東洋ゴム工業株式会社タイヤ技術センター内に「デザイン研究会」が設置されたのが九〇年の六月でしたので、この研究会の活動も、ちょうど四年になろうとしています。「研究会」が取り上げた本年度の研究課題は、開発ステップのフローと意思決定のためのツールに関するものでした。本日はその年次報告会であります。これより私は、その包括的なまとめとして、「デザイン開発におけるコミュニケーション・ツールの役割」につきましてお話をさせていただきたいと思います。
開発ステップのフローは、いうまでもなくトータル・マーケティング・システムの一部ですので、ここで確認の意味を含めまして、トータル・マーケティング・システムにおけるデザイン開発の位置を見ておきたいと思います。
【図一】が、トータル・マーケティング・システムの概略図です。このシステムから読み取れる大事な点として、次の三つを挙げることができます。
(1)このシステムは循環しているということ。 (2)うまく循環させるためには、常に活性化されたフローでなければならないということ。 (3)デザイン開発の位置は、このフローのなかで、コンセプト・メイキング、デザイン・ワーク、および最終調整の三つの段階に相当するということ。
これによって、トータル・マーケティング・システムにおけるデザイン開発の位置はご確認いただけたものと思います。
それでは、デザイン開発のフローは幾つのステップに分かれ、それぞれのステップはどのような作業内容をもつことになるのでしょうか。このことにつきまして、おおよそ【図二】のようにまとめることができるのではないかと思います。デザイン開発のフローは、大きく分けて三つのステップから成り立っています。第一段階が、「コンセプト・メイキング」のステップで、作業内容は、分析の結果を踏まえたコンセプトの立案ということになります。次の第二段階が、「デザイン・ワーク」のステップで、このステップで、第一段階で立案されたコンセプトを具体的な形へと落とし込む作業をしなければなりません。最後が「最終調整とストック」の第三段階ですが、ここでは、第二段階で決定されたデザインについて、実験やアンケート調査の結果を踏まえて若干の修正を施し、最終的な量産用モデルとしてのデザインが決定されることになります。また同時にこの最終段階におきまして、それまでの一連のデザイン開発に伴って得られることになった、資料やデータ、あるいは、さまざまなレヴェルで使用されたツールなどが整理され、一貫した方法のもとに保存されることになります。こうしたストックは、そのモデルを将来モディファイする際になくてはならない貴重な資料となりますし、新規開発の場合にも、おそらく役に立つものと考えられます。
さてそれでは、第一段階の「コンセプト・メイキング」では、どのような事柄が分析されなければならないのでしょうか。まずひとつには、これから開発するモデルが自社商品のカテゴリーのなかで、性能のうえから、また価格のうえからどのような位置を占めるのかを検討し、一方で競合他社の商品との比較を行なう必要があります。次に、予定されている新商品が、どのようなシチュエーションのもとに、どのようなライフ・スタイルのユーザーによって使用されるのかの仮説を立てなければなりません。さらにもうひとつには、そうしたユーザーがその新商品に必然的に求めることになる機能を想定しなければなりません。以上をまとめてみますと、「コンセプト・メイキング」に際しての三つ視点として、次のようになるのではないかと思われます。
(1)営業視点――ブランド構成の整合性(および価格帯)の設定 (2)デザイン視点――視覚的整合性(およびスタイリング)の仮説 (3)技術視点――機能的整合性(およびスペック)の想定
これは、もともと商品というものが、価格の妥当性、外観についての視覚的欲求、そして機能についての技術的欲求の三点から成立していることの現われでもあります。私たちが何か品物を購入する場合には、こうした三つの視点がおそらく作用しているはずです。たとえば、ヘアドライアーを購入する場合を想定してみてください。仮に、色や形が気に入り、熱風の速度や量といった機能についても納得したとしても、価格に不満があれば、人はその商品を買わないのではないでしょうか。また、機能と価格の双方は満たされていたとしても、デザインが気に入らなければ、その商品の購入に躊躇するかもしれません。