研究内容(つづき)

小胞体タンパク質の品質管理機構とN 型糖鎖

図5. 小胞体における構造形成経路と分解経路の分類

図5. 小胞体における構造形成経路と分解経路の分類

 N 型糖鎖は、小胞体を通過するおよそ80%のタンパク質を修飾し、タンパク質の親水性を向上させ、タンパク質の構造形成を助けると言われています。さらにN 型糖鎖の有無によって小胞体内でのタンパク質の構造形成過程や分解過程が大きくかわることも分かっています。具体的にいうと、タンパク質の構造形成経路と分解経路には、N 型糖鎖依存経路と非依存経路があり(図5)、N 型糖鎖の有無は、小胞体におけるタンパク質構造形成経路、分解経路に大きな影響をあたえます。

図6. 糖タンパク質の構造形成を促進するCNX/CRTサイクル

図6. 糖タンパク質の構造形成を促進するCNX/CRTサイクル

ここからN 型糖鎖依存構造形成経路、分解経路について詳しく記述します。N 型糖鎖は、3つのグルコース、9つのマンノース、2つのN-アセチルグルコサミンから構成されています(Glucose 3つ、Mannose 9つあるので、G3M9と略す) (図6)。グルコースが2つ切除されG1M9となると、レクチンシャペロンであるCalnexine (CNX)とCalreticulin (CRT)がその糖鎖構造を認識し、タンパク質部分の構造形成を促進します。その後、残った1つのグルコースが切除されM9となったのちに、タンパク質部分が構造形成していると、そのタンパク質が分泌経路へ進みます。タンパク質部分が構造形成できていないと、グルコースが再付加され、G1M9となります。すると、再びCNXとCRTに認識されるようになり、タンパク質部分の構造形成が再び促進されます。この構造形成サイクルをCNX/CRTサイクルと呼びます。グルコースの付加、除去に依存した、N 型糖鎖の構造による精巧なタンパク質構造形成システムが小胞体において機能しているということです。 それでも構造形成できない場合は、分解過程(図7)へと進みます。

図7. 小胞体における<i>N</i> 型糖鎖のマンノース切除機構

図7. 小胞体におけるN 型糖鎖のマンノース切除機構

M9になったN 型糖鎖をもつタンパク質がなかなか構造形成できない場合、まずEDEM2によってマンノースが1つ切除されます。その後、N 型糖鎖は、EDEM1、主にはEDEM3によってマンノースが切除されます。このようにN 型糖鎖の切除が進んだ場合、図中の赤で示したマンノースが切除された結果、レクチン分解因子が糖鎖を認識できるようになり、構造異常糖タンパク質が分解へと導かれます(図7)。

図6と合わせて考えると、M9の段階では、正しい立体構造を獲得しようとしていた糖タンパク質を2段階のマンノースの切除によって、分解へと導いていることになります。つまり、マンノースの切除は、構造形成しようとしていた糖タンパク質を分解へと運命決定していることになり、細胞内の生理的意義が大きいです。蜷川は、これまで小胞体におけるマンノース切除の新規分子機構を提案、確立してきました(Ninagawa et al., 2014 JCB、他は研究業績参照)。これにより、小胞体関連分解における最大の問題の1つである前述A (分解されるべきタンパク質がどのように選別されているか?)の理解を大きく前進させることができてきています。

これからの研究

 当研究室では、N 型糖鎖をはじめとする糖鎖の研究を大きなテーマとして考えています。第一の生命鎖として「核酸」、第二の生命鎖として「タンパク質」が挙げられており、これらはこの30年で大きく理解が進んできましたが、第三の生命鎖である「糖鎖」は複雑で、まだまだ研究が進んでおらず、今後大きな伸びしろがある分野です。また歴史的にも現在も、この糖質研究において日本はこれまで世界を牽引しており、世界の最先端の研究ができる基礎があります。具体的に何を研究するか、ということは一番大切かつ公表できないので、ここに書ける範囲になりますが、

  1. どのように構造異常タンパク質が分解へと導かれるか?という分子機構のさらなる解明
  2. これまで構造異常タンパク質の分解を促進していた分子が、あるタンパク質の構造形成に効くのではないか?というこれまでの概念を覆すような現象の解明
  3. ある糖タンパク質の構造形成には必要ないと考えられていた分子が、非常に重要な役割を果たしていることがわかってきたことに対するさらなる解析
  4. これまで小胞体に局在し機能していると考えられていたタンパク質が、実はゴルジ体に存在していることが分かってきており、ゴルジ体において本当はどのように機能しているか?の解析

などを考えています。

これらの研究の話を聞いてみたい/やってみたいなど、興味のある方はぜひご連絡お待ちしております。(回生、学部、専門、また院生、ポスドクなど身分も問わず)
幅広い方々と研究のディスカッションできれば嬉しく思います。

1、2、3回生の学部生も実験に早めに触れてみたいなどのモチベーションで、セミナーの参加や、実験補助バイトも場合によっては対応できるかと思います。ご連絡ください。よろしくお願いします。

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