海外実習


2007年度 海外実習:
「国際環境条約交渉及び環境条約事務局・国連機関等の視察」

 

 2007年度海外実習として、院生主体のNGOを運営し、バイオセイフティーに関するカルタヘナ議定書 「賠償と救済に関するアドホック公開作業部会」第4回会合(カナダ・モントリオール開催)に参加してきました。今回は、神戸大学・平成19年度教育研究活性化支援経費「国際公務員の基礎スキル向上のためのカリキュラム」として、モントリオール又はニューヨーク所在の条約機関や国連機関等の視察もあわせて行いました。
第4回会合参加報告
国際機関視察報告
準備の様子
メンバー紹介
海外実習及び支援経費概要


第4回会合参加報告

-2007年度カルタヘナ議定書責任と救済に関する公開作業部会第4回会合の視察
10月22日~26日

 カナダ・モントリオールにて開催された、標記会合に参加しました。10月22日から26日までの5日間に渡り行われた会合は、締約国からの代表の他に、非締約国、産業界、NGOや私たちのような教育関係者など、総勢200名以上が参加する会合となりました。

交渉の場は、全体会合の他に、地域グループごとに意見を調整するため地域会合や、主要な問題別の小会合が開催されました。また交渉作業に関しては、事前に提出された多くの条文草案を基にし、政府代表を中心として参加者が、それぞれの意見や立場を主張し合い、文言を修正し、いくつかの草案に絞り込まれました。 私たちKURIMは、議事録を作成して整理すると共に、各国の代表団の他、産業界、NGOからの参加者と話し、考えや意見など情報収集を行いました。7人という会合では大人数の団体であったため、他の参加者からの興味を集めました。
 その様子及び議論が、IISD(環境関連の国際交渉の要約を報告しているNGO)のページに掲載されています。
IISDのページはこちらから(ページ下部Miscellaneous PhotosにKURIMメンバーの写真があります)

取材
政府代表と議論するメンバー

 

 会議初日、最初の議題は、どのように遺伝子改変生物による損害にアプローチするかについてでした。行政機関が損害の救済、回復を行うことを定める行政的アプローチと、事業者の責任を明示し民事的責任を定めるアプローチを、どのように規定し、組み合わせるかについて意見が表明されました。さらに、議論している文書を、法的拘束力のある議定書にするか、法的拘束力のないガイドラインにするかについても、各国の意見が主張されました。この時点で、大きくそれぞれの意見が違い、人数が多く、発言のルールがある全体会合では、議論が行いにくいと議長は判断し、午後からは地域別会合の開催を提案し、承認されました。

 今回のような国際会議では、慣行的に全体会合の前や、合間に同じ意見を持つ国同士や地域別で意見の調整を行います。全体会合では、全ての参加者に発言権はあるものの、そのグループで意見がまとまれば、代表として一国が主張します。なので実際には、限られた国の代表が発言し、議論します。事前にこのようなグループに分かれることは予想できたので、私たちはそれぞれに担当を割振り、各政府代表の発言のフォローや、休憩中に質問を行い情報収集をしました。このグループによる地域会合は、NGOは参加できず、政府代表のみで話し合われました。私たちはオブザーバーとして、議論だけを聞こうと試みるも、入室を断られました。ある政府代表によると、より本音で話しやすくし調整するため、部外者は入れたくないとのことでした。今回の会合では、以下のようなグループに分かれてました。

・EC ・JAUSCANZ(EC以外の先進国:日・豪・米・加・NZ)
・アジア・オセアニア ・アフリカ
・中南米諸国(GRULAC) 

そして、全体会合で積極的な発言をしていたメインプレーヤーとなったのは、ポルトガル(EC代表)、マレーシア、コロンビア、リベリア(アフリカ代表)、インド、ブラジル、ノルウェー、日本、カナダ(非締約国)アメリカ合衆国(非締約国)でした。地域グループと一致しないのが、今回の立場の違いを暗に示しています。

 

 会合2日目以降は、午前中に全体会合で話し、午後からは問題別に、小会合を行うことが決まりました。一つは、アプローチについて、他方は、損害の定義や地理的範囲などついて話合う問題別小会合でした。こちらは、正式な部会となるので、NGOでも参加できるものでした。

会議場の様子1
問題別小会合では、条文草案をスクリーンに映し、参加者からの意見に従い、文言修正や削除を行われました。
会議場の様子2
ある日のタイムスケジュール。この日は23:00まで審議が行われました。

