研究成果紹介
基盤C 23550226 基盤C 26410073
基盤C 26410073
ブルーブロンズM0.3MoO3は常温で1次元金属,低温では金属-半導体転移を起こしCDW 状態を取り,CDWの滑り運動に由来した非線形電気伝導やメモリー効果などの興味深い物性を示す物質です.最近はそのCDW 状態が光に応答して変化することで注目されており,コヒーレント長程度のサイズの結晶では,CDWがサイズ効果を受け,バルク結晶とは異なった特性を示すことが期待され,そのため,ブルーブロンズ・ナノリボンは注目されています.
CDW物質は1次元伝導鎖の集合体であり,その挙動は伝導鎖間の相互作用に依存して変化することが期待されます.ブルーブロンズは以下に示すように,10個(画面では6個に見える)のMoO6八面体が作るクラスターが紙面垂直方向に繋がってできる酸化物鎖形成し,それが頂点を共有して結合して2次元のシートを形成する.そしてそのシートがアルカリ金属イオンを挟んで積み重なり,3次元の構造を形成する.この酸化物鎖がブルーブロンズの伝導鎖であり,アルカリイオンのサイズにより伝導鎖間の距離が変わることになる.そして,我々が1998年に初めて見出したCs0.3MoO3は,種々のブルーブロンズの中で伝導鎖間が最も離れたものであるため,興味深い研究対象である.そのため,純粋なCs0.3MoO3の単一相ナノワイヤーの調製を目指して研究に取り組んだ.
{Mo154}
Cs+はH+の共存するMoO3の酸化物層間には挿入されにくく,水素モリブデンブロンズを出発物質としたブルーブロンズのナノリボン調製法ではCs+含量を高めることは難しかった。そこでCs0.3MoO3 ナノリボンを合成するため,水和アルカリモリブデンブロンズを直接出発物質としてブルーブロンズのナノリボンを調製法する開発を行った.詳細に条件を詰めることにより,水素モリブデンブロンズを出発物質とした場合と同等のK0.3MoO3 ナノリボンを単一相で調製することに成功した(下図 a:実測,b:計算).
{Mo154}
{Mo154}
単一相Cs0.3MoO3 ナノリボンを調製すべく,この方法を用いて様々に検討を行った.K0.3MoO3ナノリボンのように単一相で調製することを達成することはできなかったが,EDXやSEDなどから純粋と思われるCs0.3MoO3 ナノリボンの生成を確認することはできた.以下にCs0.3MoO3 ナノリボンのSEM像とTEM像を示す.
{Mo154}
{Mo154}
水和アルカリモリブデンブロンズを出発物質としたブルーブロンズのナノリボン調製法の改良を行うため,水和アルカリモリブデンブロンズからブルーブロンズへの転換メカニズムの詳細について調べた.それにより水素モリブデンブロンズを出発物質した場合には系の複雑さの為見ることができなかった水和アルカリモリブデンブロンズからブルーブロンズへの転換過程を直接観測することに成功した(下図参照,●:水和アルカリモリブデンブロンズ,▲:ブルーブロンズ,処理時間:(a) 0h, (b) 6h, (c) 18h, (d) 24h, (e) 36h).
{Mo154}
詳細は下記に示した論文に譲るが,水和アルカリモリブデンブロンズからブルーブロンズへの転換過程では,水和カリウムモリブデンブロンズの構造を保ったまま,その[0 0 1]方向のMo-O-Mo結合と垂直な[1 0 0]方向でのディスオーダーを伴った欠損が蓄積し,その歪エネルギーに耐え切れなくなった時に一気にブルーブロンズへと転換が起こり,特定方向での結合の切断(剥離・細片化)が発生する(下図参照).ナノリボンの形成はその細片を核に方向選択的に成長して形成される.
{Mo154}
欠損蓄積過程で生成するディスオーダーは興味深い長範囲規則構造の生成を導く.その詳細も下記論文に示されている.
[T. Nishida, K. Eda, Journal of Nanoparticle Research, 20, 27 (2018)](http://dx.doi.org/10.1007/s11051-018-4134-5)
神戸大学理学部化学科 物性物理化学 枝研究室
〒651-8501 神戸市灘区六甲台町1-1 神戸大学理学部A棟 A118号室
TEL&FAX: 078-803-5677

Copyright© 2006 Eda Laboratory All Rights Reserved.