神戸大学 森林資源学研究室 黒田慶子 Kuroda, Keiko
神戸大学 森林資源学研究室 黒田慶子 Kuroda, Keiko
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里山資
源の積極的利用で、健康な次世代里山を再生する
✓研究成果から, 小冊子
「里山に入る前に考えること」(図2)を作成しました。 (pdfダウンロード)
里山はなぜ放置しては
いけないのか、里山の成り立ちと現状、「現代版里山管理」とは、整備の具体的手法、住民による里山整備
や伐採した木質資源の活用方法について、解説しています。里山整備と再生にご活用下さい
里山の管理の考え方については、以下の解説や関連 の報告(単行本・総説) をご覧下さい。
解説:里
山を維持するための考え方
❖里山は放置してはいけない
ナラ枯れの病原菌(図1左)を運ぶ甲虫、カシノナガキクイムシ(図1右)は、大径木で繁殖効率が良くな
ります。元来、多くの里山は15〜30年程度の短い周期で伐採され、薪炭などに利用されていましたが、
1950年代からの燃料革命でその利用が無くなりました(図3)。その結果、大径木が増えたことが1990年代以降のナラ枯れ増加につながっ
たと考えられます。「伐らなければ、森林はあるべき姿に遷移していき、その結果、自
然に維持されていく」と考えられがちですが、実はそうではありません。長期にわたって人手が加えられて
きた里山林を維持するには、将来を見据えた管理が必要です。
❖里山林の現状
ナラ枯れの進んだ林では、次世代の樹木は低木〜亜高木種が多くなり、高木種が育ちにくいことがわかりま
した(図4)。また、コナラは樹齢が高くなると萌芽(切株からの芽生え)能力が落ち、次世代が育たなく
なります。旧薪炭林はナラ枯れが起こる前に積極的に資源として利用し、若い林に戻すことが健康回復につ
ながります。
近年の里山整備では、樹木を抜き切りして本数を減らし、下生えを刈る「公園型整備」が主流ですが、これは薪炭林として は高齢のナラ類を残すことと、カシノナガキクイムシが飛来しやすくなるため、ナラ枯れの危険性が高くなります。また、この方法 では生物の多様性が適切に維持されないこ とがわかりました。薪炭林として定期的に伐採している場所では、様々な樹齢の林がモザイク状にあるた め、生物多様性が豊かだったのです。
基礎がわかったら、
里山保全への動きと問題点
最近では、自然に関わりのある文化を見直したり、温暖化防止などの環境保全機能への期待から、里山林の保全活動が活発になっていますが、里山林
の機能を十分に引き出すための具体的方策は、科学的に追求されてきませんでした。
そのため、環境を守りたいという活動者の動機が必ずしも森林の保全に結びついていません。また最近で
は、 里山林でナラ枯れ(図1,カビによる伝染病)やマ
ツ枯れ(マツ材線虫病)などの被害が拡大しており、里山の変容と不健康化が顕在化してきま
した。不適切な整備方法や伐採木の放置が、ナラ枯れの発生を招く例も増えています。
そこで、自然科学および社会科学的観点から里山の現状を明らかにし、里山林を健康に持続させる整備手 法について研究を進めて来ました。その結果、「自然に任せる」、「見守る」だけでは、 里山林は うまく維持されないことがわかってきました。
❖現代版里山整備とは
日本の森林面積の約三割を占める里山林を公共事業的に整備するのは困難です。その一方で、住民を主体と
する保全活動では、地域が保全に関わる必然性が明確でなく、伐採木を放置して資源を無駄にしている例も
目立ちます。里山林を長期的に維持するには、住民が森林資源を利用する動機づけになるような、現代的価
値の付加が重要と考えています。
例えば、木質資源を薪・ペレットストーブなどに利用し、それを新しいライフスタイルとして楽しみつつ、
里山の資源循環を行うことです。行政や所有者を含む地域コミュニティで森林再生を見守るという、社会の
システムを創出していく必要があります。住民の手で里山整備を続けるには、伐採木を薪・ペレットストー
ブなどに利用し、「炎のある暮らし」を新しいライフスタイルとして楽しみつつ、里山資源の循環利用の活
動に参加するなどの取り組みを提案します(図5)
本
研究は、森林総合研究所の研究プロジェクトにより実施しています。
→ 詳しくは、 里山の維持管理(2) 「現代版里山維持システ ム構築のための実践的研究 へ、