この問題別小会合においも、意見の相違は容易に埋まらぬものの、条文草案の検討や具体的な議論がなされていきました。特に議長は、会議を進展させなければならず、そのために参加者の意見を尊重し、選択肢を減らすことを促進していきました。問題別小会合は連日夜間に及びました。会合3日目、損害についての小会合は、議長の裁定に関して参加国が不満を感じ、議論が紛糾、一方の小会合では、議長主導の下、各参加者の意見を残しつつ、できるだけ選択肢が減るよう、協力的な雰囲気あり、議論が進みました。この夜遅くに帰り、ホテルで報告しあったメンバーは、議長の裁定の重要さを実感したのでした。

 会合最終日、この日にこれまでの問題別小会合で議論されてきた条文草案が、全体会合で提示されました。若干の議論の後、採択され、いくつかの選択肢に集約されたものとなりました。その他全体会合で決定した部分を加えて、今会合で扱えなかった部分はそのままにし、会合は幕を閉じました。残された議題は、2008年5月の締約国会合への成果文書提出を目指し、次回第5回へと議論は継続されることになりました。

会議場の様子3
全体会合で議場の片隅に急遽集まる、GRULAC代表達

 本会合は、2008年5月までに決定させるという時間的制限がある中、本格的に意見を収斂する会合となりました。メインプレーヤーであった政府代表の他、発言はしないものの、地域会合や会議場の内外で意見交換し、どの国を支持するべき観察する代表、政府代表と互角に議論をするNGO、政府代表と接触し、議論の動向を伺ったり、政府代表と密接に意見を交換する産業界と、非常に多様なアクターが関係しあう会合となりました。
私たちは、7名と言う大人数を活かし、各メインプレーヤー達へ積極的に、声をかけ、情報収集を行いました。最終日になると、フォローしていた代表とも打ち解けた関係になることができました。また、分担して、毎日長時間に及んだ会合の議事録を作成し、帰国後、それを要約したものを作成しました。これらの作業を通じ、各国家がどのような考えを持って、発言し、行動するのか、いかに多国間条約が形成されるのか、新たな国際法規範が生み出されていこうとする現場を体験することができました。

議事録取り

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国際機関視察報告

-環境条約事務局・国連関係機関の視察及びインタビュー

 モントリオールとニューヨークにて、合計11名の国際公務員の方とインタビューし、その仕事やキャリアを伺い、国際公務員に向けて必要なキャリアとは何かを伺いました。
中でも日本人職員、法律分野の職員の私たちのキャリアプランや法律分野の専門性の活かし方などを学ぶことができて、極めて有意義でした。
このインタビューは、メールの書き方指導を受け、国際機関に問い合わせを行い、人脈を活かして、学生自らの力で取り付けたものです。予想以上に多くの方にお話を伺うことができました。
以下に、インタビューのポイントをまとめます。

 

・日本人職員

 福原美紀さん(ユニセフ)、香坂玲さん(CBD事務局)、小野島吾郎さん(国連人権高等弁務官事務所)、米川佳伸さん(国連事務局経済社会局)の4人の日本人職員の方から、忙しい職務の中、お話を伺いました。
インタビューから浮かび上がった、「日本人が」国際公務員を目指すにあたり求められるスキル及び素養とは以下の点でした。
1.言語的ハンディを補い、競争に勝つ専門性
2.約10年他の仕事で経験を積む覚悟
3.厳しい現実と激務の中でも失われないモチベーション、そして、それを支える使命感と倫理観
4.多様な文化的背景を理解しつつ、日本人の良さを生かして仕事をすること

ユニセフ職員の方と
インタビュー後、福原美紀さんと

 

・法務官

法務局の方と
Santiago Villalpandoさんのオフィスにて

Santiago Villalpandoさん(国連事務局法務局)、Lyle Glowkaさん(CBD事務局上級法律顧問)、Cristina Pellandiniさん(ICRC、弁護士)の3人からの話をまとめると、国際法の専門家として必要なスキルとは以下の3点が挙げられます。
1.法律文書を操ることのできる高い語学力(英語とフランス語は必須)
2.論文の公表による学術的業績
2.チームで動くためのマネジメント能力、柔軟性など、法律知識以外の能力

 

