中山修一著作集

著作集24 残思余考――隠者の風花余情(上)

第二部 火の国不死鳥(俳句編)

第三編 紫陽花と彼岸花(二〇二五年/令和七年)

01.兼題[双六/絵双六]

 双六や いつかはきっと ゴール来る

 双六や いのちまかせる サイコロに

 双六も カルタもみんな 冬眠か

(二〇二五年一月八日)

02.兼題[初鏡]

 初鏡 今年も見るか わが心

 姿見る 前も後ろも 初鏡

 初化粧 紅引く筆に 祈り込め

(二〇二五年一月一五日)

03.兼題[寒椿]

 竹藪に 二輪交わり 寒椿

 雪が舞う わが庭の華 寒椿

 寒椿 咲いて短い いのちかな

(二〇二五年一月二二日)

04.兼題[コーヒー]

 喫茶店 いまはコンビニ 紙コップ

 豆を挽き お湯を注いで さあどうぞ

 コーヒーや 香りと味と 黒に酔う

(二〇二五年一月二九日)

05.兼題[薄氷(うすらい)]

 薄氷を 割って食べたる 陽だまりで

 薄氷を 足でたたいて 水遊び

 薄氷を 手にして落とす モンスター

(二〇二五年二月五日)

06.兼題[春セーター]

 春色の 買ったセーター まだ早い

 セーターに 春を詰め込む ショッピング

 セーターを 替えて楽しむ 春の陽に

(二〇二五年二月一二日)

07.兼題[梅]

 紅白の かそけき梅の 山に咲く

 梅の下 咲く花びらに 暖を見る

 残る寒 梅見楽しや 紅と白

(二〇二五年二月一九日)

08.兼題[春泥]

 春泥に 身を寄せ合わす 子どもかな

 春泥や 今年はじめの 水遊び

 雪が融け 水が流れて 土なじむ

(二〇二五年二月二六日)

09.兼題[囀り(さえずり)]

 囀りに 目覚めしわれは 巣箱かけ

 あちこちに 囀り渡り 森響く

 囀るも 山はまた雪 立ち止まる

(二〇二五年三月五日)

10.兼題[卒業]

 いまここに 業を卒する 別れかな

 卒業は 学婚人の 区切りなり

 卒業の 遅い早いの 違いあれ

(二〇二五年三月一二日)

11.兼題[田楽]

 田楽や 阿蘇高森に 姿あり

 囲炉裏端 つるのこ芋を 焼いて食う

 火が起こり いま田楽を 串にさす

(二〇二五年三月一九日)

12.兼題[スリッパ]

 スリッパや 今日から夏に 衣替え

 スリッパの 合わぬ異国の 大男

 羽田にて 草履を買いし 異国人

(二〇二五年三月二六日)

13.兼題無し

 見物に 九十九曲り 山ザクラ

 山ザクラ 咲いていいかと 聞きにけり

 甘酒を お代わり重ね 山ザクラ

(二〇二五年四月二日)

14.兼題[アスパラガス]

 フキノトウ アスパラガスに 何を見る

 大阿蘇や ツクシ芽を出し アスパラ続く

 天ぷらは アスパラガスの 一点盛り

(二〇二五年四月九日)

15.兼題[海]

 舷の下 照らし輝く 海ボタル

 八月の 恋する海に 抱かれて

 白い帆に 風をはらませ 海の上

(二〇二五年四月一六日)

16.兼題[桜・花]

 風吹いて わが家のさくら 舞いにけり

 花びらが 庭一面を 隠したり

 空から地 薄桃色の 大変化

(二〇二五年四月二三日)

17.兼題[燕]

 軒下で 急ブレーキの 親ツバメ

 ツバメの巣 土とわらとに 唾液混ぜ

 空中で 旋回披露 芸ツバメ

(二〇二五年四月三〇日)

18.兼題[麦の秋]

 金色の さらさら揺れる 麦の秋

 幼き日 食べた麦飯 とろろかけ

 麦の秋 青と緑の 空と山

(二〇二五年五月七日)

19.兼題[空]

 青春の 空を見上げて 勇気湧く

 探しても 空にあるもの 見つからず

 病む体 空も病むのか 聞いてみた

(二〇二五年五月一四日)

20.兼題[祭]

 遠くから 祭りのはやし 聞こえくる

 日暮れて 祭りに集い 綿菓子を

 思い出は あの日あの夜の 祭りの音

(二〇二五年五月二一日)

21.兼題[自転車]

 自転車の 操作伝授の バトン継ぐ

 自転車や 歩きを越えて 空を飛ぶ

 自転車で きずな深める 父と子の

(二〇二五年五月二八日)

22.兼題無し

 枯木から 葉を出す緑 陽に光り

 栗の花 散りて間もなく 梅雨入りか

 新緑や 雨に洗われ 輝きぬ

(二〇二五年六月四日)

23.兼題[氷水]

 風に揺れ たなびく旗の 「氷」かな

 どれ選ぶ 「氷」にかける 蜜の色

 味よりも 体凍らす かき氷

(二〇二五年七月九日)

24.兼題[雲]

 雲流れ 雲たなびきて 雲湧きぬ

 見上げても 子のときに見た 雲はなし

 どこへ行く どこから来たの その雲は

(二〇二五年七月一六日)

25.兼題[滝]

 しぶきあげ 滝に清める 身とこころ

 朝もやの 滝音聞いて 目を覚ます

 はね返す 肩に重たい 滝水を

(二〇二五年七月二三日)

26.兼題[虹]

 雨上がり 東の山に 色の橋

 七色の 円弧を描く 幾何模様

 誘われて 虹を渡れば そこはどこ

(二〇二五年七月三〇日)