国際環境条約の研究

現在の研究の概要 カルタヘナ議定書
関係情報
バーゼル条約
関連情報
多国間環境条約
不遵守手続関係
JICAプロジェクト・環境保護研修
現在の研究の概要

国際的ないし地球的な環境問題を解決するために作成される多国間環境条約(MEA)の成立過程については、従来からも関心をもってフォローしていましたが、最近、いわゆる「締約国会議」(Conference of the Parties)における国際法形成活動について課題提起した論文、柴田明穂「締約国会議における国際法定立活動」『世界法年報第25号』(2006年3月)43-67頁、を発表しました。また、環境条約を含む国際法制度の形成・実現過程におけるNGOの役割を論じた論文、柴田明穂「国際法制度におけるNGOの機能と現実」『ジュリスト第1299号』(2005年10月)9-15頁、もあります。

最近はまた、多国間環境条約(MEA)の制度的展開にも関心をもつようになり、いわゆる環境条約不遵守手続(Non-Compliance Procedures)に関する研究をいくつか公表しました。そのきっかけとなったのは、バーゼル条約遵守委員会設立交渉に日本政府代表として参画し、また2002年設立直後の第1期委員に、私が日本政府指名の委員として選出されたことがきっかけです。バーゼル条約遵守メカニズムの設立経緯と設立文書を分析する以下のような論文を日本語と英語で公表しました。その後、不遵守手続の一般国際法上の位置づけを考察する以下のような2つの論文を公表しました。

1つは、バーゼル条約遵守メカニズムを題材にしつつ、不遵守手続と紛争解決手続の関係を、1つは、モントリオール議定書、オーフス条約、そして京都議定書の下に設置された不遵守手続を題材に、不遵守決定後の帰結、就中、条約上の権利特権を停止する措置と条約法との関係を考察しました。これまでの検討の結果、環境条約不遵守手続は、条約内部の規律を担いそのため独自の機能や運用を期待されつつも、一般国際法の規律の中でその制度的・運用上の展開がなされている、というのが現時点の暫定的な結論です。さらなる実証研究が必要だと思います。

  • 柴田明穂「バーゼル条約遵守メカニズムの設立-交渉経緯と条文解説」『岡山大学法学会雑誌第52巻4号』(2003年3月)47―103頁。
  • Akiho SHIBATA, “Ensuring Compliance with the Basel Convention: its Unique Features,” Beyerlin, Stoll and Wolfrum eds., Ensuring Compliance with Multilateral Environmental Agreements (Martinus Nijhoff Pub., 2006), pp.69-87.
  • 柴田明穂「『環境条約不遵守手続は紛争解決制度を害さず』の実際的意義-有害廃棄物等の越境移動を規制するバーゼル条約を素材に」島田征夫他編『国際紛争の多様化と法的処理』(信山社、2006年)65-89頁。
  • 柴田明穂「環境条約不遵守手続の帰結と条約法」『国際法外交雑誌第107巻3号』(2008年11月)1-21頁。
平成21~23年度・科学研究費挑戦的萌芽研究
「国際法理論と環境条約交渉のインターフェイス:『学者外交官』の実践」の概要

 本研究は、国際法理論と環境条約交渉のインターフェイスを分析することを通じて、形成途上にある条約制度がそれを基礎づけ枠づける(はずの)国際法の理論的支柱とどのように関連づけられて交渉されたのか(されなかったのか)を、動態的に解明することを目的とする。本研究の理論的問題関心は、国際法の分裂化現象(fragmentation)にあり、その態様を自立的制度が形成されるプロセスにおいて、どの程度国際法の一般理論が省察されているかを分析し、国際法の学としての一体性論への萌芽的貢献の一助とする。そのため、本研究では、条約交渉に参加する「学者外交官」の思考と実践をとおして、その経験値を積み上げていくという研究手法を採用する。つまり、分裂化の原因とされる自立的環境条約制度の形成過程に「入り込んで」、そこにおける国際法理論の機能を、交渉と理論を一体的に体現しうる「学者外交官」の実践をとおして考察するのである。

