研究内容
研究背景と研究の方向性

図1. 細胞小器官について
高等動物細胞は、核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソーム、ペルオキシソームなどの細胞小器官を有しています(図1)。このうち小胞体では、全タンパク質の1/3ものタンパク質が新規合成されます。例えば、細胞外へと分泌されるホルモン(インスリン 等々)や細胞膜表面タンパク質(アドレナリン受容体 等々)が挙げられます。

図2. 小胞体におけるタンパク質の翻訳後修飾
小胞体において新規合成されたタンパク質は、N 型糖鎖付加やジスルフィド結合形成などの翻訳後修飾を受けます(図2)。N 型糖鎖は、親水性が高い単糖(3つのグルコース、9つのマンノースなど)が鎖のように連結されています。そのため、N 型糖鎖が付加されるとタンパク質の可溶性が向上し、その立体構造形成を助けます。ジスルフィド結合は、システイン残基の-SH基同士が結合することによって、タンパク質の立体構造を補強、安定化します。

図3. 小胞体のタンパク質品質管理機構
これらの翻訳後修飾に加えて、分子シャペロン(小胞体シャペロン)がタンパク質の構造形成を促進することによって、タンパク質が正しい立体構造を獲得します(図3)。立体構造を獲得したタンパク質は、ゴルジ体以降の分泌経路へ進み、それぞれの目的の場所においてそれぞれの機能を発揮します。しかしどうしても正しい立体構造を獲得できない構造異常タンパク質は、除去する必要があり、分解経路へと導かれます。この過程を具体的に述べると、分解されるタンパク質は、①. 小胞体膜へとリクルートされ、②. 小胞体から細胞質へと逆行輸送され、③. 細胞質のユビキチン-プロテアソーム経路によって分解処理されます。この一連の分解システムを小胞体関連分解と呼びます。この分解システムは、小胞体のタンパク質を細胞質において分解するため、①〜③で示したように複数のステップから構成されており、関わる遺伝子も多く、非常に重要かつ面白い現象であるといえます。
この小胞体関連分解分野の大きな問いとしては、
A. 分解されるべきタンパク質がどのように選別されているか?
B. どのように小胞体膜へリクルートされているか?
C. 逆行輸送チャネルの同定とその分子メカニズムの解明
などが挙げられています。
このように小胞体には、構造形成したタンパク質を分泌経路へ、構造形成できないタンパク質を分解経路へ導くというタンパク質品質管理機構が備わっています。
当研究室ではA、Bの問いなどに答えようとヒト培養細胞を用いて遺伝子の機能解析などを中心に研究を進めています。小胞体のタンパク質品質管理機構は、アルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病、リウマチ、嚢胞性線維症、ハンチントン病、筋ジストロフィーなどのヒト疾患と密接に結びついているということもわかりつつあるため、これらの治療、予防の新たな戦略や薬の開発などに将来的に役に立つことが期待されます。

図4. 基礎研究の重要性
一方で、当研究室では、生物の仕組みを理解することを目的とした基礎研究を行うことを主題としているため、すぐにヒト疾患と結びつくこともあるが、 そうでない場合も多々考えられます(30年後に疾患との関連性がわかるような場合もある)(図4)。 ですので、疾患原因の解明というよりは、重要かつ面白い生命現象を解明することを主な目的として研究を進めていきます。 結果として、病気の新規治療などにつながる可能性は大いにあります。基礎研究によって、自身(生命活動の原理など)と敵(疾患原因など)を知らなければ、その対策は立てられません。
※ AMEDや医療に貢献する方向性の資金(公益財団法人などから)の後押しを得たプロジェクトなどはこの限りではない。 各資金の方向性に合わせて医療に貢献すべく積極的に臨床応用を目指す。当ラボは小胞体を切り口とした独自の解析が可能である。
小胞体におけるタンパク質品質管理機構についてさらに詳細に知りたい方は、 次ページを参照してください。