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現代の経済、現代と経済Courses

第2回 お金のお話し

第1回 経済とはどんな学問なのか?

  •  前回は経済学における重要なコンセプトとして、「物・サービスの価格・取引量は市場での需要と供給のバランスによって決まる」というお話しをしました。この「需要と供給のバランス」というのは、実はお金が仲介しています。今回は、このお金についての話しです。

     まず1万円札を思い浮かべてください。この1万円はなぜ1万円の価値があるのでしょうか?
    最初に答えを言ってしまうと、「国が保証し、皆がそれを信用しているからお金としての価値がある」からです。
     世界的によく使われているのは、アメリカ・ドル、ユーロ、円の3つです。これは世界中の人々がこれらの通貨を通貨として信用しているので、よく使われているわけです。逆にあまり信用されていない通貨は使われません。例えばカンボジアは自国通貨リエルの信用度が低いため、国内通貨はアメリカ・ドルとの併用になっています。また中米・パナマのように、国内通貨の代わりにアメリカ・ドルをそのまま使っているような国もあります。
     今回はなぜこのような事が起こってしまうのか、お金にまつわる話しをします。
     
  •  大昔、お金のない時代には人々は物々交換でいろいろなものを手に入れていました。しかし物々交換は運搬が大変だったり、いろんな不便を伴います。その不便さから、交換に便利な「お金」が誕生した訳です。
     お金の誕生当初は、日本では「布」、中国では「貝」を使っていたと言われています。それは現在、「紙幣、貨幣」や「買、貯、資、財、貴」といったお金や売買に関する漢字に使われていることからもわかります。ただ布にしても貝にしても耐久性に問題があるために、やがて金、銀、銅による貨幣が作られ、それが世界各国に広がっていきます。
     ただし貴金属による貨幣は運搬や盗難などの不便さが付きまといます。そこで登場するのが「両替商」という人たちです。彼らは元々、銭貨売買の「両替」を専門にしていましたが、のちに(手数料を取って)手形発行の信用取引がメインになっていきます。これにより人々は、金貨を持ち歩くリスクを回避し、預り証(手形)を売買に使用することができるようになります。ここで重要な点は、この手形は金などの貴金属といつでも交換できるということです。両替商がいつでも交換してくれるからこそ、人々が信用して手形を使えることになります。後にこれが流通し、現在の紙幣になったのです。

     これら両替商は、日本では明治期に銀行へ転換します。その際「両替商ごとにバラバラだった手形を統一しよう」ということで、中央銀行である「日本銀行」が設立され、国内共通の紙幣が発行されることになります。このときの紙幣は「兌換券」といって、「金」との交換保証付き紙幣でした。このような金との交換保証がある制度を「金本位制度」と呼びます。
     この制度は世界各国で採用されたのですが、「その国の通貨は金の保有量分しか発行できない」という欠点があります。これはその国の通貨供給量が制約され、経済が成長しないことを意味します。その結果、日本では1932年(昭和7年)に金本位制度(兌換制度)を廃止しました。

     このように各国の通貨は元々「金」と自由に交換でき、1万円札は1万円分の金と同じ価値であった訳です。その自由な交換を政府や中央銀行が保証し、人々はそれを信用して1万円札を1万円の価値として使用してきました。そして金との交換が廃止した後も、政府や中央銀行への信用をベースとして、我々は1万円札を1万円の価値あるものとして認識しているのです。
     
  •  次にこの「お金」を扱う銀行のお話しをします。銀行は主に3つの業務をしています。ひとつは「決済」、預金口座からの引き落としや振り込みの仕事です。大学への授業料の振込の処理などがこれに相当します。
     ふたつ目は「金融仲介」です。皆さんが銀行に預けたお金を、お金を必要とする企業に貸し出す仕事です。銀行としては貸付先の企業が倒産してしまっては貸したお金が返ってこないことになりますから、貸付にあたっては厳密な審査をします。銀行は預金者への金利よりも高い金利で貸付しますので、銀行はお金の貸し借りの仲立ちをすることで、利益を得ています。たとえば預金金利が0.1%、貸出金利が3%とすると、銀行の利益は2.9%(=3%-0.1%)となります。

     三つ目は「信用創造」、融資の繰り返しによりお金を作り出すことです。あなたが銀行に100万円預金したとします。銀行はその100万円を、お金を必要とする企業に貸し出すことができます。ただ預金した人が急に返金を求めるかもしれませんので、ある一定額を常に銀行内の金庫で保管しておく必要があります。仮に10%を保管するならば、10万円を銀行の金庫に残しておくことになります。このとき銀行は90万を企業に融資することができます。もし企業Aに融資するならば、銀行内にある企業Aの口座に90万円を移します。再び10%を銀行に残しておくとすると、この時点で81万円を別の企業に貸し出せることになります。ここで企業Bに融資すると、銀行内の企業Bの口座に81万円が移されます。
     この結果、預金現金は100万円、貸付金は171万円(=90万円+81万円)となり、銀行の口座には合計271万円があることになります。もともと100万円しかなかったものが、銀行が融資を繰り返すうち、最終的に271万円ものお金が生み出された訳です。
     もし景気がもっと良くなり融資先が増えれば、銀行の口座金額が増え、結果的に経済全体のお金が増えることになります。逆に景気が悪く、あまり融資先がなければ、経済全体のお金が減ることになります。たとえば先の例で企業Aの融資で終われば100+90=190万円となり、先の271万円のケースと比べて明らかに金額が減っています。

     このように「信用創造」は、預金額をベースとして貸付を繰り返すことでお金を作り出しています。ただし、これは銀行に信用があることが前提です。もし銀行が信用を失うようになると、つまり人々が「銀行に100万円預けたのに、返してもらえないかもしれない」等、不安を感じるようになると、その銀行への預金額が減り、銀行は融資額を減らさざるを得ず、結果的に、経済全体のお金が減っていきます。極端なケースでは、預金者が銀行からいっせいに預金を引き出そうとする「取り付け騒ぎ」がおきて、金融システムに大きな不安を引きおこすこともあります。
     先の例の「1万円が1万円の価値と認められているのは、国や中央銀行への信用が重要」であるのと同様に、銀行が作り出すお金に関しても、信用が重要なのです。
     
第3回 アダム・スミスという人のお話し

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講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

Koji KAWABATA

GSICS, Kobe University
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Kobe 657-8501, Japan

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