中山修一著作集

著作集13 南阿蘇白雲夢想

第一部 詩歌の夢の響き(詩歌集)

第二編 人生を見つめて

[001]
追わず
求めず
止まらず

[002]
個人 個性 個戦
孤独 孤高 孤軍
ひたすら 個孤として生きる

[003]
死を愛さず
さりとて死を拒まず
生のままに立つ

[004]
地を見ず 天を仰がず
前を見ず 後ろを向かず
ただ 我が身をじっと見つめる

[005]
心にさざなみが立ち
想いが渦を巻く
夜光虫の輝きに抗うように
白く 泡音をたてながら

[006]
時に 忘れかけた人を思い出す
時に すれ違った人を振り返る
時に 明日会う人に語りかける
時の無邪気さ
憎むべきか 感謝すべきか

[007]
行きたければ 行くがいい
帰りたければ 帰るがいい
誰も引き止めず
誰も悲しまず
虫だけが 木陰で 鳴いている

[008]
名を誇らず
力を驕らず

朝の空に おはよう
夕べの空に またあした

時を憂えず
人を恨まず

南の人に 暑くはないか
北の人に 寒くはないか

[009]
白い日傘にさえぎられ 日差しは中へ入れない
夜のとばりに囲まれて 中の様子はわからない
固い鎧に拒まれて 所在無く 名を呼んでみる

[010]
いつものように 日が昇り
いつもになく 涙する

いつものように 鳥が鳴き
いつもになく こころ乱れる

いつものように 花が咲き
いつもになく 血が落ちる

[011]
天を仰ぎみて
そう 目を伏せず そして語らず

地に立って
そう 逃げ出さず そして媚びず

人に交わって
そう 埋もれず そして目立たず

[012]
花の姿は 花には見えず
花の香りは 花に届かず

人の心は 人には見えず
人の想いは 人に届かず

[013]
天空に抱かれて
海を渡る
自分がいる

草原に寝そべって
夢をかける
自分がいる

人びとに交わって
愛を語る
自分がいる

[014]
草をひく
小枝を落とす
集めて乾かす

煙が立ちのぼり
西へ流れて
夕日と交わる

[015]
独り善がりの一人芝居
自己満足と自己嫌悪
騒いでしまった愚かな自分だけが残った

[016]
背中に彫ったものは
人に見えて自分には見えず

胸に刻んだものは
自分に見えて人には見えず

[017]
人を
問いつめてはいけません

人を
追いつめてはいけません

人を
見つめてください
優しく 包み込むように

[018]
あわてず
あせらず
あきらめず

思いを込めて
遠くを見つめて
一歩を踏みしめる

[019]
昇りゆく朝日に照らされて 露天風呂
森羅万象 すべての命が蘇える
ああ この世のよろこびよ

暮れなずむ夕日に抱かれて 露天風呂
時空千里 すべての営為が沈みゆく
ああ この世のせつなさよ

[020]
白煙に思う 人の業
湯煙に思う 人の情

彼岸花 まっすぐ赤く 畔に咲き
どんぐり 音をたてて 屋根に散る

問わず語らず 夢化粧
触れず触らず 夢衣装

[021]
大阿蘇をわがものとして生きる
風が吹き 雨が降り 虹が出る

今日も 変わることなし わが大阿蘇よ
明日も 代わるものなし わが大阿蘇よ

[022]
愛したくとも
愛する人を失った人がいる
いかに支えればいいのだろう
同じ想いを重ねてみる

生きたくとも
生きる場を失った人がいる
ああ どのような言葉も消えてゆく
そっと隣に座る

[023]
話したくても 話せないとき
泣きたくても 泣けないとき
死にたくても 死ねないとき

心に闇が生まれ 抗いが起こる
いつしか 光に照らされながら
諦観と自脱 すべてが無に帰る

[024]
柱時計が時を刻む
時刻には鐘が鳴る

一緒に数を数える
一で始まり一二まで数える

一で始まり一で終わるとき
無限の空白が続く

[025]
心平の わんわんわんが 迫りくる
いまなお続く 阿蘇の大地に

[026]
漱石を 尋ね求めて 内牧
二百十日の 恵比寿はありや

[027]
家がたち
くれない染まる森のなか
あすのいのちを
ひそかに願う

[028]
山の上
紅いもみじに照らされて
契りを交わし
いま並び立つ

[029]
震災に
娘の春を
そっと見る

[030]
かの山は 春夏秋冬 色変わり
住む人同じ 移り気ありや

[031]
春眠や
とろりとろりと
夢ん中

[032]
春眠や
生まれはじめへ
里帰り

[033]
春の日に
忘れかけてた
眠りかな

[034]
何もなく
素足で駆け出す
子どもかな

[035]
母を見て
飛び出す子どもは
素足なり

[036]
素足見る
痛みと土の
香りかな

[037]
やってはいけないことは 決してしない
どんなに誘惑があろうとも

やるべきことは 断固やる
どんなに困難があろうとも

流れゆく、心清くに 身を正す
さまよえる、心熱くに、身を立てる

[038]
自分を思うように
他の人を思いなさい

他の人を大事にするように
自分を大事にしなさい

[039]
苦に向かい
わが身は常に
夢に在り

泣きぬれて
わが身は常に
夢に在り

生きて死ぬ
わが身は常に
夢に在り

[040]
夏休み
解かずに眺むる
参考書

[041]
八月に
会えて悲しや
虫が鳴く