研究活動
専攻は労働法。大学院時代の修士論文のテーマは、「イタリアにおける反組合的行為の救済制度」で、日本と同様にアメリカの不当労働行為制度を導入したイタリアを比較法の対象とし、イタリアの司法救済の仕組みを紹介しながら、行政救済の特徴がどこにあるのかを考察していこうとしたもの。その頃から一貫して、この問題意識はあり、不当労働行為の行政救済がどうあるべきかということは、現在、労働委員会の実務にも携わるようになってから、いっそう関心が高まっている。
大学院時代の博士論文のテーマは、「労働条件形成・変更の段階的正当性-労働条件変更法理の再構成-」であり、イタリア留学中に問題意識をもち、構想を固め、ドイツを比較法の対象国としたうえで、日本の労働協約論と就業規則論を根本的に批判し、私的自治を出発点としたうえで、いかにして労働条件の集合的処理の局面で、法的な正当性を考慮することができるかについて論じた。
このときの問題意識は、現在の私の労働法理論の基礎となっており、契約の自由をベースにし、アプリオリな従属労働論を批判したうえで、労働者の真の意味で保護するというのは、どういうことなのかを問い続けている。
近年では、立法論にも関心をもっている解雇法制、労働時間法制については、具体的な立法提言をしており、さらなるブラッシュアップを図るために、研究を継続している(平成26年度から28年度まで、科研費の基盤研究(C)における「雇用流動化政策の下での新たな労働市場法制とセーフティネットの構築」の助成を受けている)。
またこの研究の延長上で、ここ数年、関心をもっているのが、人口知能など新たな技術が、日本の労働市場法制やセーフティネットのあり方にどのような影響を及ぼすかである。とくに新技術は、人間の働き方を根本的に変えてしまい、いわゆる従属労働を基礎とした伝統的な労働法が妥当しなくなる社会が来る可能性があると考えられることから、そうした来るべき社会に向けた働き方のルールや労働法制のあり方の研究も開始している。
学外活動
所属学会
現在の公的活動
- 兵庫県労働委員会公益委員
- 商事法務研究会賞審査委員会委員
- 労働関係図書・論文優秀賞審査委員
その他の学外活動
- ADAPT(International School of Higher Education in Labour and Industrial Relations)のScientific Director
補遺その他
*『労働法実務講義(第4版)』(2024年,日本法令)の補遺
- ・179頁(労働契約の成立要件) 19行目のあとに改行して1段落追加し,「賃金についての最終的な合意がないなど,賃金額が不明な場合には,たとえ労働契約の成立にむけた意思が両当事者にみとめられる場合であっても,労働契約は成立していないと判断される可能性があります(たとえば,プロバンク事件・東京高決2022.7.14。なお,日本ニューホ ランド事件・札幌高判2010.9.30も参照)。ただし,事案によっては,労働契約の成立をみとめたうえで,解釈により賃金額を補充すべき場合もあるでしょう。」を追加(2024年6月8日追加)
- ・355頁 14行目(補充解説㉜【個人情報保護法】)の末尾に,「採用選考に関する情報の開示は,開示拒否事由である「業務の適正な実施に著しい⽀障を及ぼすおそれがある場合」(個情法33条2項2号)に該当します(早稲田大学事件・東京地判2022.5.12(控訴審は東京高判2023.2.1<内容未確認>)[専任教員の公募において書類審査で不合格となった者からの採用選考過程等の情報開示請求を否定])」を追加(2024年3月30日追加)
- ・517頁 12行目
損害賠償を否定した裁判例に,「日立製作所事件2021.12.21[転職を前提とした研修や上司面談の例]」を追加。 (2024年4月9日追加)
- ・550頁 14行目の末尾に,「「使用者の意向にもとづき選出された」かどうかについては,たとえば労使協議の相手方として企業から指定されていた人事部所属の労働者が,結果として過半数代表者になっていても,選出手続自体が企業の関与なく民主的に実施されていれば原則として適法と解されるでしょう(ナック事件・東京高判2018.6.21も参照)。」を追加(2024年5月10日追加)
- ・666頁 下から12行目の文末に,「その後の裁判例でも同様の判断がされていますが,企業コンサルティングの営業職において,業務内容について労働者側の裁量により決定ができ,業務中の個別の指示や業務後の報告も簡易なものである事案では,「労働時間を算定し難いとき」に該当するとした裁判例があり(ナック事件・東京高判2018.6.21),さらに,外国人技能実習者の指導員のように,業務内容が多岐にわたるもので,業務中に随時具体的な指示があったり報告をしたりされておらず,事後に提出される日報についても客観的な正確性の担保ができていない場合には,「労働時間を算定し難いとき」に該当しない可能性があります(協同組合グローブ事件・最3小判2024.4.16を参照)。」を追加(2024年5月10日追加)
