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Research /
Research Overview~6~

マイクロ・ナノバブルを用いた膜ファウリングの
抑制とメカニズムの解明

Mechanism of membrane fouling reduction by fine bubble

高橋 智輝松山 秀人

松山和史、綿部智一

研究動機・背景

現在、世界各国で水資源不足および水源水質悪化の問題が顕在化しています。従来、地球上では、海水等が太陽エネルギーにより蒸発し、水蒸気が雨となって陸地に降り、やがて海に戻るという水循環の調和が保たれていましたが、近年の急速な人口増加とこれに伴う経済成長、地球温暖化、および水環境汚染といった様々な要因によって、水循環のサイクルが円滑に進まなくなり始めています。これにより、安全な水にアクセスできない人口が約11億人にまで達し、今後ますます必要な水を確保できない人口と地域の割合が増加すると言われています。このような環境の中で、分離膜を用いた水処理技術は、高度で安全な水をつくり、水の再利用を可能にさせる効率的な技術として大いに注目されています。水処理用膜濾過技術の開発において重要な課題は、

  1. 造水コストの低減

  2. 処理水質の高度化

  3. 安全性・信頼性の確保

  4. 維持管理の容易性

です。造水コストを低減するためには、分離膜モジュールの単位膜面積あたりの濾過流束を高めることや、高い濾過流束を維持するための膜ファウリング抑制技術が必要不可欠です。

研究目的および研究意義

我々は、マイクロ・ナノバブル(以下、マイクロバブル(MB)と略す)を利用した新規な水処理技術の開発を行っています。マイクロバブルやナノバブルを用いた固体表面の洗浄技術としては、多数の報告例があるものの、膜ファウリング(ファウラント)に焦点をあてた研究例はなく、膜ファウリングの抑制メカニズムについては未だ解明できていません。従って、マイクロ・ナノバブルを用いた膜ファウリング抑制のメカニズムを明らかにすることは、極めて高い新規性を有し、上水処理や海水淡水化など膜濾過技術の研究開発に大いに役立つと思われます。

マイクロバブル(MB)の特徴

  • 直径が10マイクロメートル~数十マイクロメートル以下の微細な気泡

  • 目に見えない微細気泡(ナノバブル)も含まれている

  • 気泡の上昇スピードが非常に緩やかであり,液体との接触時間が長い

  • 生成時のせん断により気泡がマイナス電位を帯びている

 


図1 マイクロバブルの特徴

研究方法

マイクロバブルによる膜ファウリングの抑制機構を解明し、マイクロバブルを用いた膜濾過技術を確立することを目的とし、以下の4つのステップによって研究を推進しています。

  1. マイクロバブルによる膜ファウリング抑制効果における支配因子の抽出

  2. マイクロバブルによる膜ファウリングの抑制効果に対する評価手法の確立

  3. マイクロバブルによる膜ファウリング抑制機構のモデル化とシミュレーション解析

  4. マイクロバブルを用いた水処理プロセスの最適化

マイクロバブルを用いた膜濾過技術は気-液-固が複雑に相互作用した混相流であるため、現象論のみからの理論解析は困難です。従って、本研究では膜ファウリングの抑制に関する支配因子の抽出と,現象の切り分けによる独立した評価手法の確立および解析を重視しています。

また、膜ファウリングの抑制機構については,以下の5つの仮説を元に解析を行っています。

  1. マイクロバブルのせん断力によるケーク層の剥離効果

  2. 膜面へのマイクロバブルの付着によるファウラントの堆積阻害効果

  3. 気液界面へのファウラント吸着に伴う膜面の濃度分極低減効果

  4. マイクロバブルとファウラントの凝集・粗大化による濾過性の向上効果化

  5. 自己加圧効果による気体の溶解と再気泡化に伴うケーク層の脆化効果

研究成果の一例として、河川水にマイクロバブルを発生させながら濾過した試験の結果を紹介します。図1から、河川水にマイクロバブルを発生させながら濾過すると、高いフラックスが維持されていることが分かります。

 


図1 マイクロバブルを用いた膜濾過試験結果と中空糸膜濾過イメージ

このようにしてマイクロバブルによる膜ファウリングの抑制機構を明らかにし、上水処理や海水淡水化などの水処理プロセスを最適化することにより、造水コストの低減,維持管理の容易性にかかる膜濾過技術に貢献するものと考えられます。