里山の維持管理(2)
神戸大学 森林資源学研究室
黒田慶子 Kuroda, Keiko
第121回日本森林学会大会(筑波)2010年4月
2~5日
テーマ別シンポジウム
現代版の里山利用システムを作るささやかな試み
趣旨
燃料革命以降の里山の変化と、そのことによる様々な問題の発生、そして、その一方で求められる里山への
新たな期待については、これまでにも各所で多様な立
場から議論がされてきた。しかし、研究の蓄積と並行して、実際の里山では地域社会の記憶と仕組みが急激に変化し、更新に関わる病虫獣害が拡大するなど、前
提条件を変えてしまうような不確定な要素が増加している。里山と渡り合う現場にますます混迷が広がる状
況の中で、里山研究も新しい段階に踏み出すことが求
められてきている。森林総合研究所関西支所では、2008年度より実際に地域の里山林で施業を実施し、そこから得られる資源(有形無形の)
を地域社会で利用する、社会実験的な研究プロジェクトに取り組み始めた。本テーマ別シンポジウムでは、
その途中経過を紹介するとともに、現実に起きる様々
な問題への対処や、このような研究スタイルの持つ意味と将来について議論を行いたい。
講演タイトルと講演者 →
要旨のダウンロード
総
論 健康な里山林の復活を目指した現代版里山利用システム 黒田(森林総研関西)ら
各
論
1.
植生への管理再開が里山生態系に与える影響 柴田(京大フィールド研)ら
2.
里山に忍び寄るシカの足音 高橋(森林総研関西)
3.
地域への薪ストーブ導入による社会実験 奥(森林総研関西)
4.
びわ湖の森の健康診断キキダス 山口(滋賀地方自治研究センター)ら
5.
里山林を「近所の人たち」とともに管理する 大住(森林総研関西)ら
関連の報告
里山資源の積極的利用で健
康な里山を作る 環境研究機関連絡会成果発表会, 2009年11月11日 ポスター展示
ナ
ラ枯れ増加から見えてきた「望ましい里山管理」の方向 — 枯れる前に資源として使う
森林技術 809:2-7(2009.08) pdfファイルのダウン
ロード
森林資源を上手に循環させて里山を
保全する 黒田慶子, 森林総合研究所関西支所研究情報 No.91,2009 巻頭言
成果報告
2010年代のための里山シンポジウム
-どこまで理解できたか、どう向き合っていくか-
2010年10月30〜31日 森林
総合研究所,大阪市自然史博物館など 共催
第1部:里山とは何か?
•里
山は「自給」的システムであったか? 佐久間大輔(生態学/大阪市立自然史博物館)
•ナ
ラ林の植生学的位置づけ 野嵜玲児(植生学/神戸女学院大学)
•千
年、百年、数十年スケールでの森の移り変わり:里山の形成と変貌 高原 光(植生史/京都府立大学)
•原・
里山の成立 水野章二(日本中世史/滋賀県立大学)
•明
治・大正期における外来肥料の増加と草山(秣場・原野)への植林 小林 茂(地理学/大阪大学)
•里
山の土地利用変化 深町加津枝(景観生態学/京都大学)
•木
材利用技術の変化と里山資源 村上由美子(考古学/総合地球環境学研究所)
第2部:里山をどうするか?
