中山修一著作集

著作集9 デザイン史学再構築の現場

第三部 デザイン史学を日本へ

序に代えて

この、著作集9『デザイン史学再構築の現場』の第三部「デザイン史学を日本へ」を構成する各論稿は、巻末の「初出一覧」に詳しく記載していますが、かつて神戸大学に在職していた期間のなかにあって、一九八八(昭和六三)年から二〇〇八(平成二〇)年までのあいだに書かれたものです。

私は、一九八七(昭和六二)年一〇月に英国政府のブリティッシュ・カウンシルのフェローとして、続いて一九九五(平成七)年八月に日本政府の長期在外研究員として英国へ渡り、その地で、「デザイン史学」という、まさに生まれ落ちたばかりの学問に出会いました。これまで極東のこの日本で、独りデザインの歴史に興味をもち、何も見えぬまま悪戦苦闘していた私にとって、たどり着いた英国の地は、神々しく光り輝く別次元の世界のように見えました。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館と王立美術大学に日参しました。先頭を走るデザイン史家の多くに会い、教えを請いました。ここに所収されている九編の話題は、どれもすべて、そのときの学問的感動を伝えようとして、文字化したものです。

振り返ると、最初の渡英の際はまだ直行便はなく、伊丹空港を飛び立った英国航空の搭乗便は、アンカレッジを経由してヒースローへと向かいました。着陸のため高度を下げてゆくと、霧のなかオレンジ色の街灯に照らし出された早朝のロンドンの街が見えてきました。ここから、夢に見た私のイギリスでの研究と生活がはじまりました。あれからもう三〇年の歳月が流れました。しかし変わることなく、二度にわたる英国滞在がもたらしたその感動の数々は、いまなお私の体内で躍動し続けています。私の学問の寄って立つ熱き母なる大地が、この第三部「デザイン史学を日本へ」なのです。

(二〇一八年師走)