 本研究では、以下の2つの題材を取り上げる。第1に、国際法上の「賠償責任liability」概念が問題となっているカルタヘナ議定書の「責任と救済」制度の設立交渉、第2に、国際法上の「合意agreement」概念が争われている、バーゼル条約第17条5項の解釈決議作成に向けた交渉である。

バイオセーフティーに関するカルタヘナ議定書関係


メキシコ外務省内のFOC会場。26ヶ国の代表に1つの席のみ。こぢんまりとした交渉向きの設定。ただし、会場はFriendsの代表団、議定書締約国、非締約国の代表、環境NGOやインダストリーなどの参加者約120人で溢れかえっていました。

2008年5月ドイツ・ボンでの第4回締約国会合全体会議風景。

ボンでのFOC会合。ここでの交渉は日本にとって極めて厳しいものでした。民事責任に関する1条文を挿入するかどうかで、午前4時半まで、共同議長室でマレーシアやアフリカ諸国を中心としたライク・マインデット・フレンズと交渉しました。

今次会合の日本の対応は、外務省の菊地補佐を中心に、農水省、文科省、経産省、環境省からの担当が出席し、代表団でよく相談しながら対応できたのが良かったと思います。私は、行政的アプローチに関する規定や補足議定書の法的位置づけなど、主に法技術的な問題について席に付き、交渉・発言しました。

会議終盤、スイスと相談するマレーシア代表。今次会合では、2つのコンタクト・グループが設置され、時間的適用範囲に関するCG議長にスイス代表がなりました。

今回の会合では、残念ながら、会場とホテルとの往復の毎日となってしまい、メキシコの文化に触れる機会はほとんどありませんでした。道端の出店で売られている1つ4ペソ(=30円)のタコスが美味しかったことぐらいでしょうか。

 2009年2月23日から27日まで、メキシコの首都メキシコシティにて、カルタヘナ議定書「責任と救済」に関する国際ルール作りに関する「共同議長フレンズ会合(Group of Friends of Co-Chairs=FOC)」が開催されました。

 まず、この会合設置に至った経緯を説明しましょう。すでに報告したとおり、アドホック作業部会においてもFOCが設置されていましたが、これは作業部会が設置した非公式な会合でした。カルタヘナで行われた第5回アドホック作業部会は、このFOCをドイツ・ボンで開催される第4回締約国会議直前に3日ほど開催することを決めており、実際、COP4の前にこの会合が開催され(柴田は出席せず)、交渉文書につき更なる検討が行われました。 2008年5月12日から16日まで開催されたCOP4では、共同議長案CEPに不満をもつアフリカ諸国が巻き返しをはかり、LMOによる生物多様性への損害に関する行政的アプローチを基礎とした法的拘束力ある国際文書=条約の中に、民事責任に関する条文を挿入することを強く求め、日本やペルー、パラグアイなどの反対もありましたが、結局、これが最終的には受け入れられたのでした。しかし、条約となる国際文書の具体的条文に関する交渉は、ボンではほとんど進展せず、COP4は、「民事責任に関する1条文を含む行政的アプローチを基礎とした法的拘束力ある責任と救済に関する国際文書作成に向けて交渉する」ことに合意し、この交渉を行う場としてFOCを設置して、名古屋で開催される次回COP5までに2回会合を開催するマンデート与えたのでした(Decision BS-IV/12)。このFOCは、日本を含む計26ヶ国で構成されます。

