[001] 人の言葉にまさるもの 花の香 虫の音 葉の緑 そっと近づき 耳をそばだてる
[002] たそがれに 一路行くなり 黙の蟻
[003] ガラス窓に差し込む木漏れ日 風に揺らぐ木々の動きに合わせて 陰影の波が生じる 窓を開けてみる 紅葉を控えた木々の葉が 静かにその時を待っていた
[004] 風が木々に息を吹きかける 葉は惜しげもなく乱れ散る 落ちた葉は雨の露をためる 装った大地が天空を照らす
[005] 猿が木々を揺らし 蛇が草むらを這う 池に水鳥が舞い降り 呼べば狸が寄って来る
[006] 晩秋に 色見の一灯 ここにあり
[007] 雲が流れる 風が流れる 川も流れる はじめもなく 終わりもなく 鳥が帰る 虫が帰る 牛も帰る 温かい 住処のなかへ 日が沈み 月が昇り 星が輝く この世のすべてを 見守るように
[008] 少し前までは にぎやかに どんぐりの実が 屋根をたたいていた それからしばらくたって いまは 乾いた木々の葉が 屋根を転がり落ちていく 手つかずの雪が 静かに屋根を覆う もうそこまで その日が近づいている
[009] 寝湯に身を伸ばす 湯煙が風に舞い上がり 色づいた山の葉と戯れながら 灰色の雲に吸い込まれていく
[010] 女湯と男湯を隔てる笹垣に 交わって さざんか二輪が咲いていた
[011] 乾いた風が無情にも 紅い葉っぱを吹き散らす 冬の支度に余念なく 冷たい雨が容赦なく 紅い葉っぱを地に落とす 明日降る雪にせがまれて
[012] 寒九来て 裸の木々に めぐみ雨
[013] 日が昇り 冠雪の山肌を輝き照らす 牧場の馬は凛と立ち 日の光に息を吹きかける
[014] 雲海に包まれ 阿蘇の山々がその身を隠し 田畑も生き物も息を潜める 深く静かに時は止まる
[015] 雪が降り 山道に積もる 轍ができ 靴跡が残る 日が出て すべてを消し去る 何もなかったように
[016] 大寒の 雨に潤う 木肌かな
[017] 露天の寝湯に 身を伸ばし 朝寝楽しむ 冬の阿蘇 閉じた瞼に 光射し 白雲夢想 消えにけり
[018] 奥山に みやび一輪 寒椿 厳寒の 一輪暮らし 静かなり 寒椿 人は人なり 我は我
[019] 厳冬のなかにも 綿菓子のような やわらかい日和あり ありがたきかな
[020] 里山の みぞれ降り散る 立春に 鶯いずこ 梅の香はるか
[021] 積もる雪 白いきつねの 肌に似て つややかに 細く輝く 夜の明かり 風が舞い 吹き乱れる そのなかで 積もった雪も たゆむ枝から 消えてゆく
[022] 白雪の 宴のあとは ほのぼのと しずくとなりて 春を呼ぶ
[023] 寒卵 ごはんの上に 鎮座せり
[024] 雪とけて 小川のいのち せせらぎぬ
[025] 雪しずく わが身けずって 地に落ちる
[026] 山鳥の 春を望みて 友を呼ぶ
[027] 寒中の 森を駆け出す 小鹿たち
[028] 雪道を いっしょに歩く キジと我
[029] セキレイの 声をあげての 雪遊び
[030] 花の舞い 散ってちらつく 月明かり
[031] 咲いて散りゆく山桜 素にして朴なり 羨まし
[032] 山里に 訪れし春 一心行
[033] 山月夜 桜の花が 湯煙を 誘い乱れて いま散り盛る
[034] 小雨降る 高森峠 九十九の 曲りを重ね 千本桜
[035] 朝霧に 静かに濡れる 森のなか 小鳥の息吹 いま聞こえくる
[036] たそがれて 雑木の森に こころ向く 色香輝く 薔薇園に増し
[037] 風吹いて 木々が揺れ 木々揺れて 日差し舞う 雑木よ 何歌う 雑木よ 何を泣く
[038] 早朝に 杉の林を まっすぐに 射して分け入る 日の光
[039] 阿蘇五岳 初冠雪に 身を飾り 南郷谷に 光りさす
[040] 紅の葉は 雪と戯れ 杉静か
[041] 野 霜降り 山 朝焼ける 大阿蘇の 静かな祈り 大地にしみる
[042] 山桜 散るを悟りて風に舞う 花忍 青紫の衣にて人を待つ 彼岸花 阿蘇原頭を染めて立つ 寒椿 漆黒の闇に紅をひく
[043] 気がつけば 西のかなたに 夕陽あり
[044] 美しき 阿蘇より出づる 日の光り 託麻の原に いま降り注ぐ