中山修一著作集

著作集24 残思余考――隠者の風花余情(上)

第三部 白雲に夢想す(短歌編)

第三編 昇る陽に(二〇二五年/令和七年)

01.テーマ[カレンダー]

 お店より 師走にもらう カレンダー
 表紙開ければ 新年登場

 カレンダー 見るは祭日 連休の
 並びの妙に 一喜一憂

 カレンダー いよいよ来ました 最後の頁
 落ち葉とともに 火の中に燃ゆ

(二〇二五年一月九日)

02.テーマ[日記]

 隠したる 言うに言われぬ わがこころ
 文字の力に 託しては泣く

 ひらひらと かそけき風に 舞い落ちる
 気持ち集めて 日記を埋める

 過ぎ去りし かのとき書いた 日記帳
 眺めてみては そこにいるわれ

 (二〇二五年一月一六日)

03.テーマ[踊る]

 聞こえくる 音にあわせて 手をたたき
 体揺らして 足動き出す

 夏の日に はるか忘れし 思い出を
 たどる手足と お囃子の音

 北へ行く さすらい人の 子守歌
 雪を払いて いざ口に出す

 (二〇二五年一月二三日)

04.テーマ[おはよう/おやすみ]

 太陽に 花瓶の花に 飼い犬に
 朝と寝る前 ひと言交わす

 おはようは 今日もいいこと あるように
 おやすみで 明日への願い そっと告げ

 まっすぐに 木立を抜けて 射し入りて
 夕には丸く おやすみという

 (二〇二五年一月三〇日)

05.テーマ[鍵]

 鍵をかけ 「森の家」にて 籠城す
 女性史に立つ 高群逸枝

 難問を 解く鍵探す 受験生
 射すか射さぬか 天啓の陽よ

 大自然 忘備無防備 何たるか
 鍵もつも生 鍵なくも生

 (二〇二五年二月六日)

06.テーマ[春]

 春の陽に 誘われ歩く 山道に
 見知らぬ野草 人見知りする

 ああ春の その春のなか 春ありて
 爛漫のもと 団欒のとき

 福寿草 次にタンポポ 菜の花の
 野に一面の 黄色の世界

 (二〇二五年二月一三日)

07.テーマ[雪]

 暖かき 部屋から眺む 庭の雪
 白の衣装に 綿の温もり

 一夜明け 一面雪の その上に
 一筋続く 足跡ありき

 風しきる 白き舞にて 忘れ雪
 これを最後と さよならをいう

  (二〇二五年二月二〇日)

08.テーマ[ありがとう/うれしいです]

 ありがとう なぜ言わないの 自分から
 言えばこころに 灯がともるのに

 いただきが 見えてそのとき ありがとう
 最後の一歩 天辺に立つ

 喜寿迎え うれしさ半ば 見上げれば
 星が流れて いざ消えてゆく

 (二〇二五年二月二七日)

09.テーマ[青空]

 青空の 青は何色 問いにして
 見上げる空の 青のまぶしさ

 青空に 風船飛ばす そのときに
 祈りも託し わが手離さむ

 青空を かける白馬に またがった
 自分を眺める 野に転がりて

 (二〇二五年三月六日)

10.テーマ[物語]

 物語 それを語らん その人の
 物語見え 物語消ゆ

 久々の あの物語 これもまた
 思い出しては 草露に帰す

 夕しぐれ 軒下に立って 物語る
 名もないふたり 旅の行く末

 (二〇二五年三月一三日)

11.テーマ[書く]

 書いてみて はじめてわかる 人の世の
 残忍さとか 傲慢さとか

 ものを知り ものを書いても もの足りぬ
 浮かんでは消ゆ 幻の詩よ

 五〇年 いつしかわれも 物書きに
 流れ流れて 行く先いずこ

 (二〇二五年三月二〇日)

12.テーマ[さよなら/おげんきで]

 さよならと 告げる言葉の その陰で
 いつか会えると 手を握りしむ

 雨の日の さようであれば 今日限り
 傘をささずに それぞれの道

 年賀状 お元気ですか 尋ねしも
 届く賀状も お元気ですか

 (二〇二五年三月二七日)

13.テーマ無し

 母を追い父親さえもいまはなし
 叱られたこともありしが草の露
 行きたしや望郷のあの父母の村
 風に乗り聞こえし声は何という
 叱られしいまは自由かかぐや姫
 夫との一体の理想があればこそ
 ああ孤独の自由を得ようぞいま
 森の家の双頭蛇となり人を断つ

