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現代の経済、現代と経済Courses

第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット

第5回 再び「経済自由化」のお話し

  •  今回は、アベノミクス(安倍内閣による経済政策)についてお話しします。アベノミクスはいろいろな見方がありますが、これまでの経済政策と決定的に異なるものとして「インフレターゲット」があります。これは「中央銀行がインフレ目標を明示し、その達成を優先する金融政策」です。安倍政権はこのインフレターゲットを達成するために、「量的緩和(通貨供給量の拡大)」を日本銀行に要請しました。
     インフレターゲットのアイディア自体は第2次安倍政権以前からあったのですが、その執行機関である日本銀行が頑強に抵抗してきました。通常、日本銀行などの中央銀行は「物価の安定」を最優先とするため、インフレを招くような金融政策を嫌がります。にもかかわらず、今回、安倍政権がインフレターゲットを強行したのは、過去20年の景気対策があまり有効でなかったためです。たとえば、政府は毎年10~20兆円規模の景気対策を行ってきたにもかかわらず、金融不安等によるデフレ拡大を止められませんでした。
     
  •  ここで理解を深めるために、「インフレ」と「デフレ」について説明します。
     まず「インフレ」はインフレーションの略称で、物価水準が持続的に上昇することです。これは主に需要が供給を大幅に上回ることによって発生します。このときインフレの要因には主に2種類あって、需要側に原因があるインフレを「ディマンド・プル・インフレ」、供給側に原因があるインフレを「コスト・プッシュ・インフレ」と呼びます。またインフレは貨幣の供給量が増えることによっても発生します。
     物価の上昇は、貨幣価値の低下を意味します。つまりインフレ前に1万円で買えたものは、インフレ後は1万円では買えなくなります。これは貯金しているとその貯金額が目減りしていくことになるので、人々に貯蓄よりも消費や投資を促します。したがって緩やかなインフレ傾向は、景気刺激策となり得る、というのが「インフレターゲット」を推進する人々の意見です。
     ただしインフレの速度があまりにも速いと、「ハイパーインフレーション」という物価水準を制御できない状態になります。このような状態になると、消費や投資は減退し、経済は大混乱に陥ります。これは、第1次世界大戦後のドイツや最近ではジンバブエなどで発生しました。一応、ハイパーインフレには「デノミネーション(デノミ)」という通貨単位の切り下げ手段により終息することもありますが、うまくいかないこともあります。「インフレターゲット」に反対する人たちは、インフレの増進がやがてこのような物価水準を制御できない状態になることを懸念しています。

     逆に「デフレ」はデフレーションの略称で、物価水準が持続的に下落することです。これは主に需要が供給を下回ることによって発生します。また通貨供給量の減少によっても需給ギャップからデフレを発生させます。
     物価の下落は貨幣価値の上昇を意味するため、(名目ではない)実質的な金利や賃金の上昇を招き、企業収益を圧迫します。これが企業による投資や雇用の抑制につながり、景気後退につながります。こうした景気後退が購買力の低下(需要の減少)を招き、企業収益をさらに圧迫するようになると、「デフレスパイラル」という悪循環に陥る状態になります。
     またデフレは円高も誘発します。つまり日本のデフレは日本円の価値の上昇を意味するため、ゼロ金利であっても外国から見ると実質的に高い金利と同じ状態です。するとドルやユーロを売って円を買う動きが強まり、円高となります。

     このようなインフレとデフレ、景気との関係を示したものに「フィリップスカーブ」があります。A.W.フィリップスが発見したこの関係は、「物価上昇率と失業率の間のトレードオフ(または逆相関)」を示しています。つまり(急激でない)物価上昇は、モノが高く売れるので企業はより多くの人を雇い、生産拡大しようとします。その結果、失業率は低下するため、このような関係が見られるわけです。
     
  •  アベノミクスでは、「2%のインフレ目標」を掲げ、そのために「無制限の量的緩和(通貨供給量の拡大)」を公約しています。
     2013年末現在、その1年前よりマネタリーベースは46%上昇し、消費者物価指数は約1%上昇しています。また失業率はそれほど変化ないものの、株価は約64%上昇、為替レートも20円近く円安となりました。国民全体が景気回復を実感するまでには至りませんが、数字の上では今のところ、アベノミクスの金融政策は奏功していると言えそうです。
     
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し

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講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

Koji KAWABATA

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