同様に、いくら価格とデザインが気に入ったところで、求める機能が備わっていなければ、その商品の購入をあきらめることでしょう。つまり人が品物を購入するかどうかの判断を下す場合、一般的にいって、価格とデザインと機能の三つについての要求が総合的に作用し、その三つの要求をおおむね満たした商品のなかから人は選択して購入しているといえます。購入する立場からすれば、これはあまりにもあたりまえな結論です。しかし、商品をつくる立場からこの三つの視点を検討してみた場合、果たしてこの三つの視点が開発の過程のなかにあって常にバランスよく考慮に入れられているでしょうか。もしそうでないとしたら、購入する立場からの視点を欠いた完成度の低い商品の開発を行なっていることになります。逆のいい方をすれば、完成度の高い商品は、ブランド構成の整合性について責任をもつ営業視点と、視覚的整合性について責任をもつデザイン視点と、機能的整合性について責任をもつ技術視点の三つの視点が全体としてうまく融合し、ひとつの形にまとまったときにはじめて生まれる、といえるのではないでしょうか。
それでは次に、第二段階の「デザイン・ワーク」につきまして少し述べてみたいと思います。ここでの作業は、第一段階で決定された「コンセプト」を具体的な形に造形することです。「コンセプト」なるものがときとして極めて概念的であったり抽象的であったりするために、それを具体的な形にするのは決して容易なことではありません。ここに当然ながら、人間の独創性が働くわけですが、独断は極力排除しなければなりません。デザイン視点に偏りますと、工業製品もデコレーション・ケーキになってしまいますし、技術視点だけを強調しますと、単なる機械ということになり、どちらの場合も、結果としてユーザーに違和感を与えることになります。そこで、与えられた「コンセプト」を安定したかたちで造形化するためには、インスピレイションのための資料を事前に用意したり、幾重にも制御のためのフィルターをかけたりする必要があります。このようにして一定の造形上の必然性と客観性を保ちながら、最終的なデザインへと収斂してゆくものと考えられます。
これまで、デザイン開発における三つのステップのうち、とくに最初のふたつのステップにつきまして少し詳しく説明を加えてきましたが、いよいよここで、「コミュニケーション・ツール」というものが開発ステップにあってどのような役割を果たすのかを見てゆきたいと思います。
「ツール」というのは、ある目的のために使用される道具のことです。デザイン開発の場合に即していえば、状況の認識や分析、分析結果の集約や仮説の設定、合意の形成や方針の決定などを要するときに、有効な道具として機能することになります。それではなぜ、デザイン開発において「ツール」なるものが必要とされるようになったのでしょうか。
もしひとりの極めて有能な人間がいて、その人にデザイン開発のすべてがゆだねられたとします。その場合その人は、当然のこととして、自ら、状況を認識し、問題点を分析し、それを集約するとともに新たな仮説を設定し、具体的なデザインへと進めてゆき、ひとつの結論へ到達することになります。このようにひとりの人間だけでデザイン開発を行なう場合、その行為が成功するためには、少なくとも次のふたつの条件を満たさなければなりません。ひとつは、いうまでもないことですが、その人が経済、社会、技術といったあらゆる分野について精通し、しかも造形力や審美眼に長けた万能の人でなければならないということです。いまひとつは、その人に、最終的なデザインを決定する権限が与えられていなければならないということです。果たして、そのような全知全能ともいえる人間は存在するのでしょうか。あるいは、すべての決定権をひとりの個人にゆだねることを認める企業が存在するでしょうか。個人の芸術的人格が重要視される工芸やファッションの場合は、そうしたことも十分起こりえる可能性がありますが、量産品としての工業製品を対象にする場合は、ほとんど不可能に近く、多くの場合、デザインの開発と決定は、集団による組織的なものとして執り行なわれるのが通例ではないでしょうか。デザインの開発と決定が、集団による組織的なものである限り、組織内部での認識の一致や合意の形成が各場面に応じてどうしても必要になってくるわけです。こうして、組織内部でのコミュニケーションの重要性の観点に立って、「ツール」という道具は生まれてきたのではないかと思っています。