•人
為攪乱とナラ類 大住克博(造林学/森林総合研究所)
•不
安定化する里山生態系-近年ナラ枯れ拡大が示すこと- 黒田慶子(樹病学/森林総合研究所)
•地
域生物多様性の保全 本間航介(保全生態学/新潟大学)
•市
民参加による里山保全の社会学 松村正治(環境社会学/恵泉女学園大学)
•資
源利用を成立させる実践技術 津布久隆(森林施業/栃木県環境森林部自然環境課)
•里
山からの資源利用は社会も豊かにできるのか 奥 敬一(森林風致/森林総合研究所)
Project 現代版里山維持システム構築のための
実践的研究
森林総合研究所プロジェクト:H21-25(プロジェクトが完了し、マニュアルが利用できます)
京都府長岡京市において里山管理の実証試験を実施しています。
1)里山を伐採することによって里山の森林が再生することを実証的に
示す(自然科学)
伐採後の萌芽更新、バイオマス変化などを明らかにします。試験地のデータから、関西地域都市近郊の里山整備にはどの程度のコストと住民の協力が必要である のか試算します。自治体技術者や里山保全活動に関わる方々に、里山管理の目的、将来予測と維持管理 に重要なデータの収集と解析方法などを具体的に示し、科 学的根拠のある活動が継続できるようにします。
完了し
たプロジェクト
里山
の”社会−生態システム”における動的安定性回復のための社会実験
( トヨタ財団研究助成: H20-22)
黒田慶子, 奥 敬一,大住克博
国土面積の約3 割を占める里山林は,身近な 自然環境として重要です。しかし,燃料革命以降の利用停止により,50年放置されて,健 全性が低下し持続が危うい状況です。本プロジェクトでは,滋賀県大津市で、健全な里山再生のための実証試験地を行っています。伐採木を地域家庭に熱源(薪 ストーブなど)として供給し,住民の生活・意識の変化について調査するとともに,里山林の生態系の変化,経済 性,炭素収を調査・解析します。成果として, 実現性のある里山管理手法を示し,低炭素社会への転換を意識した「豊かな生活スタイル」として提案しました。
2012 年度に実施した里山関連の研究会・講演会(依
頼に応じます)
9月23日 三重県四日市市:
里山に入る前に知っておきたいこと
10月5日 大阪市立大学植物園 公
開講演・討論会「ナラ枯れ研究会」
http://www.sci.osaka-cu.ac.jp/biol/botan/1_03_ivnt_files/0_03_01_a.html
10 月27日 兵庫県宍粟市:森と水の地球環境大学 ~ナラ枯れ増加から見 えてきた里山のありかた~
✴実 践農学で里山管理を学ぶ のページへ
✴ 篠山市・神戸大学地域連携フォーラム(2013
年1月26日)
• 特別講義:
篠山の里山を次の世代に渡すために---実現のための3つのステップ--- 黒田慶
•実践農学受講生,森づく りグループの成果報告
✴シンポジウム
森
林総合研究所関西支所公開講演会 2013年11月29日(金)
ア
バンティホール
「里 山管理をはじめよう 持続的な利用のために」
2)里山伐採・資源利用が、住民の里山管理参画の動機づけになること
を実証する(社会科学)
木質資源を地域家庭で熱源として利用し、それが里山管理に参加
する動機づけとなることを実証します。都市近郊住民の環境保全や省エネに対する意識がどのように変
わるか、身近な自然と関わる新しいライフスタイルが定着するか、明らかにします。
3)自治体と住民が森林資源の循環に関わる方法を提示し、将来の里山
維持の方向付けを行う
本研究では、地域住民の科学的理解を深め、里山管理手法のプロトタイプを示していという視点で、技術普及や地域住民が森林資源の循環に積極的に関与するた
めの方法を提示します。自治体に対して里山管理手法のプロトタイプを示し、積極的な管理を始めるた
めの駆動力となるように進めます。
実施事
項
✴滋
賀県大津市および京都府長岡京市に試験地設定(このページ上の地図参照)
✴0.1ha
程度の小面積の里山林において,植生調査および伐採を地域住民と共に実施。大津市試験地では,薪な
どに利用開始。 今後,森林の再生状況(萌芽更新)を追跡調査する。
✴大
津市の一般家庭3軒,長岡京市立神足小学校(図書室),西山公園グリーンハウスおよび一般家庭1軒
に薪ストーブを設置。伐採資源を薪に利用し,その効果(経済面,エネルギー効率),利用者の感じ方
などについてデータを収集している。
詳細は「薪 ストーブがうちにきた-くらしにいきる里山-」 (2010年10月/ブックレット、写真下)をご覧ください。
長岡京市:伐採→萌芽再生直後 → 伐採1年半後 (同じ場所)