この第三部「画像のなかのウィリアム・モリス」につきまして、少し説明を加えさせていただきます。
視覚資料は、文字による記述以上に、多くの場合、雄弁で的確な情報を提供します。そのひとつのいい事例として、かつて私は、著作集2『ウィリアム・モリス研究』におきましては、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館が所蔵する、ウィリアム・モリスの壁紙のサンプル《キク(菊)》とグラスゴー・シティー・カウンシル(博物館群)が所蔵する、E・A・テイラーのステインド・グラスのための水彩画《時のある間にバラのつぼみを摘むがよい》を利用したことがありました。とりわけ前者の作品の画像は、私の申し出に沿って、はじめて当博物館で写真撮影がなされたもので、極めて貴重な公開資料となっています。
しかし、英国の博物館や美術館が所蔵する作品の画像を利用する場合には、学術研究が目的であろうとも、所定の使用料金を支払う必要があります。上のふたつの画像の使用に際しても、高額の料金が伴いました。そのときの経験から、そうしたかたちでの多数枚の画像の利用につきましては、一介の独立研究者の経済的許容範囲を大きく超えることが予想されるため、とりわけ、著作集6『ウィリアム・モリスの家族史』ならびに著作集7『日本のウィリアム・モリス』につきましては、そうした利用方法を断念し、明らかに版権が切れていると思われるものから複製して、視覚資料とすることにいたしました。しかもその際には、論稿ごとに関係する図版を個別にまとめるのではなく、ウィリアム・モリスに関連するすべての画像を一括して整理し、テーマごとにまとめて掲載することの方が、読者のみなさまの便益にかなうのではないかと考えました。そうした思いから編集されたものが、この第三部「画像のなかのウィリアム・モリス」です。テクストにおいては十分に描き出すことができないイメージのなかのモリスです。
そうはいいましても、版権フリーの限定されたもののなかからの複製ですので、枚数に限りがあったり、テーマによって偏りがあったりしています。加えて、古い資料からの再利用になりますので、画質が悪いものも多くみられます。しかし、古いがゆえにモリスの時代の臨場感や雰囲気を直接的に表現しているものも多数枚含まれており、隠さずに申し上げれば、当時のモリス家に存在したであろう家族のアルバムのようになることを密かに念じているのです。実際にそうなっているかどうかは、読者のみなさまのご判断にゆだねます。「本編」と「付録」、あわせて、およそ二六〇点で構成されています。お楽しみいただければ幸いです。
なお、「付録図版B.1987年のウィリアム・モリス・ギャラリー所蔵の写真から」を構成しています画像(八点)は、当時館長を務められていたノーラ・ジロウさんから、「今後の研究のために」といって贈与を受けたものです。改めてここに、謝意を表します。
(二〇二一年初夏)