それではもう少し実際の文脈に立って、「ツール」というものがなぜ必要なのかを探ってみたいと思います。仮に、あるデザイン開発がひとりの個人か小さな集団にゆだねられ、その人にとっての最終的なデザインができた段階で、デザインの決定会議が開かれたとします。そのような場合、そこに出席したさまざまな部署の専門家から、それこそまさにさまざまな意見が出されることが予想されます。まず、「なぜそのようなデザインになったのか」という質問が出るでしょう。担当者であるその人にデザインの決定権が与えられていない限り、どうしてもその質問に答えなければなりません。そのときおそらくその人は、自分がこのプロジェクトをどのようなプロセスで進め、その過程で生じた幾つかの問題に対してどのような観点からどう判断を下すことによってこのデザイン案が生まれたかを説明することになるものと思われます。そうした説明でその場の出席者全員の合意が得られれば、問題はないわけでありますが、実際にはそうでないことの方が多いのではないでしょうか。市場の動向をいつも見ている人からは、その案の甘さが指摘されるかもしれませんし、これからその商品を実際に売ろうとする立場の人からは、その案がどのような商品特性をもっているのかを執拗に問いただされるかもしれません。また、機能上の問題点や生産技術上の問題点も技術者のあいだから指摘されることも十分予想されます。こうした状況のなかにあって、その担当者は、幾つかの場合は十分に正当な反論ができるかもしれませんが、しかし、そのデザイン案の最終決定権がゆだねられていない以上、どうしても全体の意見に従わなければならないことになります。これでは決して効率のよいデザイン開発とはいえません。そこでこうした経験が積み重なることによって、ひとつの解決案が必然的に生まれてきます。それは、デザインの開発にあたっては、最後に関係者が集まって評価を下すのではなく、最初からすべての関係者に参加してもらい、それぞれの視点から十分に意見を述べてもらい、でき上がった成果物についても、全員で最終決定を行なうという解決策です。しかしそうはいいましても、その解決策に問題がないわけではありません。興味の対象も、専門として使用するタームも異なる人たちが集まって一定の判断を下そうというのですから、ある程度の摩擦が生じることが予想されます。そこで、摩擦を緩和し、共通の認識と安定した方針を得るうえで、どうしても、コミュニケーションのための道具が必要になってくるわけです。つまりこれが、デザイン開発における「コミュニケーション・ツール」の役割ということになります。
すでに述べましたように、デザイン開発におけるツールとは、コミュニケーションのための道具であり、状況の認識や分析、分析結果の集約や仮説の設定、合意の形成や方針の決定などを要するときに、有効な道具として機能することになります。そして、【図三】にみられますとおり、デザイン開発の第一段階の「コンセプト・メイキング」において「コンセプト決定のためのツール」が、第二段階の「デザイン・ワーク」において「デザイン決定のためのツール」が、おおかた必要になります。それでは、「コンセプト・メイキング」の段階にあって必要とされる「コンセプト決定のためのツール」とは、どのようなものなのでしょうか。この段階では、概念的に大きく分けて三つの性格をもつたツール群が考えられます。ひとつは[どうなっているのか――現状の調査と認識のためのツール群]、ふたつ目が[どうすべきか――方向性の設定と確認のためのツール群]、そして三番目が[どうあるべきか――イメージの集約と提案のためのツール群]です。この段階を考えるにあたっては、いうまでもなく、先ほど指摘しました「営業視点」「デザイン視点」および「技術視点」といった三つの視点を総合化し、適切にバランスを取ることが極めて重要です。そのことを視野に入れて、開発ステップの流れに従いながらまとめたものが【図四】です。
左の「営業」「デザイン」「技術」のサイドから、右の「コンセプトの決定」への流れが、開発のフローでありまして、そのフローのなかにあって、幾つかの重要な事項を「営業」「デザイン」「技術」の三つの視点から判断を下していくことになります。そしてその際にツールが必要になるわけですが、開発のフローに従って、三つの性格の異なったツール群が登場することになります。
