本研究課題では、幅広い周波数(100–10,000,000 Hz)の"音"のエネルギーを利用した、まったく新しい物質創成、および物質機能・情報の制御に挑戦しています。
音は物質(媒質)の圧力変動の波動として伝わり、ある点での密度の変動を引き起こします。媒質中の分子はこの波によって位置を変え、振動します。このように音は物質が引き起こす物理現象であるにも関わらず、その物質化学への寄与は、超音波化学を除いてほとんど調査されていません。

音は、巨視的な物質現象であり、分子スケールとは大きな隔たりがあります。したがって、分子および分子集合体の構造変化や化学反応などを、音によって直接制御することは科学的に困難と考えられます。このような背景において本研究課題では、音波エネルギーの、”媒体”を介することによる化学・物理エネルギーへの変換を企てます。音波エネルギーによって、媒体となる溶媒やナノスケールの分子集合体に一時的な化学変化や状態変化を引き起こし、それを利用することによるまったく新しい物質科学を展開しようとしています。音波エネルギーを化学エネルギーに変換するための媒体に必要とされる分子機能や構造を、合成化学的な視点からデザインし、これまでにない全く革新的なエネルギー利用と物質創成・変換の新しい方法論を見出すことを目指しています。
音で整列する超分子ナノファイバー
このような背景において当研究室では、まったく新奇な超分子ナノファイバーをデザイン・合成し、そのサンプル溶液に人の声と同程度の周波数の可聴音を照射すると、ナノファイバーが音の進行方向に沿って整列するという極めてユニークな現象を発見しました (図1)。ナノファイバーは、空気から溶液に伝播した非常に微弱な音波振動を感じ取り、流体力学的な相互作用によって音波の進行方向に配向することがわかりました。

図3. 図1. 可聴音によるポルフィリンナノファイバーの整列
Nature Chem. 2010, 2, 977-983