01.テーマ[カレンダー]
お店より 師走にもらう カレンダー 表紙開ければ 新年登場
カレンダー 見るは祭日 連休の 並びの妙に 一喜一憂
カレンダー いよいよ来ました 最後の頁 落ち葉とともに 火の中に燃ゆ
(二〇二五年一月九日)
02.テーマ[日記]
隠したる 言うに言われぬ わがこころ 文字の力に 託しては泣く
ひらひらと かそけき風に 舞い落ちる 気持ち集めて 日記を埋める
過ぎ去りし かのとき書いた 日記帳 眺めてみては そこにいるわれ
(二〇二五年一月一六日)
03.テーマ[踊る]
聞こえくる 音にあわせて 手をたたき 体揺らして 足動き出す
夏の日に はるか忘れし 思い出を たどる手足と お囃子の音
北へ行く さすらい人の 子守歌 雪を払いて いざ口に出す
(二〇二五年一月二三日)
04.テーマ[おはよう/おやすみ]
太陽に 花瓶の花に 飼い犬に 朝と寝る前 ひと言交わす
おはようは 今日もいいこと あるように おやすみで 明日への願い そっと告げ
まっすぐに 木立を抜けて 射し入りて 夕には丸く おやすみという
(二〇二五年一月三〇日)
05.テーマ[鍵]
鍵をかけ 「森の家」にて 籠城す 女性史に立つ 高群逸枝
難問を 解く鍵探す 受験生 射すか射さぬか 天啓の陽よ
大自然 忘備無防備 何たるか 鍵もつも生 鍵なくも生
(二〇二五年二月六日)
06.テーマ[春]
春の陽に 誘われ歩く 山道に 見知らぬ野草 人見知りする
ああ春の その春のなか 春ありて 爛漫のもと 団欒のとき
福寿草 次にタンポポ 菜の花の 野に一面の 黄色の世界
(二〇二五年二月一三日)
07.テーマ[雪]
暖かき 部屋から眺む 庭の雪 白の衣装に 綿の温もり
一夜明け 一面雪の その上に 一筋続く 足跡ありき
風しきる 白き舞にて 忘れ雪 これを最後と さよならをいう
(二〇二五年二月二〇日)
08.テーマ[ありがとう/うれしいです]
ありがとう なぜ言わないの 自分から 言えばこころに 灯がともるのに
いただきが 見えてそのとき ありがとう 最後の一歩 天辺に立つ
喜寿迎え うれしさ半ば 見上げれば 星が流れて いざ消えてゆく
(二〇二五年二月二七日)
09.テーマ[青空]
青空の 青は何色 問いにして 見上げる空の 青のまぶしさ
青空に 風船飛ばす そのときに 祈りも託し わが手離さむ
青空を かける白馬に またがった 自分を眺める 野に転がりて
(二〇二五年三月六日)
10.テーマ[物語]
物語 それを語らん その人の 物語見え 物語消ゆ
久々の あの物語 これもまた 思い出しては 草露に帰す
夕しぐれ 軒下に立って 物語る 名もないふたり 旅の行く末
(二〇二五年三月一三日)
11.テーマ[書く]
書いてみて はじめてわかる 人の世の 残忍さとか 傲慢さとか
ものを知り ものを書いても もの足りぬ 浮かんでは消ゆ 幻の詩よ
五〇年 いつしかわれも 物書きに 流れ流れて 行く先いずこ
(二〇二五年三月二〇日)
12.テーマ[さよなら/おげんきで]
さよならと 告げる言葉の その陰で いつか会えると 手を握りしむ
雨の日の さようであれば 今日限り 傘をささずに それぞれの道
年賀状 お元気ですか 尋ねしも 届く賀状も お元気ですか
(二〇二五年三月二七日)
13.テーマ無し
母を追い父親さえもいまはなし 叱られたこともありしが草の露 行きたしや望郷のあの父母の村 風に乗り聞こえし声は何という 叱られしいまは自由かかぐや姫 夫との一体の理想があればこそ ああ孤独の自由を得ようぞいま 森の家の双頭蛇となり人を断つ
(二〇二五年四月三日)
14.テーマ[花]
咲く花に 染められ遠き 山肌を 眺むる吾は 独りなりけり
時過ぎて 風に誘われ 舞い散りし 花のいのちに 残り香を知る