 第1回FOC会合には、アフリカからエチオピア、リベリア、南アなど6ヶ国、ラ米からブラジル、パナマ、メキシコ、パラグアイなど6ヶ国(部分的にローテーション)、アジアからマレーシア、インド、フィリピン、中国の4ヶ国(パラオとバングラデシュが欠席)、EUと東欧合わせて3ヶ国に加えて、日本、スイス、ノルウェー、NZが出席しました。EUやノルウェーの代表の顔ぶれが変わり、また、法的拘束力ある国際条約を作成することが決まったこともあってか、一部アフリカ諸国を除き、いずれの国の対処方針もかなり現実的なものになってきたように感じられました。特に、ラ米諸国は、「損害の急迫な虞(imminent threat)」につきこれを条約の対象に含めるべきではないとするパナマやコロンビア、民事責任規定に関し詳細規定を嫌うウルグアイなど、日本がこれまで前面に立って主張してきたことが、これら途上国が替わりに主張してくれるような場面も多く見られました。ドイツ・ボンでは、日本が交渉をブロックしているのではないかとNGOなどから非難される場面がありましたが、いかにこれまで日本が真剣に対処方針を検討し、現実的で実際に機能する国際文書を目指していたかが、証明されたような感さえありました。

 会合では、まず交渉文書にブラケットが付いている条文のみを対象とした第1読を終え、条文全体を対象にした第2読の途中まで終えることができました。議論の成果としては、第1に、国際文書の法的位置づけを「カルタヘナ議定書の下にある補足議定書(Supplementary Protocol)とする」とする共同議長提案がほぼ認められたことです。つまり、FOC参加国は、この文書が「補足議定書」という国際条約として採択されること目指して交渉することを認めたことになります。第2に、行政的アプローチのコアとなる条文が、事業者(operator)の定義と財政的保障規定を除いて、ほぼ定まったことです。パナマなどが「損害の急迫な虞」を含めることに最後まで反対していましたが、恐らく、本国による検討により、次回は柔軟な態度になるでしょう。ただ、補足議定書の時間的適用範囲につき若干不合理な主張がアフリカ諸国からなされ(遡及適用を許すような規定)、これをどうするかが新たな課題となりました。第3に、民事責任に関する1条文についても、まだまだ議論はあるでしょうが、大まかな落としどころが見えてきたような気がします。

 最後に、会合では、次回第2回会合を開催することが決定され、マレーシアがこれをホストし(クアラルンプール)、その財政的支援を日本が行うことが表明されました。次回会合で全ての条文からブラケットがはずれるとは思えませんが、一部アフリカ諸国が政治的ではなく現実的且つ合理的な対応をすれば、2010年10月に予定される名古屋でのCOP5において、「責任と救済に関する名古屋補足議定書」が採択される可能性は、かなり高くなってきたというのが、私の印象です。

関連サイト
生物多様性条約事務局
http://www.cbd.int/doc/?meeting=BSGFLR-01 ENB
http://www.iisd.ca/biodiv/bs-gflr/
農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kankyo/090305.html


会議場のカルタヘナ国際会議場


カルタヘナのビーチ:
週末も交渉が続きここで泳ぐことはできませんでした。


今次会合の日本政府代表団は
外務1,経産1,農水2,環境1,神戸大1という構成


全体会合議長席にすわる共同議長、事務局職員。日本の席より


18ヶ国で構成されるフレンズ・オブ・チェアでの緊迫した議論。まだこの時点では、NGOや非締約国等も傍聴できていました。/p>


会議に参加した神戸大・国際法専攻の学生


神戸大学GSICSと生物多様性条約事務局との協力協定の調印式

 2008年3月12日から19日まで、南米コロンビア・カルタヘナにて、カルタヘナ議定書の下で「賠償と責任」に関する国際ルール作りをするアドホック作業部会の第5回会合が開催されました。第3回、第4回に引き続き、私は今回も日本政府代表団の一員として出席しました。本交渉の経緯等は下記の第3回会合の報告、第4回会合については学生の報告をご覧下さい。

