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現代の経済、現代と経済Courses

第3回 アダム・スミスという人のお話し

第2回 お金のお話し

  •  今回はアダム・スミス(1723-1790)という人についてのお話しです。アダム・スミスは「近代経済学の父」と呼ばれていて、現代の経済に多大な影響を与えた人です。『国富論』(「諸国民の富」とも呼ばれる)を書いた人としても有名です。
     この『国富論』については、いくつかの重要なポイントがありますが、特に有名なのは「神の見えざる手」と言われるものです。これは「市場経済において、各個人が自己の利益を追求すれば、結果として社会全体において適切な資源配分が達成される」とする考え方を指します。つまり各個人が利益を追求することは、一見、社会に対しては何の利益ももたらさないように見えるけれども、あたかも「神の手」によって導かれるように、社会全体の利益となる望ましい状況が達成されるというものです。これは「市場メカニズムを重視する」考え方で、現代の経済学の基礎となっています。
     
  •  アダム・スミスはこの「市場メカニズム重視」の考え方をベースに、「分業の重要性」と「重商主義批判」を展開しました。
     「分業の重要性」はそれにより労働生産性が上昇し、経済全体が豊かになるというものです。例えば、パンを食べるために、分業せずに各個人が1人で小麦を作って、それを製粉して、パンを焼きあげるとなると、かなり大変です。それよりも小麦を作る人、製粉する人、パンを焼く人、と、それぞれの生産過程を分業すれば効率よく作業できることになります。ここで重要なのは、分業過程において、各人が社会的効率を考えて行動している訳ではない、ということです。
     また「重商主義批判」では、それまでは「国の豊かさは貴金属の蓄積である」という「重商主義」という考え方が主流だったのですが、アダム・スミスは「国世豊かさは労働生産によって得られる消費財の蓄積である」と主張しました。重商主義は、簡単に言うと貯金主義ですから、お金や貴金属の蓄積のために、輸出(=輸出品代金として外国からお金が入る)を奨励し、輸入(=輸入品代金として外国にお金を支払う)を規制します。しかしアダム・スミスは、貴金属の蓄積より消費の拡大を重視しますから、外国からの消費財輸入を規制する考え方に反対しました。また市場メカニズム重視の立場から、政府による外国貿易へのコミットにも反対しています。
     
  •  このようにアダム・スミスは市場メカニズムを重視し、政府の役割をできるだけ小さくすることを主張しました。このような考え方を「小さな政府」論と呼びます。
     ただしアダム・スミスは、政府は何もせず、すべて市場に任せれば良い、と言っている訳ではありません。政府は次の3つに関して、コミットしなければならない、としています。
    ・国防
    ・司法行政
    ・公共設備
    これらは市場メカニズムが働きにくいものばかりです。たとえば司法行政がない社会では、人々が自分の利益を優先していけば、社会全体の利益となるどころか、お金や権力ですべて解決するような世の中になってしまうかもしれません。
     このような市場メカニズムがうまく機能しないケースを、経済学では「市場の失敗」と呼びます。代表的な例としては、下記のものがあります。
    ・独占市場-例:航空業界、携帯電話、放送業界
    ・外部性-例:公害
    ・情報の非対称性
    たとえば独占市場では、価格が高くなる傾向があります。これは日本の航空運賃や携帯通話料が世界的に見て非常に高い点と合致しています。また外部性に関しては、企業が工場排水を勝手に川や海に流してしまうと、公害が起きてしまいます。

     アダム・スミスが主張したように、市場メカニズムは非常に重要です。しかし同時に彼が注意したように、市場メカニズムがうまく働かないケースもあります。「市場メカニズムのメリットを活かしながら、そのデメリットをいかに政府がコントロールするか」が、現代の経済にとって重要な課題となっています。
     
第4回 経済をコントロールするお話し

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講義概要

「経済のしくみ」編
第1回 経済学とは?:市場とGDPのお話し
第2回 お金のお話し
第3回 アダム・スミスという人のお話し
第4回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第5回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン
「日本経済の問題」編
第6回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第7回 政府と日銀の経済政策のお話し:財政政策と金融政策と国債
第8回 日本の諸問題:円高と年金問題
「世界経済の問題」編
第9回 世界経済の重要性:途上国援助について
第10回 豊かな国と貧しい国

講義資料

オリエンテーション
第1回 オリエンテーション:経済学とは?+消費税増税について
「経済のしくみ」編
第2回 市場メカニズムとGDPの話し
第3回 お金のお話し
第4回 アダム・スミスという人のお話し
第5回 経済をコントロールするお話し:マルクス、ケインズ
第6回 再び「経済自由化」のお話し:フリードマン、TPP
「日本経済の問題」編
第7回 インフレとデフレのお話し:アベノミクスとインフレターゲット
第8回 財政政策と金融政策と国債の話し
第9回 日本が直面する諸問題:円高と産業空洞化&年金と国債と消費税
「世界経済の問題」編
第10回 世界経済の重要性:途上国援助について
第11回 豊かな国と貧しい国:制度設計の重要性

バナースペース

Koji KAWABATA

GSICS, Kobe University
2-1 Rokkodai, Nada
Kobe 657-8501, Japan

TEL +81-78-803-7101
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