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新しいタイプの相転移の発見

東邦大学理学部パンフレットより転載

icon 分子が拓く物質科学の世界

食塩といえば「イオン性結晶」の代表例だ。食塩は、1価のイオンのNa+とCl-が集まってできた固体 (1価固体)である。一方で、2価のイオンからできた固体も多数存在する。例えば、Mg2+とO2-からなるマグネシア (MgO)は、代表的な2価固体である。イオン性物質のイオンの電荷は物質に固有のもので、変化しないのが”常識”だ。

icon 常識を覆す化合物

ところが、当研究室ではこの”常識”を覆す新しい物質を見つけ出した。温度が変わると、イオンの電荷が変わるのだ。私たちが発見したのは、図に示したような二つの有機分子を組み合わせて作ったイオン性の結晶。この結晶は、室温では左側の分子から右側の分子に電子が1個だけ移動して、食塩のような1 価の陽イオンと陰イオンからできた結晶となっている。ところが-170℃に冷却すると、電荷の移動が起こってマグネシアのような2価の陽イオンと陰イオンからできた結晶へと変化する (相転移)のだ。おもしろいことに、冷却によっていったん2価のイオン性結晶となっても、室温に温めるとまた元に戻ってしまう。つまり、1価固体と2価固体が、温度によって相互に転換できることがわかったのである。

icon不断の研究の成果

研究室では、卒業研究の学生や大学院生が主体となって、様々な有機分子と金属が組み合わさった分子 (有機金属錯体とよばれる化合物群)の開発を進めてきた。今回の物質もその研究成果の一環であり、その背景には、地道な実験の積み重ねがあったことを忘れてはならない。