 今次会合は、同作業部会が、5月ドイツで開催される締約国会議に向けた成果を出す最後の機会でもあり、各国の根本的な立場の違いがあるものの交渉の進展が予想されました。この予想は的中し、会合前半終盤の土曜日に、共同議長が、妥協案の主要ポイントをまとめたコア・エレメント・ペーパーを配布しました。この妥協案に対しては、厳格責任に基づく法的拘束力ある詳細な条約作成を求めていたアフリカ諸国や一部アジア諸国の急進派から不満が続出し、また、このコア・エレメント・ペーパー(CEP)の交渉上の位置づけにつきラテンアメリカ諸国から疑問が呈されました。一時、交渉はデッドロックの危機に瀕しましたが、共同議長の巧みな議事采配、交渉進展を望むEC、スイスを含むヨーロッパ諸国の主張により、少数国で構成される非公式協議を続行することになりました。もっとも、文書の法的性質(CEPでは、行政的アプローチについては「補足議定書」採択の可能性が示唆されていましたが、民事責任制度については非拘束的な文書にするとの妥協案)については、未だ議論できる状況ではないとして、CEPから削除されました。

 具体的には、18ヶ国(日本、マレーシア、フィリピン、中国、インド、NZ、ノルウェー、スイス、アフリカ4ヶ国、ラ米4ヶ国)で構成されるフレンズ・オブ・チェア(Friends of the Co-chairs:FoC)を立ち上げ、CEPの取り扱い、その内容について非公式に議論することになりました。火曜日から断続的にFoCが開催されました。FoCでは、まず、CEPの全体について各国が意見を述べる第1読を行いました。共同議長は、巧みに、議論の先鋭化を回避し、いわば各国が鬱憤をはらす場とする方策をとりました。この段階では、NGOも傍聴できたことも1つの理由でしょう。

 火曜日夕方、第1読が終わり、共同議長レフェベールは、語気を強めて、「将に交渉の分かれ道にある。既に5年間交渉してきた。法的性格についてはバランスをみて提案したつもりである。CEPにて合意できなければいつどのような形で合意が可能なのか、前進したいのであればパッケージとしてのCEPをベースに交渉を開始するしかない、さもなければ土曜日のrev.1をそのままCOP/MOPに提示するしかない。」と述べ、各国に妥協を迫りました。

 この共同議長の強い決意に正面から反対する参加国はなく、午後6時半より、NGO等のオブーバーを排除して、CEPの第2読そして本当の交渉が始まりました。ここに至って全体会合では急進的な主張をしていた国々もかなり妥協的な態度を示し、行政的アプローチに関して議長が示した妥協案をベースに若干の文言修正をすることにより、次々と合意が成立していきました。中でも、「生物多様性への損害」の定義について、基本的には狭い範囲にて合意が成立したのは画期的と言っても良いでしょう。財政的保証の論点においてWTO整合性の議論が開始されたときには、また交渉決裂かとも思われましたが、ブラジル等も合意できる条文が合意できたのも重要な成果でしょう。

 火曜日はそのまま午前4時20分まで交渉が続き、終盤、疲れで妥協の雰囲気がなくなるまで、多くの論点につき建設的議論と合意条文が出来ました。会合最終日の水曜、午後3時から開始された全体会合で、FoCで議論した文書を会議報告書に添付することが認められました(ここで初めてFoCの成果が公式になったのです)。更に、EC、スイスなどの提案により、この建設的交渉のモメンタムを持続するために、ドイツでの第4回締約国会議までにFoCを再開することになりました。メンバーは、上記18ヶ国に加えて、アフリカ、ラテンアメリカから2ヶ国ずつ、アジアからはバングラデシュとパラオ、東欧から2国が参加することになりました。具体的には、5月7日からドイツ・ボンにてFoCが開催されることになりました。

 5月12日からの第4回締約会合では、もしかしたら「生物多様性に対する損害に関する責任条約」の交渉がまとまるかもしれません。国際法的にも大変興味深い文書になりそうです。引き続き、学生と共に、フォローしていきます。