はかなくも 散るを悟りて 咲く花の いまを盛りに 人を照らす夜
(二〇二五年四月一〇日)
15.テーマ[四月]
寒さ過ぎ 時節の風に 誘われて いまや四月と 人舞い踊る
変わらずに 咲く花に似て この四月 人が変わりて 景色が変わる
菜の花と タンポポの黄に 染まりし野 いのちの息吹 吾を励ます
(二〇二五年四月一七日)
16.テーマ[いのち]
ことごとく ふさがれていま いのちつき 生まれ変わりの 道どこにある
周りから 虐げられて 泣き崩れ 生き返りたい あの風に乗り
生き直し いよいよ決し 群れを避け 頼るはひとつ 己の身のみ
(二〇二五年四月二四日)
17.テーマ[私だけの発見]
見たことも 聞いたことさえ ないことを われひとり知り こころに埋める
夕暮れに ひとり行く身の ひとりごと いつしか闇が 飲み込む定め
たそがれに 名を呼びて 振り向けば 虚なる調べを ただわれ知れり
(二〇二五年五月一日)
18.テーマ[たからもの]
忘れざる 物も自然も 体さえ 消えてゆくなり かなたの果てに
惜しみなく 与えしあの日の あのことば いま振り向けば 空にて虚なり
何もない 何ひとつない かの地平 たからものなど あるはずもない
(二〇二五年五月八日)
19.テーマ[散歩]
野草園 老いしわが身の 足取りも 朝露のなか ナメクジに似て
歩を緩め 人と交わせる あいさつの その会話にも 緑染み入る
今日もまた 同じ散歩の そのあとに 足はそのまま 温泉に向く
(二〇二五年五月一五日)
20.テーマ[数や記号]
含まれる 記号の意味の 多様性 月には月の 星には星の
限りない 数の並びの 無限性 見果てぬ夢も 尽くせぬ文字も
数を見て 記号になびく その果ての 抽象のもつ 具象の輝き
(二〇二五年五月二二日)
21.テーマ[最初の記憶]
いまそこの 最後の記憶 砕け散り 向かうはひとつ 原初の記憶
その昔 この世が生まれ 刻まれし 青と緑の 歴源記憶
思い出も 落葉となりて 堆積し 語り出すのは 最初の記憶
(二〇二五年五月二九日)
22.テーマ無し
露に濡れ 輝く時の そのときの ああ麗しき いのちの美園
雑草の 冷たき土の 合間から まっすぐ伸びる 今日もまたあり
カッコーも ホーホケキョも 力なく いつしか終わる 冷酷の春
(二〇二五年六月五日)
23.テーマ[道]
影法師 道なき道を 道として 歩いてみれば いつしか道に
世に迷い どこにあるかを 問われれば ある道もあり ない道もある
大勢で 一緒に歩く 者あれば 虚しくわれと 進む孤の人
(二〇二五年七月一〇日)
24.テーマ[猫]
思い出は わが家に昔 ペルシャ猫 青い目をして 白毛を誇り
ある婦人 数匹の猫 友にして 言葉を交わし ともに遊びぬ
ふれあいの その極まりに 猫がいて かわいくなでし 暖炉の前で
(二〇二五年七月一七日)
25.テーマ[宇宙]
夏の夜の 宇宙の果ての その先に 古代人見て われを眺むる
いまわれも 宇宙のなかの 一箇所に 生まれて生きし 時間を思う
かすかなる 鳥の響きに 虫の声 思えば宇宙 身の隣りにも
(二〇二五年七月二四日)
26.テーマ[怖かったこと]
絵空事 書いて楽しむ 人あれば 書かれて裂ける 生のこころあり
道端に シカが飛び出し 接触し 屋根の上には サルの集団
キャンプ場 テントのなかに しみわたる 怪談話に 凍りつく夜
(二〇二五年七月三一日)
27.テーマ[夏]
夏のない 森のなかに たたずめば 嗚呼なつかしや まばゆき日差し
この年も 日差しのなかに 意を決し 過行く時を 思い切り抱く
春を見て 夏を踊りて 秋の空 向かうは例の 白き山肌
(二〇二五年八月七日)
28.テーマ[デザート]
