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現代の経済、現代と経済Courses

第9回 世界経済の重要性

第8回 日本経済の諸問題:円高と年金問題

  •  今回は世界経済の重要性についてお話しします。世界経済というと、アメリカやヨーロッパの経済を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、地球上の人口比率で言うと、貧しい人の割合が非常に高いという事実があります。そこで今回と次回は、特に「貧しい人の経済」に焦点を当ててお話しします。
     現在地球上には70億人以上の人が生活しています。そのうち豊かな生活を送っている人は欧米や日本などのごく一部の地域に限定されていて、逆に貧しい人々はアジア、アフリカ、ラテンアメリカ等に点在しています。たとえば1日1ドル以下で生活する人は11億人、2ドル以下で生活する人は26億人、と推計されています。つまり地球上の約1/3の人々が貧困に直面しています。
     
     このような地域に対して日本は開発援助をしてきました。たとえば最近ではアフリカに対して1.4兆円もの資金援助を約束しています。こうした援助に対して「バラマキ」との批判もありますが、国際社会の一員としての義務と責任という見方もあります。
     日本にとっての開発援助は、「国際貢献」の一環として行われています。ただし日本の援助政策には、人道的な理由の他に、経済的なメリットもあります。たとえば、日本からの援助協力により、開発途上国は港湾・道路等のインフラを整備したり、工場を建設したりして、豊かになるための素地が少しずつ整ってきます。そうやって少しずつ開発途上国が豊かになると、マーケットが形成され、日本からの輸出が期待できるようになります。
     また開発途上国の多くは資源保有国です。資源の少ない日本にとって安定的に資源を確保することは非常に重要です。そこで開発援助等を通じてそうした国々との関係を強化し、地域の平和と安定を構築することは、日本や開発途上国双方にとって大きなメリットとなります。
     
  •  この開発途上国への援助に関しては、今、世界的に大きな論争となっています。
     ひとつは援助肯定派で、「貧しい人々は市場メカニズムが働かないほどひどい環境にある。だからせめて市場メカニズムが働く程度に援助が必要」という考え方です。代表的な書物としてはJ.サックス『貧困の終焉』等があります。
     もうひとつが援助否定(懐疑)派で、「援助は市場メカニズムを歪めてしまうので不要」という考え方です。代表的な論者としてはW.イースターリーなどで、彼の『傲慢な援助』『エコノミスト・南の貧困と闘う』などはこの考えをよく表しています。
     これらの論争のひとつのポイントは、「貧困の罠」というものの存在を認めるかどうかにあります。「貧困の罠」というのは様々な文脈・解釈がありますが、この場合、「低所得」→「低貯蓄」→「低投資」→「低所得」の悪循環を指します。つまり貧しい人々は「所得が低いので貯蓄できず」、「貯蓄できないので投資できず」、「投資がないため(生産性が低く)低所得」という悪循環が続く、ということです。
     
  •  ただし最近の研究では、援助の有効性は一概には言えないこと、そしてそれは環境やプロジェクトによって異なること、などが明らかになってきました。以下では、いくつか例を紹介していきます。

    ・「貧しい人は食糧不足?」
     よく言われる通説として、「貧しい人は食糧不足である」ということがよく言われます。これが本当なら、援助としては食糧供給が重要になります。しかしこの通説は間違いではないのですが、最新の研究では「貧しい人は食糧よりも栄養が不足」、そして「貧しい人は必ずしも餓えていない」ことが明らかになってきました。つまり援助としては、「食糧よりも栄養素をいかに供給するか」が重要ということです。

    ・「貧しい人は怠惰?」
     次によく言われる例は、「貧しい人は怠惰である」というものです。たとえば必要と分かっているのに、貧困家庭では、予防接種を受けなかったり、子供たちが学校に行かなかったりします。この通説に関しても、必ずしも間違いではないのですが、どちらかと言うと我々と同じように「嫌なものは先送りする」という行動と同じ、ということが分かってきました。つまり貧しい人とか豊かな人とかに関係なく、人間として同じ行動である、ということです。
     そうは言っても、我々は予防接種も受けるし、学校も通います。では何が異なるのか?というと、制度の違いと言われています。つまり日本では受けないといけない予防接種は決められているし、学校も中学までは通うことが義務付けられています。一方、貧しい国では様々な制度がきちんと確立していないため、貧しい人が自分自身で判断・決断しなければなりません。しかしこうした状況では情報不足も相まって間違った判断をしやすく、またそうした場合、救済制度が不十分であれば、取り返しがつかないほどひどい状況に陥ることもあります。
     このよう「制度」の違いが、同じような行動をとったとしても、結果として、貧しい国と豊かな国の差となってしまうということです。
     
第10回 豊かな国と貧しい国

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講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

Koji KAWABATA

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