ICAO本部会議場前


作業部会での日本代表の席


作業部会の全体風景


ノートルダム大聖堂


CBD事務局内

 2007年2月19日より23日まで、カナダ・モントリオールにある国際民間航空機関(ICAO)本部会議場にて、バイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書第27条に基づき設置された「責任と救済(liability and redress)に関する専門家アドホック公開作業部会第3回会合」が開催されました。柴田は、日本政府代表団(外務省、農林水産省、経済産業省から合計7名)の一員として本会合に出席しました。なお、日本は、過去2回の会合には出席しておらず、今回初めて参加しました。

 カルタヘナ議定書第27条は、「責任と救済の分野における国際的な規則及び手続を適宜作成する方法」を採択し、その作業を第1回締約国会議から「4年以内に完了するよう努める」ことを締約国に求めています。この規定に基づき、第1回締約国会議は決定BS-I/8(2003)を採択し、本アドホック公開作業部会を設置し、そのマンデートを「議定書第27条に定める規則と手続の要素につき選択肢を策定すること」と定めました。共同議長の1人には、環境損害に対する国家ライアビリティーに関する著書も著しているオランダ外務省のRene Lefeberが就任しています。

 作業部会では、本問題を11の論点に分け、書面や会議で表明された各国提案条文をまとめたSynthesis (UNEP/CBD/BS/WG-L&R/3/2 and add.1)を基礎に議論が行われました。今次会合では、責任を負う主体ないし責任の性質に関する第4論点から議論を開始し、免責事由、責任の上限、財政的担保(保険等)、請求に関わる事項(管轄裁判所、執行、訴権等)、能力開発(キャパシティー・ビルディング)、そして最終成果物の法的性格まで議論を行い、全11論点全てについて第一読を終えました。なお、責任制度の根幹のなす第1論点:範囲、第2論点:損害の定義、そして第3論点:因果関係については直接議論の対象とはなりませんでした。今後、これら根幹論点も含め書面による条文案の提出を経て、次回第4回会合(10月22日~、モントリオール)より、いよいよ「条文交渉」が始まる様相です。

 今回の会合では、特に、責任の性質(厳格責任にするか過失責任にするか)、責任を負う主体の問題(輸出者や輸入者か、それとも「事業者」か)、責任制度構築のアプローチ(civil liabilityかstate liabilityか、それとも行政的アプローチか)、最終成果物の法的性質(ガイドラインか法的拘束力ある文書か)について、活発な意見が出ました。まだ交渉ではないので、各国とも言いっぱなしでしたが、いくつかの論点で意見の対立、考え方の違いが露呈し、今後の交渉の難しさを予想させました。また、欧州共同体が、いわゆる行政的アプローチを基礎としたCOP/MOP決定案全文を提示し、欧州共同体が考える責任制度の全体像を垣間見ることができました。日本も、現実的且つ実効的な制度にすべきと主張し、一部の理想主義的な考え方と対峙していく姿勢を明らかにしました。他方、遺伝子組み換え作物の一大輸出国で数少ない締約国であるブラジルは(米国、カナダ、オーストラリアなどはいずれも非締約国)、全てのオプションをオープンにしておくように主張し、慎重な姿勢を崩しませんでした。会合後半には、共同議長から、確立すべき制度の「青写真Blueprint」が提示され、今後の交渉の枠組みが明らかになりました。

 カルタヘナ議定書の下での責任制度の交渉は、遺伝子組み換え生物(LMOないしGMO)の安全性という科学的知見に大きく左右される点、「生物多様性に対する損害」という従来の損害概念を越える内容を包括しうる点、そしてそのような問題をライアビリティー(Liability)という制度で対応しようとしている点において、学術的にも多くの新たな挑戦を投げかけていると思います。引き続き、関心をもってフォローしていきたいと思っています。

 なお、今回のモントリオール出張では、生物多様性条約事務局でJPOとして働いておられる香坂 玲(こうさか りょう)さんにご紹介いただき、事務局資料室で大変有益な資料収集をすることができました。最高気温がマイナス15Cという極寒の日もありましたが、モントリオールは治安や生活環境も良く、CBD事務局も70人という大所帯ですので、インターンシップ先としての魅力もあると思いました。