- ・721頁 16行目のあとに,「恒常的に人員不足の状況を放置していると,「状況に応じた配慮」が不十分と判断されやすくなるでしょう(なお,恒常的な人員不足はなかったとして,時季変更権の行使は適法とした裁判例として,JR東海(東京)事件・東京高判2024.2.28,JR東海(大阪)事件・大阪地判2023.7.6。」を追加(2024年4月27日追加,同年6月7日修正)
- ・722頁 7行目(丸括弧内)のあとに,「代替勤務者の確保を,休日出勤者をだすかたちでは実施しないとする労働組合との合意にしたがった場合に,時季変更権の行使を有効とみとめた裁判例として,阪神電気鉄道事件・大阪高判2023.6.29」を追加(2024年4月27日追加)
- ・761頁 補充解説74の末尾に,「これに対して,認定基準では,業務起因性は,労働者の場合に準じるとしか規定されていません。過重労働の業務起因性の判断では,申請書の内容にかならずしもこだわらず,実際に従事した業務内容を考慮することが必要となるでしょう(加古川労基署長事件・大阪高判1992.4.28を参照)。」を追加(2024年4月26日追加)
- ・863頁 下から4行目の末尾に,「なお,同事件の高裁判決(東京高判2023.4.27)では,業務の内容面において質がいちじるしく低下し,将来のキャリア形成に影響をおよぼす不利益取扱いであるとして,これらの条文に違反するとしています。」を追加(2024年4月30日追加)
*『ケースブック労働法(第8版)』(2014年,弘文堂)の参考文献における「大内・実務講義」(『労働法実務講義(第4版)』)の新旧対照
- 第1講 (旧)32‐46頁 ⇒ (新)3‐10頁
- 第2講 (旧)32‐46頁 ⇒ (新)16‐28頁
- 第3講 (旧)148‐180頁 ⇒ (新)178‐195頁(労働契約の成否),559-576頁(労働者性)
- 第4講 (旧)48‐60頁 ⇒ (新)41‐60頁
- 第5講 (旧)93‐110頁 ⇒ (新)111‐123頁
- 第6講 (旧)374-390, 401-406頁 ⇒ (新)471-511頁
- 第7講 (旧)681-692, 700-707頁 ⇒ (新)874-951頁
- 第8講 (旧)428-441, 447-471頁 ⇒ (新)140-178, 195-219頁
- 第9講 (旧)472-543頁 ⇒ (新)232-318頁
- 第10講 (旧)503-516頁 ⇒ (新)264-274頁
- 第11講 (旧)624-662頁 ⇒ (新)408-454頁
- 第12講 (旧)204-228, 246-250, 255-260頁 ⇒ (新)608-652頁,675-680頁(休憩),696-700頁(休日)
- 第13講 (旧)228-246,250-254頁 ⇒ (新)653-674頁,680-694頁(適用除外)
- 第14講 (旧)260-283,356-364,663-676頁 ⇒ (新)459-470頁(労働契約の中断・休職),700-727頁(年次有給休暇),859–871頁(育児休業・介護休業)
- 第15講 (旧)553-610頁 ⇒ (新)361頁-407頁
- 第16講 (旧)390-400頁 ⇒ (新)493-504頁(整理解雇),512-530頁(その他の労働契約の終了)
- 第17講 (旧)181-185, 332-356, 612-616頁 ⇒ (新)342-351頁,820-851頁
- 第18講 (旧)284-331頁 ⇒ (新)747-817頁
*『最新重要判例200労働法(第8版)』(2024年,弘文堂)の正誤表
- ・53事件(いずみ福祉会事件)
事実の17行目から (誤)「480万2040円であり,(労働基準法……同額)。」 ⇒ (正)「480万2040円であり(労働基準法……同額),」
- ・101事件(阪急トラベルサポート〔第2〕事件)の解説の第4段落
2行目 (誤)「裁判例には,」 ⇒ (正) <削除> / 7行目 (誤)「ものもある」⇒ (正)「考え方もある」 / 同 (誤)「(ナック事件・東京高判平成30年6月21日)」 ⇒ (正) <削除>
- ・141事件(セブン-イレブン・ジャパン事件)の解説の第2段落の6行目 (誤)判旨Ⅱ⑵⑥ ⇒ (正)判旨Ⅰ⑵⑥
*『最新重要判例200労働法(第8版)』(2024年,弘文堂)の最新判例情報のアップデート
- ・101事件(阪急トラベルサポート〔第2〕事件)の解説の第2段落のあとに追記
「その後の裁判例も同様の判断をする傾向にあるが,業務内容が労働者側の裁量により決定でき,業務中の個別の指示や業務後の報告も簡易なものである事案では,みなし労働時間制の適用を否定した裁判例があり(ナック事件・東京高判平成30年6月21日),さらに,外国人技能実習者の指導員において,業務内容が多岐にわたり,業務中に随時具体的に指示を受けたり報告をしたりしていなかったことから,使用者の勤務状況の具体的把握が容易でなかった事案で,業務日報による確認に基づき「労働時間を算定し難いとき」に該当しないとした原審について,業務日報の正確性の担保に関する具体的な事情の検討が不十分であるとして,破棄・差戻しをした最高裁判決がある(協同組合グローブ事件・最3小判令和6年4月16日)。」