中山修一著作集

著作集7 日本のウィリアム・モリス

第二部 富本憲吉とウィリアム・モリス

はじめに

私は、「ウィリアム・モリスの家族史――モリスとジェインに近代の夫婦像を探る」(著作集6『ウィリアム・モリスの家族史』に所収)の執筆に際しまして、本稿には隠されたもうひとつの執筆目的があることを書き添えました。それは、一九世紀イギリスのウィリアム・モリスとジェインの夫婦像が、時間と地域を越えて、二〇世紀日本の富本憲吉と一枝の夫婦の肖像になにがしかつながるようなことはなかったか、それを検証してみたいということでした。そこには、「近代の家族」というプロジェクトが、国際的主題として地球規模で芽生え、一九世紀から二〇世紀にかけて共時進行した可能性に対する、私の密やかな思い込みに近い確信が横たわっていました。そこで、この著作集7『日本のウィリアム・モリス』の第二部「富本憲吉とウィリアム・モリス」におきまして、ウィリアム・モリスと富本憲吉の双方の家族を対象に、その類縁性や異同にかかわって少し考察したいと思います。

(二〇二一年初夏)