デザートに プリンを食べて みましたよ 宇宙の果てに 着いたようです
さああなた あなたもどうぞ 召し上がれ 私がつくった デザートです
どうでしょう 今日のデザート いかがです 疲れをいやす 色と味です
(二〇二五年八月一四日)
29.テーマ[理科室]
おおそこは 宇宙がありて 化石あり 時間に触れて 空間を知る
恐竜も マンモスもまた 生きていた 過去にもどりて いまの小さき
絶滅の 危惧種調べて 人間の 愚かさ笑う 我も人間
(二〇二五年八月二一日)
30.テーマ[ついてしまった嘘]
きのうきょう 嘘も真も 生きるため ネットのなかの 人のにぎわい
真実は 遠くかなたに 消えにけり 嘘の力に 押し流されて
何ゆえに 嘘をつくのか 調ぶれば 人間のなか 闇に隠るる
(二〇二五年八月二八日)
31.テーマ[音]
森の夜 テントに入って 寝ころべば あるはいるはの 大音響
風強し 草がなびいて 木がすれて 傘宙に舞い わが身傾く
星屑の 数百万へ 深夜便 話し手独り 聞き手も独り
(二〇二五年九月一一日)
32.テーマ[旅]
あてもない 迷いの旅の 道すがら 地に石ありて 天に星あり
旅人の ああ旅人の 行く先は 海底深い 暗闇の宮
旅にあり 生きるも死ぬも そのときは 風に吹かれて 雨に打たれん
(二〇二五年九月一八日)
33.テーマ[ちいさいもの]
生き物の いのちはすべて 同じなり 大なりに生き 小なりに死す
かに見ゆる 小さきものの 心意気 その大きさに 人は震える
いざ往かん 小さき力 引っ提げて わが父となる いつか見る月
(二〇二五年九月二五日)
34.テーマ[昔の自分と話せるなら]
過ぎ去りし 過去の自分に 向き合って この飯つくり あの本を読む
過去は過去 しかし過去にも いのちあり 訪ねてみると しみじみが寄す
わが昔 何も知らずに 生きていた さりとて今は 何か知るかや
(二〇二五年一〇月二日)
35.テーマ[雲]
白雲を 越えて往かんか いまこの日 明日は漂泊 次は白骨
雲なれば 消えてゆくのも 道理なり 消えずに残る 未練と懐古
雲がゆく いずこへゆくか あの雲は 草木も知らず 人も尋ねず
(二〇二五年一〇月九日)
36.テーマ[家事]
梅の木を 愛でて水汲み 家事をして 仕事が終わる 妻を待つ夕
ああ太古 住みたる女 その人に はやりの歌を 聞かせる男あり
何ゆえに 家事は女が するのかえ このおもしろき われに給えあれ
(二〇二五年一〇月一六日)
37.テーマ[気候/気象]
天を見て 色を見るのは われのみか 銀の朝日に 沈む緋の射し
見上げたる 天の動きに 何を見る いまは落雷 明日は大雨
昨今の 天の変動 地の動き すべてにあるは 人の悪行
(二〇二五年一〇月二三日)
38.テーマ[目覚めても忘れられない夢]
目覚めても 忘れられない その夢は 語るもできず 隠すもできず
まどろめば 百年前の あの人に 会し語りし つかのまの恋
そのときが いつかは来ると 知りながら 今夜も行かん 夢のかなたへ
(二〇二五年一〇月三〇日)
39.テーマ[固有名詞を入れる]
おずおずと 名前を聞きし その方の くれし名刺を 帯におさむる
野にあって 名もない花も 生き物も 何も困らず みな生きている
価値は名に あらずと知るも 聞きたがる それはだれなの それはなになの
(二〇二五年一一月六日)
40.テーマ[好きな色]
古糸の 色と色とを 組み合わせ 穴の靴下 繕うも良し
陽が射して 洗濯バサミ その色に 合わせて選ぶ 干し物眺む
眺むれば 森の自然の その色は 昨日を忘れ 今日に輝く
(二〇二五年一一月一三日)
41.テーマ[人体]
人体の 模型居並ぶ 理科室の 虚構の姿 日常と化す
人体の 内臓描く 細密画 知識の欲望 感情を消す
