養菌性キクイム
シと共生菌・随伴菌の生態
黒田慶子 Kuroda,
Keiko 神戸大学森林資源学研究室
プロジェクト①
樹木病原菌と養菌性キクイムシの遭遇から協働への源
流を探る
プロジェクト②
養菌性キクイムシ随伴Fusarium属菌の生存戦略:樹木病原菌化の条件とは?
台湾で出会ったキクイムシ 2019


以下の現象により、「樹
木病原菌⇔養菌性キクイムシ」の間には密接な連携関係があると予想できる。
- 養菌性キクイムシ (ambrosia beetle)
は共生する菌類を食糧に利用することが知られている。
- 共生菌の病原性が判明したのはナラ枯れ(ナラ類萎徴病、Japanese
oak wilt)が最初である(Kuroda 2001)。→ナ
ラ枯れの項を参照
- 国内では、イチジク株枯病菌が、養菌性キクイムシのアイノキクイムシに媒介され
ることが判明している。→イチジク
株枯病の項を参照
- 近年では、アボカドやチャ、デイゴ属樹木の枯死(→デイ
ゴ衰退の項を参照)が世界の広域で発生している。これらの病原菌はキクイムシ類に随伴する "ambrosia
Fusarium"と呼ばれるグループのFusarium属
菌であることが判明した。
- マンゴーの枝枯れはナンヨウキ
クイムシ(養菌性キクイムシ)の加害によるとされている。しかし、加害部からはキクイムシとともにambrosia Fusariumが
検出され、デイゴの病原菌と同種か極めて近縁の菌であることが判明した(2020)。この菌がマンゴーに病原性を示す可能性が示
唆されている。
- 樹皮下キクイムシの体表からも近縁のFusarium属菌が頻繁
に検出されるが、強病原性を示していない。注*菌類を体表面に付着させて樹皮下に穿入し樹木組織を摂食する。一部
の菌は病原菌である(図下)。
本研究ではキクイムシ類と随伴・共生菌の接点の把握、両者の生息環境や多様な生存戦略の比較によっ
て、相互の生態的依存性を明らかにする。また、随伴・共生菌の近縁関係とともに、養菌性キクイムシ共生菌の病原性獲得の条件を検証す
る。
図
菌を随伴する養菌性(上)および
樹皮下キクイムシ(下)の例


図2
F. solani 種複合体 (FSSC) の系統樹(ごく一部を表示)
Ambrosia Fusariumはキクイムシに随伴する病原菌を含む
図1 Fusarium属菌の多様な生息場所と感染
戦略
1) Fusarium属の特徴
風媒や土壌伝染生の植物病原菌を多数含み、農業の現場でよく知られた真菌類(糸状菌)である。植物表面に付着する例があるため雑菌という認識も強いが、樹
木に枯死被害をもたらす菌種を含む(図1)。属内の種数が極めて多く、例えばF. solani species complex
(FSSCと略記)**は多数の種からなる種複合体である。
2) 養菌性キクイムシと共生病原菌
茶やアボカドのFSSC病原菌をナンヨウキクイムシ(Euwallacea
fornicatus)が媒介し、アジア諸国や移入先の米国では防除に苦慮している。これらの菌はキクイムシ類に随伴するAmbrosia
Fusariumのグループ(図2)に属す。作物・樹木病害対策では、菌と昆虫との共生を断つことが重要であるが、両者の依存関係を含む生態
の解明は進んでいない。近年黒田らは亜熱帯の沖縄で、デイゴ属樹木の枯死がFSSC感染による新病害であること (Kuroda et
al. 2017、Takashina et al.
2020)、養菌性キクイムシが共存することを発見した。さらにその病原菌は樹皮下キクイムシ*から検出された菌(Masuya,
Kajimura
2015)と近縁であることを確認した。このように昆虫と菌との繋がりが見えつつあり、研究が急速に進展する端緒をつかんだ。