中山修一著作集

著作集13 南阿蘇白雲夢想

第一部 詩歌の夢の響き(詩歌集)

第一編 自然を讃えて

[001]
人の言葉にまさるもの
花の香 虫の音 葉の緑
そっと近づき 耳をそばだてる

[002]
たそがれに
一路行くなり
黙の蟻

[003]
ガラス窓に差し込む木漏れ日
風に揺らぐ木々の動きに合わせて
陰影の波が生じる

窓を開けてみる
紅葉を控えた木々の葉が
静かにその時を待っていた

[004]
風が木々に息を吹きかける
葉は惜しげもなく乱れ散る

落ちた葉は雨の露をためる
装った大地が天空を照らす

[005]
猿が木々を揺らし
蛇が草むらを這う

池に水鳥が舞い降り
呼べば狸が寄って来る

[006]
晩秋に
色見の一灯
ここにあり

[007]
雲が流れる
風が流れる
川も流れる

はじめもなく 終わりもなく

鳥が帰る
虫が帰る
牛も帰る

温かい 住処のなかへ

日が沈み
月が昇り
星が輝く

この世のすべてを 見守るように

[008]
少し前までは にぎやかに
どんぐりの実が 屋根をたたいていた

それからしばらくたって いまは
乾いた木々の葉が 屋根を転がり落ちていく

手つかずの雪が 静かに屋根を覆う
もうそこまで その日が近づいている

[009]
寝湯に身を伸ばす
湯煙が風に舞い上がり
色づいた山の葉と戯れながら
灰色の雲に吸い込まれていく

[010]
女湯と男湯を隔てる笹垣に
交わって
さざんか二輪が咲いていた

[011]
乾いた風が無情にも
紅い葉っぱを吹き散らす
冬の支度に余念なく

冷たい雨が容赦なく
紅い葉っぱを地に落とす
明日降る雪にせがまれて

[012]
寒九来て
裸の木々に
めぐみ雨

[013]
日が昇り
冠雪の山肌を輝き照らす
牧場の馬は凛と立ち
日の光に息を吹きかける

[014]
雲海に包まれ
阿蘇の山々がその身を隠し
田畑も生き物も息を潜める
深く静かに時は止まる

[015]
雪が降り 山道に積もる
轍ができ 靴跡が残る
日が出て すべてを消し去る
何もなかったように

[016]
大寒の
雨に潤う
木肌かな

[017]
露天の寝湯に 身を伸ばし
朝寝楽しむ 冬の阿蘇
閉じた瞼に 光射し
白雲夢想 消えにけり

[018]
奥山に
みやび一輪
寒椿

厳寒の
一輪暮らし
静かなり

寒椿
人は人なり
我は我

[019]
厳冬のなかにも
綿菓子のような
やわらかい日和あり
ありがたきかな

[020]
里山の
みぞれ降り散る
立春に
鶯いずこ
梅の香はるか

[021]
積もる雪
白いきつねの
肌に似て

つややかに
細く輝く
夜の明かり

風が舞い
吹き乱れる
そのなかで

積もった雪も
たゆむ枝から
消えてゆく

[022]
白雪の
宴のあとは
ほのぼのと
しずくとなりて
春を呼ぶ

[023]
寒卵
ごはんの上に
鎮座せり

[024]
雪とけて
小川のいのち
せせらぎぬ

[025]
雪しずく
わが身けずって
地に落ちる

[026]
山鳥の
春を望みて
友を呼ぶ

[027]
寒中の
森を駆け出す
小鹿たち

[028]
雪道を
いっしょに歩く
キジと我

[029]
セキレイの
声をあげての
雪遊び

[030]
花の舞い
散ってちらつく
月明かり

[031]
咲いて散りゆく山桜
素にして朴なり
羨まし

[032]
山里に
訪れし春
一心行

[033]
山月夜
桜の花が 湯煙を
誘い乱れて いま散り盛る

[034]
小雨降る
高森峠 九十九の
曲りを重ね 千本桜

[035]
朝霧に 静かに濡れる 森のなか
小鳥の息吹 いま聞こえくる

[036]
たそがれて 雑木の森に
こころ向く
色香輝く 薔薇園に増し

[037]
風吹いて 木々が揺れ
木々揺れて 日差し舞う
雑木よ 何歌う
雑木よ 何を泣く

[038]
早朝に 杉の林を まっすぐに
射して分け入る 日の光

[039]
阿蘇五岳
初冠雪に
身を飾り
南郷谷に
光りさす

[040]
紅の葉は
雪と戯れ
杉静か

[041]
野 霜降り
山 朝焼ける
大阿蘇の
静かな祈り
大地にしみる

[042]
山桜 散るを悟りて風に舞う
花忍 青紫の衣にて人を待つ
彼岸花 阿蘇原頭を染めて立つ
寒椿 漆黒の闇に紅をひく

[043]
気がつけば
西のかなたに
夕陽あり

[044]
美しき
阿蘇より出づる
日の光り
託麻の原に
いま降り注ぐ