ダ・ヴィンチの 「神の手」はいま 姿変え 手術を担う 「神の手」となる
(二〇二五年一一月二〇日)
42.テーマ[初恋]
初恋の 声かけられず 手紙書く いつかふたりが 結ばれるよう
今日もまた みそめし人は 日傘さし 大人のような なり漂わす
しみじみと 思いめぐらせ 行き着くは 膨らみいずる ああ美なる夢
(二〇二五年一一月二七日)
43.テーマ[オノマトペを入れる]
ザーザーと 降りしきる雨 横目に見 スヤスヤと寝る わが子かわいし
思い切り ねじり鉢巻き わら草履 ドンドンピーヒャラ チンチンカン
オオと アアといおうが 時遅し フラフラ倒れ エンエンと泣く
(二〇二五年一二月一一日)
44.テーマ[電話]
かけにけり 公衆電話 ありし日に 故郷の人に 愛する人に
電話番 同じ文句を 繰り返し 頭を下げて メモたたみけり
呼び鈴の その音色にも ときめかす 思いの色が 響き合いしも
(二〇二五年一二月一八日)
45.テーマ[かたち]
この世から 色もかたちも なくなれば 何がわが目に 映るのだろう
影が揺れ かたちが融けて 地肌出る なぜ影はある どう地肌ある
かたちある すべてのものが 溶解し そのあとに来る かたちを見たい
(二〇二五年一二月二五日)
自主詠詩02.わが高群逸枝に捧げる詩
夫との 一体の理想が あればこそ ふたりして 孤独の自由を 得ようぞいま 行きたしや 望郷のあの父母の村へ
(二〇二五年一二月三一日)
自主詠詩03.わが高群逸枝と石牟礼道子に捧げる詩
夫が用意し「森の家」 「古事記伝」ひとつを前にして 群れから離れ人を断ち 向かうは古代の闇のなか 鉱脈は有るや無しや知る人なし 定めし神代の天啓か その日の勝利に胸躍る 母系制も招婿婚も 手にしたわが女性史学 ああ完成なるや 別れのときのそのときの 吐息のなかに神を見る わが夫にすべてをゆだね 思いはひとつ「一体化」 ああこのいのち尽きにけり ああ思えば七夕前夜の八代の宿 その日相まみえて幾十年 ふたりして重ねし愛のその誠 「全集」に編んで永遠に いざ火の国の藤野と静子が待つ水俣へ 妻と帰ろ帰ろ 生まれ故郷の火の国へ ここで墓建て守りをする 雑誌つくって偲ぼうぞ 水俣秋葉山風ばかり 何ゆえにわが夫婦を貶める 責めてくれるな妻だけは 何か悪事をしたのかい 妻にもわれにも人権あり その尊さ文筆家知らず 狂気の祖母に酒乱の父 線路に散りしわが弟よ 吐血したこの魂をいかんせん 自分の死それとも死者への詩文なりや 教えてくれ誰か教えてくれ ある日手にした「女性の歴史」 電流となってわが身を走る 誰の書かれし書なるや 会いたしその人に会いたし わがいのちの生き返りをかけて 一九六六年六九歳の憲三と三九歳の道子 国鉄水俣駅のホームにふたり立ち 東京行きの急行「霧島」に乗り込むは 逸枝の霊魂宿るあの「森の家」へ向けての 生まれ変わりのための道行きなりや 私は彼女をどう讃美すべきか 言葉見つからず罪覚ゆ 私は彼女を受胎し 彼女は私を身に宿す ああわが産室よ「森の家」 うつし世にわが母はあるけれど 生まれ変わりのそのときの 大妣君を慕いてわれ生きる ああわれその夫を「最後の人」に 契るは残りの後半生 われ書かん「最後の人」を 雑誌に載せし幾年も 思えばいまは夢なりき 「寒椿が」この言葉を最後とし ああ「最後の人」は隠れたる 典雅なるわが恩師 教えしことのその先に 愛あり苦あり死さえも 悪意に満ちたうつし世に 堪えて忍びて追慕する いわずここまで秘しにける わが思いの「最後の人」 齢八五歳のこのときに 語りて閉じるああ無常 いかんせんこの人生 愛し愛され散りゆく花が 独り静かに小舟に乗るも光る稲妻それを打つ 差し出す「最後の人」の手に すがりて往くは大妣君(おおははぎみ)の不知火海 天草灘海底(うなぞこ)のああ〈沖宮(おきのみや)〉