研究内容Research

環境調和型酸化反応

環境調和型酸化反応の開発:活性炭―酸素系もしくは活性炭―30%過酸化水素系

Pd/Cは通常水素雰囲気下で水素化触媒として用いられます。しかし、Pd/C自身、脱水素化能を有することは古くから知られていました。私たちは、この脱水素化能に着目し、エチレンを水素受容体として水素移動反応によるアルコールの酸化反応を実現しました。8

その後、担持体であるC(活性炭)のみでも、酸素(空気)雰囲気下もしくは30% 過酸化水素水により、種々のジヒドロ芳香族化合物の酸化的芳香族化、第一級および第二級ベンジルおよびアルコールの酸化、ベンジル位のカルボニル化が進行することを見出しました。9

8) a) 林 昌彦, 川端裕寿,有機合成化学協会誌, 60, 137 (2002). b) 林 昌彦, Organometallic News, 40 (2003).
9) a) Y. Kawashita, N. Nakamichi, H. Kawabata, and M. Hayashi, Org. Lett., 5, 3713 (2003). b)M. Hayashi, Chem. Rec., 8, 252 (2008). c) 林 昌彦,川下由加,「現代化学」(東京化学同人), 9月号, 34 (2009).d) 林 昌彦,川下由加,「触媒」,持続可能社会実現のための触媒および触媒関連技術特集(触媒学会),51巻, 518 (2009).

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環境に負荷をかけない酸化反応の開発

Pd/C-エチレン系によるアルコールの酸化反応

 アルコールのアルデヒドあるいはケトンへの変換反応は、有機合成においてもっとも重要な反応の一つです。しかしながら、従来の酸化反応では、化学量論量のクロム酸や二酸化マンガンが用いられてきました。これらの酸化剤を用いる方法は、毒性や廃棄物の処理の点から望ましくありません。私たちのグループでは、環境に負荷をかけないアルコールの酸化反応の開発に取り組みました。そして、パラジウム触媒/エチレン系による水素移動反応を利用し、第二級ベンジルアル コールやアリルアルコールのカルボニル化合物への効率的な変換を達成しました。本反応で使用したパラジウム触媒は、容易に回収再利用でき、共生成物はエタ ンガスのみであることから、環境に負荷をかけない酸化反応といえます。

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活性炭-酸素系による酸化反応

 芳香族複素環骨格は医薬品のみならず有機材料などに数多く見られます。標的化合物を合成する過程でその骨格に様々な官能基を導入するためには、対応するジヒドロ体を経由する方法が有効です。しかし、従来のジヒドロ体の酸化的芳香族化反応には酸化剤として化学量論量あるいは過剰量の二酸化マンガン、酢酸 鉛、DDQなどが用いられています。それに対して、私たちのグループでは金属を含まない触媒として活性炭を、単純な酸化剤として酸素を用いた環境に負荷をかけない酸化反応の開発に成功しました。
 これまでに、この活性炭-酸素系を用いたベンズオキサゾール類、ベンズチアゾール類、イミダゾール類、ピラゾール類、ピリジン類という複素環化合物の合 成法を確立しています。さらに、最近、この活性炭-酸素系により、ベンジルアルコールのカルボニル基への酸化反応およびベンジル位への直接酸素導入反応が可能なことも見いだしています。

活性炭―酸素系によって合成した化合物群