この、著作集9『デザイン史学再構築の現場』の第二部「デザインの歴史学の創生――三人の英国のデザイン史家に聞く」は、「目次」にもありますように、以下の三つの編から構成されています。
第一編 デザイン史学誕生を巡って――ペニー・スパークさんに聞く 第二編 デザイン史学誕生を巡って――ジリアン・ネイラーさんに聞く 第三編 デザイン史学誕生を巡って――ジョン・ヘスケットさんに聞く
一九八七年の一〇月、私は、ブリティッシュ・カウンシルの「フェローシップ・グランツ」を受けて、英国の地を踏みました。その目的のひとつは、当時進行していた翻訳の仕事にかかわって、その著者や関係者に会って意見を聞き、同時に関連する作品や資料に目を通すことでした。目的のふたつ目は、当時いまだ日本にあっては十分にその存在が知られていなかった「デザイン史学」という学問について、その発祥の地にあって活躍するデザイン史家の方々にお会いし、その研究の目的や方法論等についてつぶさに教えを乞うことでした。そして三番目の目的は、デザイン・カウンシルやクラフツ・カウンシルのようなデザイン振興の機関や公認デザイナー協会やデザイン・産業協会のようなデザイナーの公益組織のリーダーの方々にお目にかかり、英国の現状についてお話をうかがうことでした。
半年間という短い英国滞在でしたが、その間私が面会したなかで、インタヴィューのテープがいまなお手もとに残っているのは、次の方たちに関するものです。
[01]6 November 1987, Ms. Sloan, William Morris Gallery
[02]10 November 1987, Ms. French, Crafts Council
[03]18 November 1987, Mr. Opie, Victoria and Albert Museum
[04]7 December 1987, Lord Reilly, at his house in South Kensington
[05]8 December 1987, Stephen Bayley and Adrian Ellis, The Design Museum under construction at Butler’s Wharf
[06]18 December 1987, Penny Sparke, Department of Cultural History, Royal College of Art
[07]13 January 1988, Jan Marsh, at her home
[08]15 January 1988, Gillian Naylor, Department of Cultural History, Royal College of Art
[09]4 February 1988, Phillip T. Guilmant, DIA office at Bedford Square
[10]8 February 1988, John Heskett, Ravensbourne College of Design and Communication
[11]11 February 1988, Christopher Frayling, Department of Cultural History, Royal College of Art
[12]15 February 1988, Bruce Archer, Royal College of Art
[13]20 February 1988, Ray Watkinson and Gillian Naylor, at Watkinson’s home in Brighton
[14]1 March 1988, Roger Sale, Department of Industrial Design, Royal College of Art
[15]7 March 1988, Lady Black and Professor Frank Height, Royal College of Art
[16]10 March 1988, Stuart Macdonald, at his home in Stockport
[17]22 March 1988, Jonathan Woodham, at the Brighton Polytechnic
[18]23 March 1988, Michael Sadler-Forster, at The Chartered Society of Designers
[19]25 March 1988, William Furbisher and James Williams, at Design Research Unit
以上の方々へインタヴィューした幾つかのテープを、いま三六年ぶりに再生して聞いてみました。そのなかの、先駆的なデザイン史家であるペニー・スパークさん、ジリアン・ネイラーさん、加えてジョン・ヘスケットさんからお聞きすることができた、英国におけるデザイン史学誕生についての話は、学問的に貴重な歴史的証言になると思われ、ここに再録し、広く公表することを決断いたしました。
上の一覧にありますように、ペニー・スパークさんとは、一九八七年一二月一八日に勤務先の王立美術大学において、ジリアン・ネイラーさんとは、年が明けた一九八八年一月一五日に同じく王立美術大学において、そしてジョン・ヘスケットさんとは、一九八八年二月八日に彼の勤務するレイヴェンズボーン・デザイン・アンド・コミュニケーション大学において、面会の機会を得ました。
インタヴィューは、私が事前に用意してきた質問項目に沿って進められましたが、脇道に逸れたり、個人的な問題に触れたりする箇所もあり、したがいまして、ここに再録するに当たっては、一問一答の形式による表記は避け、インタヴィュー全体の内容を幾つかのテーマに分け、その範囲にあって本人の語りを要約したいと思います。もし、聞き違いや翻訳上の誤謬等があれば、そのすべては、私に帰されるものです。このことをあらかじめ申し添えます。
また、ジリアン・ネイラーさんとジョン・ヘスケットさんはすでに故人となられていることもあり、このお三方の了承はいただいておりませんが、あくまでも学術の発展に供するもので、個人の利益や名誉の侵害には当たらないものと考え、ここに私の判断と責任において公開することにいたします。
(二〇二四年初夏)