最初が、[どうなっているのか――現状の調査と認識のためのツール群]です。このなかには、市場動向の調査と分析やポジショニングのチェックなどが含まれます。その次に、[どうすべきか――方向性の設定と確認のためのツール群]を使って、ターゲット車についての研究やユーザー・イメージの仮説を組み立てます。そして最後に、一連の調査や分析を総合的に集約し、開発モデルの全体的なイメージについて関係者のあいだで意志の統一を図ることになります。このとき使用するものが[どうあるべきか――イメージの集約と提案のためのツール群]です。以上が、第一段階である「コンセプト・メイキング」のなかの流れに沿った、三つの視点とツール群の対応関係なのですが、これはそのまま、第二段階の「デザイン・ワーク」にもおおむね適用することができます。
まず、[どうなっているのか――コンセプトの確認と展開のためのツール群]を使って、デザイン・イメージの分類やスペック設定などを行ないます。次に、さまざまにデザインが展開されることになりますが、その際、[どうすべきか――方向性の設定と制御のためのツール群]によって、展開されたデザインがコンセプトを満たしているかどうかを検証していきます。そして最終的に、絞り込まれたデザインについて関係者の了解を得ることになります。このとき使用するものが、[どうあるべきか――デザインの集約と提案のためのツール群]です。そしてこのツールを用いることによって、セールス・プロモーションの指針も同時にここで策定されることになるのです。
このように、各開発段階の目的が明示され、複合的な判断視点が安定的に維持され、考案されたツールが必要に応じて適切に使用されることによって、コンセプトおよびデザインに関する合意形成は効率よく進行するのではないかと考えられます。しかしそのためには、どうしてもその進行を管理し、コントロールする必要があります。そのような業務に対して「デザイン・マネジメント」という名称が与えられていますが、最近では、どの企業にあっても、その重要性が認められつつあるところです。
それでは、ツールはどのようにして開発されるのでしょうか。またツールはどのような技術でもって作成されるのでしょうか。そのあたりのことにつきましてお話したいと思います。まずツールの開発についてですが、ツールの目的がコミュニケーションの道具である以上、新たなかたちでのコミュニケーションが必要になったときは、新規にツールを開発しなければなりません。また既存のものが十分に効果を発揮しない場合にもそうする必要に迫られます。そうしたとき、重要なことは、誰に何を伝えるためのツールなのかをよく考え、したがって、それをどのような方法でもって表現するのが最もふさわしいかを見出すことが重要です。ツールに定形というものはなく、担当者がそうした思考を積み重ねながら、また同時に、これまでの体験を生かしながら、工夫によって完成してゆくものであると考えられます。しかし、こうしてひとつのツールができたとしましても、それを十分に扱いこなす、別のセンスと努力も必要です。たとえば、みなさんがよく承知されているツールにデザイン・マップというものがありますが、これは、キーワードをX軸とY軸に設定し、複数のデザインをその上にマッピングすることによって、デザインの全体的な分布や傾向を知ろうとするときによく使うツールです。そういう目的をもったツールですので、したがいまして、マッピングが不正確ですと、そのデザインの分布や傾向について誤った認識へつながってゆくことも予想されます。それでは、正確なマッピングが行なえるようになるためにはどのようなセンスと努力が必要なのでしょうか。まずセンスにつきましては、キーワードとして選択した言葉のもっている意味の広がりのなかにあって、それぞれに対応する形態が的確に認識できる能力、ということができます。また努力という点でいえば、日常的な訓練の繰り返しを行なうほかありません。たとえば、デパートの大食堂にある料理のサンプルを並べたケースの前に立ったら、すぐにX軸とY軸に設定すべきワードを考えてください。仮に、X軸に「和風/洋風」、Y軸に「軽い/重い」という言葉が頭に浮かんだとすれば、さっそくそのマトリクスの上に、目の前にあるサンプルをマッピングしてみてください。うどんはどの位置に来そうですか。カレーライスはどのあたりでしょうか。これこそ、すばらしい自己訓練だと思います。そして時間が許せば、さらに思考を飛躍させてください。たとえば、自社製品をマッピングする場合のワードでもって、料理のサンプルを並べてみるのです。そうすれば、「セプルー」が、料理でいえば何に相当するかがわかるのではないでしょうか。これまでに挙げた例は単なる思いつきにしかすぎませんが、どちらにしましても、必要な努力を重ねることによって、正確にマッピングを行なう能力は身につくものと思われます。