バーゼル条約締約国会議関係


バリ国際会議場内、COP9全体会合風景。


第17条5項問題コンタクトグループにて。日本(私)に近づき相談を持ちかける南ア代表(アジア系の方です)。


私の指導学生Nixsonくんがインドネシア環境省の一員として、この会議をサポートしていました。GSICS学生2名と一緒にバリ・ダンスを見ながら夕食を一緒にしました。

 2008年6月23日から27日まで、インドネシアのバリにて、バーゼル条約第9回締約国会議が開催されました。私は、主に、BAN改正をめぐる条約第17条5項問題(改正発効に関する条文の解釈の問題)を中心に、日本政府代表団の一員として対応しました。

 第17条5項問題を扱うコンタクトグループが設置され、連日、ほぼ1日中交渉が行われました。今次会合では、EUが解釈決議の採択には締約国のコンセンサスが必要であるとの立場をとることになり、先回会合で日本(柴田)がほぼ孤立して主張してした法律論に対し支持が広がりました。しかし、エジプトなどが、解釈決議にコンセンサスを必要としてしまうと、BAN改正を早期発効させる決議案が一部先進国によりブロックされかねないとの政治的理由から、最後まで、ほとんど法的な理由なくして反対したため、結局、議論は振り出しに戻った形で終わってしまいました。

 その後、閣僚レベル会合の結果として、スイスとインドネシアが中心となってBAN改正の扱いも含めバーゼル条約再検討のプロセスを開始することになりました。今後は、少し異なる観点から、このプロセスの中で第17条5項問題も審議されていくことになると思われます。


国連ナイロビ本部、会議場前


会議場内、バーゼル条約第8回締約国会議の立て看板


ハイレベル会合にて、講演するアキム・シュタイナー・UNEP事務局長。


会議全体会合の様子

 有害廃棄物等の越境移動を規制するバーゼル条約の第8回締約国会議が、2006年11月27日から12月1日まで、ケニア・ナイロビにある国連ナイロビ本部会議場にて開催されました。私は、日本政府代表団の一員として、また、バーゼル条約遵守委員会委員として、同会議に出席しました。代表団の一員としては、主に法律問題を中心に交渉にあたり、遵守委員としては、今回新たに選出された私の後任となる韓国出身の新委員との意見交換、情報交換に努めました。

 今次会議では、電子・電気機器廃棄物(e-waste)をテーマとしたハイレベル会合が開催され、UNEP事務局長のアキム・シュタイナー司会のもと、e-wasteの環境上適正な処理の方法について、科学技術、国内法制、国際法制等の様々な角度から議論されました。私は、シュタイナー氏とは、彼がジュネーブの国際自然保護連合(IUCN)事務局長時代に親交を深めており、彼のUNEPにおけるリーダーシップに期待している1人です。また、今夏、コートジボワールにて多数の死傷者を出した有害廃棄物の違法投棄事件をめぐる政治的な議論も行われました。この事件を起こした船舶や事業者に関わりある(事実関係は調査中)オランダ、スイスなどは、誠意ある対応を強調していましたが、polluter pays principle(汚染者負担原則)を適用して、国家ではなく、事業者(船舶)の責任によってこの事件を処理したい意向が見え隠れしていました。

 締約国会議の法律問題で私が積極的に関わった議題は、廃棄物の違法取引に関わる国内の検察官・裁判官向けのガイドライン作成に関する議題、そして、会議終盤までもめた「条約第17条5項の解釈」に関する議題です。前者は、事務局にガイドライン作成のマンデートをほとんど白紙委任にて行おうとしていた当初の案を、より利用しやすく、そして現実の経験等に裏打ちされたガイドラインが作成されるよう、締約国によるインプットの機会を設ける新たなプロセスを確立する案に修正することができました。日本が提出した決定修正案は、その後の交渉による文言修正を経て、ジャマイカ、カナダが共同提案国となり、会議最終日の全体会合で異論なく採択されました。

