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現代の経済、現代と経済Courses

第8回 日本経済の諸問題:円高と年金問題

第7回 政府と日銀のお話し:財政政策と金融政策

  •  今回は日本経済が直面する問題として、円高と年金問題を取り上げます。
     まず円高に関してですが、日本円と米ドルの為替レートは、変動相場制に移行した1973年以降、基本的に円高ドル安傾向で推移してきました。この理由は、日本製品の輸出増大にあります。つまり日本から輸出された製品の代金は、基軸通貨である米ドルで受取ることになります。しかし日本企業は社員に対する給料や銀行への融資返済のためには日本円が必要ですから、外国為替市場でドルを売って円を買います。その結果、円高ドル安となる訳です。
     またここ数年の急激な円高傾向に関しては、2008年のリーマンショック後のアメリカにおける金融不安や財政赤字による米ドルへの不安感、あるいはギリシャ、スペイン、イタリア等EU加盟国の財政赤字によるEUユーロへの不安感から、消去法で日本円が買われている結果です。また日本の長引くデフレ傾向による通貨価値の上昇も、この傾向に拍車をかけています。

     このような円高による影響は、輸出企業の業績悪化を招きます。たとえば$1=\110として、110万円(=1万ドル)の車を輸出しているとします。ここで$1=\100と円高になった場合、110万円は1.1万ドルとなります。しかし買い手側としては、これまで1万ドルで買えたものに1.1万ドルを払おうとはしないでしょう。したがって売り手側としては、110万円の車をコスト削減などをして100万円(=1万ドル)で販売することになります。
     日本企業はこのようにして、コスト削減しながら円高に対応してきました。しかしそうした対応の結果、ますます日本製品への需要が高まり、輸出が伸びることになります。そして輸出が円高を招き、円高が企業にコスト削減を促し、それがまた円高を促す、ということがこれまで続いている訳です。

     このように日本企業は円高傾向に対応してコストを削減してきましたが、それにも限界が出てきます。そこで為替の影響を受けない輸出先(北米やEU諸国)や人件費の低い国(中国やASEAN諸国等)に工場を移転する企業も増えてきます。このような減少を「産業空洞化」と言います。
     産業空洞化が生じると、本来、日本の工場で働くはずだった人が働き口を失うことになります。また日本政府としては、本来日本の工場から得られたはずの法人税等の税収を失うことになります。
     こうした状況を避けるために、政府・日銀が通貨を売買し為替介入を行うことがあります。ただし、最近の外国為替市場は、ヘッジファンド等の参入により非常に大きなものとなっていて、一国の単独介入ではあまりうまくいっていません。そこで数か国が協議して一斉に為替介入を行う協調介入が行われることもあります。
     
  •  次に年金問題についてお話しします。年金保険は職種によって年金の種類が異なります。まず学生や自営業の人たちは「国民年金」に入ります。民間企業のサラリーマンは「厚生年金」、公務員や(私立学校も含む)教員は「共済年金」です。「厚生年金」や「共済年金」は、被雇用者だけではなく雇用主(企業や自治体など)も年金保険料を積み立てているため、「国民年金」より高い金額がもらえます。
     
     現在、年金については様々な問題が議論されています。その中で一番大きな問題は、「少子高齢化」による影響です。現在の年金は「賦課方式」と呼ばれる「現役世代の積立金を現在の高齢者に支給」する制度になっています。年金制度の発足当初は「積立方式」と呼ばれる「現役時代の積立金を老後に受け取る」制度だったのですが、1970年代以降、現方式に段階的に移行してきました。
     賦課方式の場合、現役世代が高齢者を支えるため、全人口における現役世代の割合が高ければ問題ないのですが、現在のように少子高齢化が進むと、現役世代で高齢者を支え切れなくなってしまいます。したがって現在では国民年金のうち半分は税金で賄われています。
     また年金積立金の運用(株式投資の失敗、グリーンピア事業など)や管理体制(消えた年金記録など)に関しても様々な問題が指摘されています。これらの問題はまだ解決されていないものあり、将来の年金制度に不安を残すものとなっています。
     
  •  このように年金の一部は税金で賄われており、将来の年金制度は国の財政状況にも依存してきます。国の借金については諸説あるものの、2013年度末見込みで1107兆円(うち国債750兆円)となっています。現在は家計資産等で何とか賄っているものの、将来的には国債の国内消化が困難になる可能性もあります。もしそのような状況に陥った場合、(海外で日本の国債を買ってもらうためには)国債金利を上げざるを得ず、借金が雪だるま式に拡大していくことになります。

     そうした状況を避けるために、2014年4月から「消費税」が増税されます。所得税や法人税ではなく、なぜ消費税なのか、というと、その背景には「直間比率の見直し」というものがあります。「直接税」とは所得税、法人税などで、景気の影響を受けやすいと言われています。それに対し「間接税」とは消費税などで、景気の影響を受けにくいとされています。現在、日本の直間比率は6:4で、比較的景気の影響を受けやすい税収構造となっています。他の国では、先進国の平均は5:5なので、日本もそれに近づけていこう、という議論があります。
     またもうひとつの消費税増税の根拠として、世界的に、特に先進国では消費税が高い、という傾向があります。たとえばデンマークやスウェーデンなどの北欧諸国では25%、イギリス、フランス、ドイツなど西ヨーロッパ諸国では20%程度となっています。こうした国々の消費税は非常に高いように思えますが、実際には医療費や教育費は無料であり、食料品への課税は0-10%程度です。したがって老後や将来への不安が少ないため、貯蓄の必要性が高くなく、消費が旺盛となる傾向があります。
     このようにヨーロッパ諸国では「高福祉高負担」の傾向があり、それと比較すると、現在の日本は「中福祉低負担」と言えます。今後、日本が年金をはじめとする社会保障制度を維持していくためにも、消費税増税を含む「高負担」の方向へ舵を切るのかどうか、検討していく必要がありそうです。
     
第9回 世界経済の重要性

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講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

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