それでは次に、ツールを作成するうえでの技術について少しお話したいと思います。先ほども触れましたように、ツールは、認識や思考や判断などをより円滑に伝えるための道具であります。そのためには、長々しい文章や複雑な生のデータはあまりふさわしくありません。より円滑に伝えるという意味では、単純化された言葉と視覚的表現が有効です。とくにコンセプトを表現するときに、そのことがいえると思います。したがいましてその場合、単純化された言葉と、イメージ化されたコラージュと、概念化された形態の三者を自由に連想し、それらを結び付ける能力が要求されることになります。これも、日常の積み重ねに負うところが大きいかもしれません。しかし、そうしたツールが常に万能であるというわけではありません。当然ながら有効性や限界性がつきまといます。そこで最後にそのことについて触れさせていただきたいと思います。
これまで、開発ステップの各段階にあって、営業、デザイン、技術の三つの視点から常に総合的に見てゆくことの重要性を繰り返し述べてきました。いうまでもなく、営業視点とは、自社製品を主にラインナップの構成のうえから全体的に見ていく視点であり、デザイン視点とは、自社製品を主にスタイリングの構成のうえから全体的に見ていく視点であり、また技術視点とは、自社製品を主に性能の構成のうえから全体的に見ていく視点であります。完成度の高い製品をつくるためにはどうしても、いまお話しました三つの視点が必要なわけでありますが、三つの視点はそもそも独自の性格をもつものであり、開発段階からそうした視点をうまく融合させようとする場合、どうしてもそれなりの摩擦や緊張を生じさせます。そうした摩擦や緊張を和らげ回避するためのコミュニケーションの道具として、ツールなるものが存在するわけでありまして、デザイン開発におけるその役割の重要性は多くの人が認めるところであろうと思います。しかし、ツールが期待どおりの効果を発揮するためには、ある種の環境が整っていなければなりません。それはどのような環境なのでしょうか。ひとことでいえば、製品の開発にあたっては、初期の段階から最終的な決定に至るまで、先ほど述べました三つのそれぞれの視点から積極的に吟味してゆくという活性化された姿勢がいつも保たれていなければならない、ということです。もしそのような姿勢がはじめから失われていますと、コミュニケーションの道具としてのツールの役割は薄れ、ある決定の場でそれが使用されたとしても、その用い方は極めて形式的なものにならざるを得なくなるからです。これではツール本来の有効な利用の仕方とはいえません。そのような環境が生まれないように、ツールを扱う担当者のかたがたは常に事態の推移を冷静に見守っていく必要があるように思われます。
また、ツールを扱う担当者のかたがたには、次のようなことにも意を用いてほしいと思います。それは、自分が現在使用しているツールが絶対的なものであることは限らない、という認識です。ときとして、時代の精神や価値観が変化しているにもかかわらず、自分のツールから離れられない人を見かけます。これは、さびついた包丁で料理をしているようなものです。自分のツールに限界性を感じたら、一度その包丁の砥ぎ直しを外部のデザイン事務所に依頼するのもいいかもしれません。ツールは、単なる道具というよりも、開発における武器でもあるわけです。そのような意味で日常の手入れを怠らないようにしたいと思います。
今日はツールにかかわるさまざまな側面につきまして取り留めもなくしゃべってきました。すでに熟知されている方にとりましては、少し退屈だったかもしれません。また、私自身経験が浅いために、現状にそぐわないことを多々申し上げたかもしれません。今後も「デザイン研究会」の活動をとおして、こうした課題を積極的に取り上げ、得られた結果を実際のデザイン開発の場に生かしていきたいと考えています。本日は、長時間にわたりましてご清聴ありがとうございました。
(一九九四年)
図1 トータル・マーケティング・システムの概略図。
図2 デザイン開発のフロー。
図3 デザイン開発のフローとツール。
図4 「コンセプト・メイキング」段階のツール群。