とデザイン史学の誕生」の論述を裏づける根拠の一部として、三人の先駆的なデザイン史家に以前に語ってもらっていたインタヴィュー内容を訳して、紹介します。このインタヴィューは、モダニズムという一元的価値の支配から離れ、多元主義の社会文化的価値の発掘と承認へと向かうなかで、英国において生み出されたデザイン史学という新しい学問の様相についての、貴重な歴史的証言となります。

第三部「デザイン史学を日本へ」は、一九八七年から八八年にかけての英国での調査研究で得られた知見を踏まえて、帰国後に、デザイン史学を日本の学問土壌に移植することを願って書いた論考の数々です。第四部の「集録『訳者あとがき』」は、この時期、私がかかわった翻訳書の「訳者あとがき」を並べたもので、次の第五部の「デザイン史雑考雑話集」は、その間さまざまなメディアに向けて草したデザインにかかわる雑稿の集録集です。

最後の第六部の「伝記書法を問う――ウィリアム・モリス、富本一枝、高群逸枝を事例として」において私は、デザイン史家の仕事に欠かせない伝記執筆の問題を取り上げ、先行する既刊の伝記を批判的に検証し、あるべき伝記の書法について考察しました。最後のAppendixesには、英国のウィリアム・モリス協会での講演を含む、私の英文原稿が付録として集められています。

デザインの近代運動の崩壊以降、英国の地で、ひとつの新しい研究領域として「デザイン史学」という刷新された学問が生まれました。これはまた、デザイン史家である私に、多くのことを考えさせる大きなインパクトとなりました。その意味で、この著作集9『デザイン史学再構築の現場』は、実際に英国で起こった「デザイン史学再構築の現場」を記述するに止まらず、デザイン史家としての私自身の身に起きた「デザイン史学再構築の現場」を再現するものとなっています。記憶が遠ざかる前に、ここに書き記しておきたいと思います。




二〇二四年七月五日
盛夏へと向かう阿蘇南郷谷の小さきわが庵にて
中山修一

目次

凡 例
一.本文中『 』は書名、雑誌名、新聞名を示し、「 」は論文や詩、記事等の表題を表わしている。また、強調すべき固有の事象についても「 」が用いられている。
一.本文中《 》は作品名を示し、〈 〉は建物の名称を表わしている。
一.本文中の【 】は図版の参照番号を指し示している。
一.引用文および引用語句内の[ ]は本著作集の著者による補足である。