※全文をPDFファイルでダウンロードしてご覧いただけます。 [PDFファイルについて] 『著作集16』PDFダウンロード (0.2MB) 更新日:2024年10月11日
ここに公開する著作集16『ひとつの思想――日本デザインの近代運動』は、次のふたつのパートによって構成されています。 第一部 日本の国家による産業美術の振興 第二部 近代日本のデザイン思想
最初の第一部「日本の国家による産業美術の振興」は、私の学問上の父である明石一男先生に捧げる論文です。明石先生は、東京教育大学へ教授としてご着任される前は、通産省の産業工芸試験所に勤務されていました。そこで、わが恩師へ献呈するこの論文は、一九三二(昭和七)年から一九七四(昭和四九)年までの四二年間、工芸指導所から産業工芸試験所へと至る国立のデザイン研究機関によって刊行された『工芸ニュース』を基本資料として、日本の国家による産業美術の振興にかかわって、その歴史を記述する内容となります。
次の第二部「近代日本のデザイン思想」は、木村一男先生への献呈論文です。私は、名古屋に国際デザインセンターが開設されようとしていた当時、木村一男専務理事から、館内に付設される予定のデザイン・ミュージアムの初代ディレクターの委嘱を受け、求めに応じて、その内容と機能につきまして提言を行なった経緯がありました。そのなかで、常設展示の一例として「日本デザインの歴史――幕末・明治から近未来まで」というテーマを挙げさせていただきました。著作集1『デザインの近代史論』の第二部「デザイン史学とミューゼオロジーの刷新」のなかの第四章「名古屋の『デザイン・ミュージアム』への提言」の箇所を参照してください。しかしこのときは、提言だけに終わり、実際に作品を収集し、展示に至ることはありませんでした。他方でこの間、私の方は、モリス研究や富本研究に明け暮れ、「日本デザインの歴史――幕末・明治から近未来まで」を主題にした文を書く機会を失っていました。このことは、いまに至るまで未提出の状態で宿題が残っていることを意味します。いまやっと長い年月を経て、自分の目をその主題に向けることができるようになりました。
明石一男先生と木村一男先生の恩義に応えるために、完成には少し時間を要すかもしれませんが、これよりのち、粘り強く筆を進めてゆきたいと思います。そして同時に、その結果として、このふたつの論文が、「日本デザインの近代運動」の一端を明らかにしてくれることを願いたいと思います。
二〇二四年四月二四日 陽春のいま、南阿蘇の森のなかの寓居にて 中山修一