中山修一著作集

著作集24 残思余考――隠者の風花余情(上)

第二部 火の国不死鳥(俳句編)

第一編 旅人行雲(二〇二三年/令和五年)

01.兼題[虫]

 虫鳴かず 秋の来る日が 疎ましい

 虫消えて 音無き空虚 耐えられぬ

 虫たちも 空を見るのか 月が在る

(二〇二三年一〇月二七日)

02.兼題[七五三]

 七五三 心を揺する 響きあり

 七五三 写真館に 足が向く

 手に揺られ 家路を急ぐ 千歳飴

(二〇二三年一一月一〇日)

03.兼題[冬構え]

 赤も黄も すべて燃やして 冬構え

 冬構え 山野に消えし 人の影

 庭の木々 身ぐるみ捨てて 冬構え

(二〇二三年一一月一七日)

04.兼題[落葉]

 さくさくと 足から伝わる 落ち葉声

 落葉の 錦絵踏むなり われの悦

 落葉を 集めて燃やし 年終わる

(二〇二三年一一月二四日)

05.兼題[手]

 少しずつ わが幼子の 手を離す

 ひらひらと 手を差し出せば 落ち葉舞う

 手をにぎり 明日また来てと 母は言う

(二〇二三年一二月一日)

06.兼題[おでん]

 白き庭 きょうもあしたも おでん鍋

 こたつ人 おでん食らって 足伸ばす

 おでん見て 何から食べる 湯気のなか

(二〇二三年一二月八日)

07.兼題[薬喰い]

 ハンターの 人影多し 薬喰い

 薬喰い あと十年 いのち延び

 土鍋沸く 森の生なり 薬喰い

(二〇二三年一二月一五日)