この、著作集12『研究追記――記憶・回想・補遺』の第一部「わがデザイン史忘備録」は、現在、「目次」にもありますように、以下の一八の文から構成されています。 第一話 富本憲吉夫妻の経済的困苦 第二話 富本憲吉の後援者の小川正矩 第三話 富本憲吉と梅原龍三郎――国画会と民芸を巡って 第四話 富本憲吉の安堵村の生家 第五話 富本憲吉と小倉遊亀の最初の出会い 第六話 続 富本憲吉と小倉遊亀の最初の出会い 第七話 雑誌における富本憲吉特集の変遷 第八話 富本一枝の、ものをあげたがる性格 第九話 富本一枝の人助けの精神 第一〇話 中国におけるウィリアム・モリス思想の導入 第一一話 夏目漱石と《プロセルピナ》 第一二話 夏目漱石の英国留学の目的と成果 第一三話 柳宗悦のウィリアム・モリス批判 第一四話 民芸の宗教性 第一五話 ロンドンの日本協会と〈レッド・ハウス〉 第一六話 様式の混在――日本の世紀転換期から一九三〇年代まで 第一七話 小林信のその後 第一八話 続 小林信のその後 私は、一九七四(昭和四九)年四月に教育学部美術科の助手として神戸大学に採用されました。それ以降定年退職までの三九年間、教育者としてはプロダクト・デザインの実技とデザイン史の講義を行なってきました。一方研究者としては、日英の近代のデザインの歴史を主として扱ってきました。そのなかで、個人のデザイナーとしては、とくにウィリアム・モリスと富本憲吉の思想と実践に関心を寄せ、さらには、それぞれの個人研究から派生して、妻である富本一枝とジェイン・モリスの生き方にも興味をもつようになりました。二〇一三(平成二五)年三月に定年を迎えると、その後は南阿蘇(南郷谷)の小庵に移り住み、いまなお研究活動を続けています。こうしてこの地に移り、研究が進むにつれて、モリスとの関連で、夏目漱石や柳宗悦との出会いもありました。これ以外にも、今後これから思わぬ出会いが待ち受けているかもしれません。とても楽しみです。 著作集12『研究追記――記憶・回想・補遺』の第一部「わがデザイン史忘備録」は、そうした一連の既往研究から抜け落ちてしまったり、忘れかけてしまったり、あるいはまた、今後に役立ちそうな記録として書き留めておきたいと思ったりした事象に光をあて、これまでの研究にあっての欠落箇所や不備内容を補うために用意されたものです。いわば、私の研究の補遺・補足に相当します。今後も、折に触れて執筆を重ね、自分の研究周縁の断片的記録として思い出に残る「研究忘備録」にしてゆきたいと考えています。その意味で、いまだ未完の状態ではありますが、進行中の中間報告として、ここに公開させていただきます。
(二〇二二年初夏)