沖縄のデイゴの衰退と枯死

   デイゴヒメコバチは枯死に関わっていない!!

   真の原因は Fusarium solani 種複合体に属する菌である

神戸大学 森林資源学研究室   黒田慶子 Kuroda, Keiko

 

要旨       デイゴ(Erythrina variegata)の軟腐症状および枯死要因の病理解剖学的研究

木原健雄・村上翼・中馬いづみ・黒田慶子(神戸大院農)・亀山統一(琉球大農)

1.はじめに

  1.  デイゴ属樹木がデイゴヒメコバチ(Quadrastichus erythrinae)の寄生により衰弱する被害が2000年代から世界各地で報告されるようになり、日本でも沖縄県花であるデイゴの被害が問題になっている。落葉や不開花という症状であったが、近年は樹皮の軟腐症状と枯死被害が多発するようになった。寄生蜂の枯死への関与については不明であり、殺虫剤の樹幹注入では十分な効果が得られていない。そこで本研究では、デイゴの枯死要因の解明を目的とし、被害木の病理解剖学的解析を行った。

2.材料と方法

  1.  沖縄県糸満市平和祈念公園および琉球大学構内でデイゴの被害木を採取した(2014,2015年)。デイゴヒメコバチの寄生により着葉量が激減した個体を「激害木」、寄生被害はあるが目立った葉量減少のない個体を「微害木」とした。実験は以下の3つの手法を用いた。1)病徴観察:伐倒した供試木の断面および樹皮の状態を観察した。2)組織観察:滑走式ミクロトームで厚さ30μm程度の切片を作成し、光学顕微鏡で組織の変化や菌糸の分布を観察した。3)菌類の検出:試料片を培地上で培養、もしくは試料を室温(25℃程度)に保ち、発生した菌類を同定した。

3.結果と考察

  1.  「激害木」の木部に褐色~灰褐色の変色が認められ、落葉が進んだ個体の主幹基部では木部の8割程度を占めていた。この部分は傷害心材と呼ばれる通水機能を失った組織であるため、この個体では水分通導がかなり阻害されていることがわかった。また、軟腐症状を引き起こす師部の壊死は樹体各所に認められた。壊死した師部に隣接する木部の変色部分を光学顕微鏡で観察したところ、組織内に菌糸の分布が確認され、さらに宿主細胞には黄色の物質が蓄積していた。変色組織からはFusarium sp. 優占的に検出された。Fusarium属菌は病原菌として樹木を枯らす例があり、本菌が枯死に関与している可能性が示唆された。これらの結果から、樹体内部に侵入した菌類への防御反応として木部に傷害心材が形成された可能性が高く、ブナ科樹木萎凋病(ナラ枯れ)との類似性が示された。今後、検出された菌類のデイゴへの病原性を接種試験によって検証する。また、主幹基部において変色範囲が広かったことから、根系からの感染の可能性を調査するほか、デイゴヒメコバチが枯死に関与しているのかどうかについても検討する必要がある。

樹木医学会第20回大会要旨(2015年10月24~25、東京農業大学)

デイゴ (Erythrina variegata) の軟腐症状および枯死要因の

病理解剖学的研究

○木原健雄・村上翼・中馬いづみ・黒田慶子(神戸大院農)・亀山統一(琉球大農)


目次

研究内容の紹介

入門編

枯死前の樹幹内では,木部変色,師部の壊死,通水停止

樹木医学研究21(4):211-212, 2017

論文

Kuroda K et al. First report of Fusarium solani species complex as a causal agent of Erythrina variegata decline and death after gall formation by Quadrastichus erythrinae on Okinawa Island, Japan, J Gen Plant Pathol 83:344–357, 2017.  オープンアクセス:論文ダウンロード:10.1007_s10327-017-0738-3.pdf

衰退しつつあるデイゴの組織(顕微鏡写真)

変色部位から検出されたFusarium属菌

a1 材表面に発生した白色の菌糸

a2 菌糸発生部位の拡大

b  優占的に検出されたStrain A(p2-f11)

c   Strain B (p2-g21)

d, e  Strain A, Strain Bの分生胞子

デイゴヒメコバチの寄生部位は,細胞の肥大・増生のみで,病原菌は棲息していない

Strain A, Bの接種により,デイゴの苗は病徴を再現し枯死。接種菌は再分離された。