 後者の議題、すなわち「バーゼル条約第17条5項の解釈」は、一見すると、純粋に法律的な議題であるように見えますが、実は、この問題は、1995年に採択されたバーゼル条約改正(OECD諸国から途上国への条約対象物の輸出を全面的に禁止する改正=BAN改正)をめぐる、極めて政治的な背景のある議題です。1995年改正が、バーゼル条約の趣旨・目的を変えうるような重大な改正であることは、周知のごとくです。この改正は、バーゼル条約を政治化させ、その正常な運営を危機にさらす「喉にささった棘」とも言えるでしょう。今回の上記議題は、この改正の発効を早期に実現したいとする勢力が、条約改正の発効要件に関するバーゼル条約第17条5項を取り上げ、その解釈をかれらに有利なように決定しようとした企てです。会議中に急遽議題に挙げたという意味では、手続的にも誠実さに欠ける対応と言えるでしょう。

 EU、アフリカ諸国が当初提案した決定案は、明らかに、BAN改正を早期に発効させるためにある解釈をとることを暗黙の前提としたものでした。彼らによると、条約第17条5項でいう発効に必要な3/4とは、BAN改正が採択された当時の締約国とその数(82ヶ国)の3/4、すなわち上記82ヶ国中の62ヶ国、もしくは、上記82ヶ国に関係なくその後の締約国も含め62ヶ国が批准すれば良いと解釈するのです。現在、BAN改正を批准した国の数は62ヶ国(但し、上記改正採択当時の82ヶ国中で批准したのは41ヶ国のみ)ですから、EUやアフリカ諸国は、この62ヶ国という数字をもって改正発効したとの解釈を決定したいのは、目に見えています。

 これに対して、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランドは対案を出し、結果を予断しない第17条5項の解釈検討のためのプロセスを作るという案を出しました。この4ヶ国案とEU・アフリカ案との間で、コンタクトグループ内で厳しい議論が行われました。日本も、条約の解釈基準に関する一般論や、条約法条約第31条の解釈論を適宜展開し、「法律的に筋の通った」決定案になるよう最大限の努力をしました。交渉最終段階では、一時、日本が孤立するような場面もありましたが、粘り強く法律論を主張し、妥協する姿勢を見せなかったことも奏功して、最終的には、日本にとっても受け入れられる決定案が作成されました。

 もっとも、この決定案では、本件に関する主戦場が次回バーゼル条約作業部会に移っただけですから、気を抜かずに準備・対応していくことが必要でしょう。ウィーン条約法条約第31条3項(a)及び(b)の我が国としての解釈も整理しておく必要があるでしょう。

バーゼル条約遵守委員会関係情報

 バーゼル条約遵守委員会は、2006年4月に第4回会合を開催しました。私の4年間の任期の最後となる会合でした。遵守委員会は、その議事録を公開することを決定しましたので、現在、バーゼル条約事務局HPより、委員会の議事録をダウンロードすることができます。
http://www.basel.int/legalmatters/compcommitee/index.html

JICAプロジェクト・マレーシアCLMV向け環境保護研修

2005年度の授業風景

今年(2006年度)の授業風景

 今年で3年目になりますが、今年も2006年9月18日から9月21日まで、マレーシアで開催される、JICA主催の「CLMV向け環境保護研修」(国際環境条約及び日本の環境条約への取り組みについて)に、講師として派遣されました。

 「CLMV」とは東南アジア地域の国の頭文字を取ったものであり、「C」がカンボジア、「L」がラオス、「M」がミャンマー、「V」ベトナムです。
 この研修は、CLMV各国の若手環境担当の国家・地方公務員を対象とした、環境問題や国際環境条約の知識を深めてもらうことを目的とした研修です。

 国際的に重要な環境問題や日本の廃棄物法政策などを紹介しながら、それら環境問題の解決、環境法政策の立案にとって多国間環境条約がいかに重要であるかを理解してもらい、それらの知識を深めると共に、問題分析力や解決能力を身に付けてもらうことを目的としています。