※全文をPDFファイルでダウンロードしてご覧いただけます。 [PDFファイルについて] 『著作集6』PDFダウンロード (10.5MB) 更新日:2024年10月11日
ここに公開する著作集6『ウィリアム・モリスの家族史』は、著作集2『ウィリアム・モリス研究』の後続編に相当します。内容的には、先行編が、明治末日本におけるウィリアム・モリスの受容の様相について詳述するものでしたので、この後続編においては、「モリスとジェインに近代の夫婦像を探る」を主題に、その歴史を描いてみたいと思います。
過去においても、そして今日においても、モリスに興味を抱く人の最大の関心事は、おそらく次の点にあるのではないでしょうか。詩作とデザインと政治活動が彼のなかでどうつながっていたのであろうか。そしてまた、ラファエル前派の著名な画家であるダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの絵画作品にしばしば登場する、妻のジェインは、モリスとのあいだでどのような家庭生活を送ったのだろうか。こうした一種の謎が、人びとの関心を引きつけ、これまでに多くの伝記や研究書が書かれてきました。私の関心も、当然ながら、そこにあり、本稿執筆の動機を構成する主たる部分となっています。
実は、それに加えて、本稿には隠されたもうひとつの執筆目的があるのです。それは、一九世紀イギリスのウィリアム・モリスとジェインの夫婦像が、時間と地域を越えて、二〇世紀日本の富本憲吉と一枝の夫婦の肖像に何がしかつながるようなことはなかったか、そのことを検証してみたいという思いにほかなりません。そこには、「近代の家族」というプロジェクトが、国際的主題として地球規模で芽生え、一九世紀から二〇世紀にかけて共時進行した可能性に対する、私の密やかな思い込みに近い確信が横たわっています。そこで、この機会に、ウィリアム・モリスと富本憲吉の双方の家族にかかわって、その類縁性や異同について少し考察してみたいと考えました。これに関する研究成果は、著作集7『日本のウィリアム・モリス』の第二部「富本憲吉とウィリアム・モリス」として公開します。
読者のみなさまには、「近代の夫婦像」――この論点のもと、一緒に検討に加わっていただき、ご批評をいただければ幸いに存じます。
二〇二一年一二月二一日 師走のなかの阿蘇南郷谷の小さきわが庵にて 中山修一