本文へスキップ

English / Japanese

現代の経済、現代と経済Courses

第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ

第3回 アダム・スミスという人のお話し

  •  前回は「市場メカニズム重視」の考え方を中心にお話ししました。今回は、そのような考え方に疑問を投げかけた人たちのお話しです。まずカール・マルクス(1818-1883)という人を取り上げます。彼の思想は、20世紀の国際社会や経済思想に大きな影響力を持ちました。『資本論』の著者としても有名です。
     マルクスが生きた時代は産業革命(1760-1830)後にあたり、労働者にとって厳しい時代でした。当時の経営者は会社の利益を上げるために、賃金を抑えたり、労働者をコストの安い機械に置き換えたりしました。その結果、労働者たちは低賃金で長時間労働を強いられたり、失業を余儀なくされることになります。
     マルクスはこのような労働者の悲惨さを目の当たりにして、アダム・スミスの「市場に任せておけば経済はうまくいく」という考え方に疑問を呈します。そして最終的には「市場に任せていては労働者が搾取されるだけ、それを避けるためには労働者が(革命を起こし)社会を管理する体制にすればよい」という考えに至ります。

     やがてこの考えに賛同した人たちが世界各地で共産党を結成します。さらに第2次世界大戦後にはこうした考えが急速に広まり、次々と社会主義、共産主義国が誕生しました。
     これらの社会主義・共産主義国家では、労働者保護を目的として賃金・雇用の計画的管理がなされました。しかし賃金・雇用を計画的に管理するためには、他の経済要因も管理・統制する必要があります。この結果、これらの国々では、価格、生産、分配、流通、金融等が次々と統制され、最終的に経済社会全体の統制に至ります。

     このような管理・統制は、景気循環による恐慌を回避する効果はあるものの、市場メカニズムを無視した経済計画が実施されることになります。この結果、需給ギャップによる売れ残りが生じ、資源が無駄遣いされたり、競争原理排除による技術革新の欠如という結果を招きます。このような状態が長年続いた結果、20世紀の終わりに社会主義国・共産主義国は崩壊、あるいは資本主義への転換を余儀なくされることになったのです。
     
  •  次にジョン・メイナード・ケインズ(1883-1946)という人を取り上げます。
     ケインズもマルクス同様、経済をコントロールすることを主張した人です。ただマルクスが「労働者が搾取されたり、不景気時に失業者が増えたり、資本主義そのものに問題がある」としたのに対し、ケインズは「資本主義の欠点を補正してやれば、基本的には資本主義でうまくいく」と主張しました。

     ケインズの主張のうち最大のポイントは、「景気対策としての公共事業」です。それまでは「均衡財政政策」といって、「政府は収入の範囲内で財政政策をすべきである」という考え方でした。ところがケインズは、「企業に労働者を雇用する余裕がなければ、政府がお金を出して雇用を生み出す仕組みを作ればよい」として積極的な公共事業を推奨し、「政府が借金しても公共事業をすれば、いずれ景気が良くなったときに税収は増えるので、借金は返済可能」としました。
     この主張は非常に影響力が大きく、現在の経済政策にも取り入れられています。またケインズ以降、各国がこのような政策を導入した結果、主要国では戦前のような経済恐慌を1度も経験していません。

     ではケインズの言う公共事業はどれぐらい効果があるのでしょうか?
     これを理解するために、ケインズは2つのキーワードを使っています。ひとつは「乗数効果」と言われるものです。これは、「生産者(企業や政府)が投資を増やす→国民所得が増加する→消費が増える→国民所得が増える→さらに消費が増える→さらに国民所得が増加する→さらに消費が増える→・・・」という経済上の効果を意味しています。この増加のサイクルは投資の伸びに対して乗数的な伸びとなることから、このように呼ばれています。
     ふたつ目のキーワードは「消費性向」です。これは「所得額のうち、消費に使われる割合」を指し、消費性向が高くなるほど乗数効果が高まるという関係になっています。たとえば公共事業によって所得が増加したとしても、みんながそれを貯金に回せば、景気対策の効果はゼロになってしまいます。
     このようにケインズの乗数効果は、いかに人々が消費にお金を回すかがポイントになります。

     ケインズは金融政策にも言及しています。
     通常、企業は銀行などから融資を受けて投資を行います。このとき投資から得られる利潤率が銀行からの貸付金利よりも高ければ、企業は積極的に投資しようとするでしょう。したがって不景気の時には、利潤率より十分低くなるように貸付金利を誘導すれば、企業は投資し、所得増加→消費増加→・・・というサイクルが生じるとケインズは考えました。
     このような金融政策は、現在、世界中の中央銀行で採用されており、金利を下げて景気を刺激するという手段が実施されています。

     このようにケインズの主張は現代の経済政策に多大な影響を及ぼしているのですが、その反面、副作用とでも言うべき点も明らかになってきました。ひとつは消費や賃金の増加傾向による「インフレ傾向」です。もうひとつは安易なバラマキと困難な増税による「財政赤字の増大」です。
     先進各国はケインズ政策の恩恵を受けてきた一方、特に1970年代以降、このような副作用に悩まされることになります。
     
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン

「現代の経済」科目概要のページへ

講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

Koji KAWABATA

GSICS, Kobe University
2-1 Rokkodai, Nada
Kobe 657-8501, Japan

TEL +81-78-803-7101
FAX +81-78-803-7295
email kawabat [at] kobe-u.ac.jp