※全文をPDFファイルでダウンロードしてご覧いただけます。 [PDFファイルについて] 『著作集2』PDFダウンロード (70.4MB) 更新日:2023年7月10日
ここに公開する著作集2『ウイリアム・モリス研究』は、次の三部によって構成されています。 第一部 ウィリアム・モリス没後一〇〇周年 第二部 富本憲吉の学生時代と英国留学 第三部 「冬の時代」のウィリアム・モリス讃歌
私がデザインの研究に関心をもちはじめた学生時代には、体系化された「デザイン史」と呼ばれるような授業科目はありませんでした。それでも、それに関連する何点かの単行研究は存在していました。当時私は、ハーバート・リード『インダストリアル・デザイン』(勝見勝・前田泰次訳、みすず書房、一九五七年)、ニコラウス・ペヴスナー『モダン・デザインの展開』(白石博三訳、みすず書房、一九五七年)、『現代デザイン理論のエッセンス』(勝見勝監修、ぺりかん社、一九六六年)、利光功『バウハウス』(美術出版社、一九七〇年)、小野二郎『ウィリアム・モリス』(中公新書、一九七三年)、そして阿部公正『デザイン思考』(美術出版社、一九七八年)などをむさぼるようにして読みました。そして、どの書物においても共通して取り上げられていたのが、ウィリアム・モリスの思想と実践についてだったのです。そこで私の関心も、躊躇なく、一九世紀英国が生んだデザイナーにして社会主義者、そして詩人でもあったその人物へと注がれてゆきました。 この著作集2の表題は「ウイリアム・モリス研究」となっていますが、決して彼の思想と実践を直接の対象としているわけではありません。主題としているところは、彼の思想と実践は日本にあってその最初の時期、どのようにして見出されていたのか、その原像を明確化することに概略限定されています。いわば、日本における最初期のウィリアム・モリス研究にかかわる研究といったところでしょうか。このときはじめて、私は、富本憲吉というひとりの芸術家に遭遇することができました。結果としてその出会いは、その後の私の研究に決定的な道筋をつけることになる、大きな出来事となりました。
二〇一八年三月一五日 冬を越した阿蘇南郷谷の小さきわが庵にて 中山修一