 この他にも、Broddi Sigurdarsonさん(国連先住民の問題に関する常設フォーラム 事務局)、Johan Celsさん(UNHCR NY事務所)、Lijie Caiさん(CBD事務局)、Jim Sniffenさん(国連環境計画)から話を伺いました。これら全ての方々から、今回学んだこととは、専門性と経験(国連機関でのインターン、博士号取得、公開論文など)を高め自らの強みを作り、広い視野で柔軟性を持ち挑戦することであったと思います。
これらのアドバイスを受け、私たちは常に能動的に、自らのキャリアを追求していきたいと思います。最後に、国際機関での激務の中、貴重なお時間を割いてくださいました、皆様に深く感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 

国連本部

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準備の様子

-海外実習活動開始
5月中旬

 海外実習参加を希望する新M1が集まり、第4回会合参加に向けて、去年設立されたNGO・KURIMを引き継ぎ、今後の指針を決定しました。

 

6月22日

 海外実習の説明会が行われ、今後のスケジュールが確認され、正式に参加希望者が確定されました。今年は、M1・6名を中心に活動していきます。詳しくは、メンバー紹介をご覧ください。

 

-参加手続確認
6月26日

 今回の会合の事務を担当する生物多様性条約(CBD)事務局へ、NGOが会合にオブザーバーとして参加するための資格を確認し、参加申込み手続を確認するため、現地時間に合わせ、電話問い合わせをしました。
英語でのやり取りとなるため、事前に質問事項を書いた原稿を用意し、電話に望みました。
相手の第一声がフランス語のため驚きましたが、その後NGOの参加要件を確認し、その手続を確認しました。会議用電話使用したため相手の声が聞こえ、全員が緊張のひと時でした。


事務局問い合わせ

 

-参加申込み
7月6日

 前回電話で確認した申込み手続に従い、参加申込書を作成し、事務局へFAX送信を行いました。
その直後、CBD事務局に電話をし、FAXがきちんと受信されているかどうか確認しました。
また、メールでもFAXで送信した申込書と同様のPDFを送信し、確実に参加登録を行ってもらえるようにしました。
3日後、事務局担当者より、私たちの参加を歓迎するとの旨のメールが届きました。

 

-夏季勉強会
8月4日(第1回)

 会議の参加に向けて、第1回夏季勉強会を開催しました。勉強会は、会議の議論を理解し、発言や有意義な活動を行うため、重要な準備作業となります
メンバーを3グループに分け、1)カルタヘナ議定書の概要(上田・野中)、2)これまでの公開作業部会の交渉経緯(桑田・山下(維))、3)環境分野における賠償制度の概要(藤井・山下(朋))について、それぞれ調査を進め、進捗状況の報告をしました。
また、夏季休暇中の課題を設定し、今後も夏季勉強会を開催していくことを確認しました。

勉強会

 

8月10日(第2回)

 第2回夏季勉強会では、CBD事務局のHPに公開されている会議資料を基に、今後の調査の方向性を確認しました。


8月20日(第3回)

 第3回夏季勉強会では、前回の会議資料の内容を報告を行うと共に、カルタヘナ議定書における遺伝子改変生物のライアビリティー制度についての内容・議論に関する論文報告を行いました。


8月29日(第4回)

 第4回夏季勉強会では、文献リストとこれまでの調査の簡単な進捗状況を報告しました。

文献リスト

 

9月5日(第5回)

 第5回夏季勉強会では、国際環境法におけるライアビリティー制度について複数の論文を下に、その内容と論点を確認をしました。


9月13日(第6回)

 第6回夏季勉強会では、夏季休暇最後となる次回勉強会に向け、現状と方向性を報告しました。また、担当教官より助言をもらいました。


-報告会
10月1日

 この日から、大学院の後期授業が始まり、夏季勉強会の成果を発表すべく多国間交渉論の時間を使って、カルタヘナ議定書におけるライアビリティーの問題を初めて聞く学生に向けて、報告を行いました。
内容は、カルタヘナ議定書とはどのようなことを定めたものか(上田・野中報告)、ライアビリティーとは何か(山下(維)・山下(朋))、また、どのような場で議論され、現在何が論点となっているか(藤井・桑田)、についてでした。
知らない人へ説明をすることにより、これまで学んできた知識を整理して、理解を深めるプロセスとなりました。

 

-インタビュー練習
10月16日(第1回)