 (二〇二五年四月三日)

14.テーマ[花]

 咲く花に 染められ遠き 山肌を
 眺むる吾は 独りなりけり

 時過ぎて 風に誘われ 舞い散りし
 花のいのちに 残り香を知る

 はかなくも 散るを悟りて 咲く花の
 いまを盛りに 人を照らす夜

 (二〇二五年四月一〇日)

15.テーマ[四月]

 寒さ過ぎ 時節の風に 誘われて
 いまや四月と 人舞い踊る

 変わらずに 咲く花に似て この四月
 人が変わりて 景色が変わる

 菜の花と タンポポの黄に 染まりし野
 いのちの息吹 吾を励ます

(二〇二五年四月一七日)

16.テーマ[いのち]

 ことごとく ふさがれていま いのちつき
 生まれ変わりの 道どこにある

 周りから 虐げられて 泣き崩れ
 生き返りたい あの風に乗り

 生き直し いよいよ決し 群れを避け
 頼るはひとつ 己の身のみ

(二〇二五年四月二四日)

17.テーマ[私だけの発見]

 見たことも 聞いたことさえ ないことを
 われひとり知り こころに埋める

 夕暮れに ひとり行く身の ひとりごと
 いつしか闇が 飲み込む定め

 たそがれに 名を呼びて 振り向けば
 虚なる調べを ただわれ知れり

(二〇二五年五月一日)

18.テーマ[たからもの]

 忘れざる 物も自然も 体さえ
 消えてゆくなり かなたの果てに

 惜しみなく 与えしあの日の あのことば
 いま振り向けば 空にて虚なり

 何もない 何ひとつない かの地平
 たからものなど あるはずもない

(二〇二五年五月八日)

19.テーマ[散歩]

 野草園 老いしわが身の 足取りも
 朝露のなか ナメクジに似て

 歩を緩め 人と交わせる あいさつの
 その会話にも 緑染み入る

 今日もまた 同じ散歩の そのあとに
 足はそのまま 温泉に向く

(二〇二五年五月一五日)

20.テーマ[数や記号]

 含まれる 記号の意味の 多様性
 月には月の 星には星の

 限りない 数の並びの 無限性
 見果てぬ夢も 尽くせぬ文字も

 数を見て 記号になびく その果ての
 抽象のもつ 具象の輝き

(二〇二五年五月二二日)

21.テーマ[最初の記憶]

 いまそこの 最後の記憶 砕け散り
 向かうはひとつ 原初の記憶

 その昔 この世が生まれ 刻まれし
 青と緑の 歴源記憶

 思い出も 落葉となりて 堆積し
 語り出すのは 最初の記憶

(二〇二五年五月二九日)

22.テーマ無し

 露に濡れ 輝く時の そのときの
 ああ麗しき いのちの美園

 雑草の 冷たき土の 合間から
 まっすぐ伸びる 今日もまたあり

 カッコーも ホーホケキョも 力なく
 いつしか終わる 冷酷の春

 (二〇二五年六月五日)

23.テーマ[道]

 影法師 道なき道を 道として
 歩いてみれば いつしか道に

 世に迷い どこにあるかを 問われれば
 ある道もあり ない道もある

 大勢で 一緒に歩く 者あれば
 虚しくわれと 進む孤の人

 (二〇二五年七月一〇日)

24.テーマ[猫]

 思い出は わが家に昔 ペルシャ猫
 青い目をして 白毛を誇り

 ある婦人 数匹の猫 友にして
 言葉を交わし ともに遊びぬ

 ふれあいの その極まりに 猫がいて
 かわいくなでし 暖炉の前で

 (二〇二五年七月一七日)

25.テーマ[宇宙]

 夏の夜の 宇宙の果ての その先に
 古代人見て われを眺むる

 いまわれも 宇宙のなかの 一箇所に
 生まれて生きし 時間を思う

 かすかなる 鳥の響きに 虫の声
 思えば宇宙 身の隣りにも

 (二〇二五年七月二四日)

26.テーマ[怖かったこと]

 絵空事 書いて楽しむ 人あれば
 書かれて裂ける 生のこころあり

 道端に シカが飛び出し 接触し
 屋根の上には サルの集団

 キャンプ場 テントのなかに しみわたる
 怪談話に 凍りつく夜

 (二〇二五年七月三一日)