常温で液体状態にあるハロメタン類は、その高い化学的安定性、揮発性、そして様々な化合物との親和性から、極めて有用な有機溶媒です。一方で、それらは酸素雰囲気下、紫外光照射によって、炭素酸化物およびハロゲンやハロゲン化水素を発生することが知られています。一般に、純粋なそれらの化合物は合成化学におけるC1ビルディングブロックあるいはハロゲン源として用いられますが、分解生成物としてのそれらを実践的物質合成に用いた例はこれまで報告されていません。本研究課題では、光分解ハロメタンをC1ビルディングブロックあるいはハロゲン元素源と見なし、光応答性ケミカルストレージとして活用するという、これまでの合成化学の盲点に着眼した、まったく新しい反応開拓および物質創成に挑戦しています。ハロメタンの光分解の促進および太陽光の利用を可能にするための触媒開発、さらにはハロメタンの光分解におけるCO2の活用技術の開発などを通して、物質変換の新しい実用的方法論を確立し、様々な機能性分子および分子集合体の開発を企てます。

図1. クロロホルムを、ホスゲン、塩素、塩化水素ガスの光応答性分子ストレージとして利用する有機合成
Yuki Kuwahara, Ailing Zhang, Haruka Soma, and Akihiko Tsuda, Org. Lett. 2012, 54, 3376–3379.
特願2014-80559
特願2012-048180

図2. ブロモメタン類を臭素の光応答性分子ストレージとして利用する臭素化反応と光脱色
Kazumitsu Kawakami, and Akihiko Tsuda, Chem. Asian. J. 2012, 7, 2240–2252.
(Highlighted in Frontispiece Picture).

図3. テトラクロロエチレンを、ホスゲン、塩素、トリクロロアセチルクロリドの
光応答性分子ストレージとして利用する有機合成
Ailing Zhang, Yuki Kuwahara, Yasuhisa Hotta, and Akihiko Tsuda, Asian, J. Org. Chem. 2013, 2, 572–578.
(Highlighted in Frontispiece Picture and ChemistryViews).