 CBD事務局職員及びNYの国際機関職員へのインタビューに向けて、練習を行いました。
私達はこれまで、インタビューするため、相手の業務を調べ質問内容を考えるのはもちろんのこと、インタビューのアポイントをとるためをするため、書簡やメールを"適切な"英語で書く訓練を重ねてきました。
この日のインタビュー練習では、先生や先輩を相手に面接のシュミレーションを行いました。また、その姿をビデオで撮影し、後で全員で見返しながら、良い点・悪い点を指摘し、改善を図りました。実際に、自分の姿をモニターで客観的に見ることで、不足している点が明確に見えました。他の人の姿や指摘から、更に準備を重ね、より良いインタビューができるようにしていきたいと思います。

 

10月18日(第2回)

 前回に続き、インタビュー練習を行いました。インタビュー相手には忙しい中時間を割いていただくため、インタビューを有意義な議論にしなくてはなりません。メンバーは、更に質問内容、聞き方を練り直し、よりスムーズに会話が流れるようインタビュー構成も考えました。結果は、前回より改善は見られたものの、反省点も残りました。きちんと質問などを再度考え直す一方で、相手からの質問や反応に臨機応変に対応することが求められると、痛感しました。
明後日は、いよいよモントリオールへ向けて出発です。会議に参加するための資料の準備を含めて、残された時間で可能な限りの準備を行い、出国したいと思います。

 

インタビュー練習

 

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KURIM 2007メンバー紹介

氏名
(役職)
所属 専門:研究テーマ  今回の会議に向けた意気込み
藤井 麻衣
(代表)
国際協力研究科・M1 国際環境法:
国際環境法(カルタヘナ議定書)とWTO法の抵触
「みんなでKURIMを盛り上げていきましょう!」
山下 朋子
(副代表)
法学研究科・M1 国際法:
難民や外交的保護など人の移動に関して
「学問上の理論が現実の国際社会においてどのように実現されてゆくのかを見てみたい。」
上田 はるか
(広報)
国際協力研究科・M1 国際人権法:
女性の人権
「国際法が形成される現場を傍観するだけでなく、積極的に関わりながら体験してきたいと思います。」
野中 祥子
(書記)
国際協力研究科・M1 国際環境法:
南極条約体制における観光活動の展開
「ダイナミックな国際会議の動きを体感しながら、その過程に少しでも参加したい。」
山下 維介
(Web担当)
国際協力研究科・M1 国際人権法:
子どもの権利委員会とユニセフの関係
「先進国・発展途上国・企業・環境NGOsと、国際社会の様々なアクターが集まる会議での、利害の衝突・調整の現場を見たい。」
桑田 清貴 国際協力研究科・M1 国際環境法:
国際環境法における遵守手続
「今回の会議では、何か主張できるとまでは思はないが、せめて会議の流れについて行きたい。」
本田 悠介 国際協力研究科・D1 国際法:(環境法・海洋法)
「会議全体をフォローできるようにがんばります。」

 

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海外実習及び支援経費概要

-2007年度海外実習
1.目的

 国際環境条約交渉の現場及びそれをサポートする環境条約事務局を視察することにより、環境条約の運営実施に関する法政策がいかに決定されるか、環境条約事務局や国連機関等で働く国際公務員がいかなる役割を果たしているかについて学習します。また、条約交渉に参加するための諸手続(NGOの設立、参加要請書の作成・提出、登録の手続など)を学生自ら行うことにより、国際会議への参加方法等についても学びます。

 

2.日程

 10月1日、8日、15日:国内における事前研修
 10月21~28日:国際環境条約交渉の視察・研究及び、条約事務局視察
 10月28日~11月2日:国連機関等の視察・研究


-国際公務員基礎スキル向上のためのカリキュラム
1.支援目的

 国際公務員を自らの進路として真剣に検討する参加者が、国際公務員基礎スキル向上に向けた海外実習において、その観点から海外実習前・海外実習中及び海外実習後の関連諸活動に意欲的に従事し、各人のキャリアプランに役立てることを奨励する。

 

2.内容

 海外実習中に行われる条約事務局視察に加え、支援対象が希望するモントリオールないし米国ニューヨーク所在の国際機関視察を追加する。また、国連ダグハマショールド図書館にも訪問する。
なお、これら視察に伴う手続、アポイントメント、諸連絡は学生自身によって行う。
(学生視察希望例:国連事務局本部、ユニセフ、UNIFEM、CBD事務局等)



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