中山修一著作集

著作集7 日本のウィリアム・モリス

第二部 富本憲吉とウィリアム・モリス

おわりに

長くなりましたが、これをもちまして「第五節 社会主義と家庭生活」を閉じ、同時に、「富本憲吉とウィリアム・モリス」を結びたいと思います。確かに、上に述べてきましたように、ウィリアム・モリスと富本憲吉の双方の家族には、共通点が見受けられます。もちろん相違点もあります。しかし、厳密に比較実証されたものでない以上、感想はあっても結論はなく、かかる諸点を、この段階でことさら強調しても、あまり意味をなすとは思えません。まだまだ地道な研究の積み重ねが必要なようです。

今日にあってモリスの全体像は、デザイナー、著述家、企業経営者、政治活動家、環境保護運動家としての幾つもの側面から分析されることが一般的です。また、モリスの妻や娘についての研究も進んでいます。他方、富本の活動も、述べてきましたように、多様な側面を有します。これまでの富本評価は、「陶芸家」としての絶対的な側面が独走する傾向にありました。しかし今後にあっては、矮小化されたその一語に代わって、「デザイナー」「詩人」「カリグラファー」「イラストレイター」、そしてまた「社会主義者」としての富本の複雑で多彩な全体像が、学術的に検証されなければなりません。さらには、妻一枝に関しましても、その研究は緒についたばかりで、発展の余地が多く残されています。

一九世紀英国のモリスとその家族、対するは、二〇世紀日本の富本とその家族――デザイン史の文脈からだけではなく、それを含む、日英の女性史、家族史、思想史、政治史、経営史、環境史、さらには文化史、文学史、書道史、絵画史、建築史などの多様な視点からの総合研究が待たれるところです。その意味で、本稿がその一助となれば、著者として、その喜びに勝るものはありません。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(二〇二一年六月)