阪神地区の里草地における生物の減少

中山間地に残された棚田の畦上の草地(里草地)では、現在では希少となった動植物たちが多数生息・生育しています。 なぜ里草地が多数の生物にとっての生息適地となっているのかは完全に解明されているわけではありません。また、 近年、水田生態系では圃場整備や耕作放棄など土地利用変化により生物多様性が大きく減少しているといわれていますが、 その実情、およびメカニズムは十分に研究されていませんでした。

里草地の植物多様性: 私たちは、平田に比べて棚田の里草地で植物の希少種の多様性が高く、特に棚田上部の溜め池堰堤や畦畔に希少種が集中して分布することを見つけました(1, 3)。 この集中分布は、人間活動によって棚田上部に貧栄養かつ湿潤な環境が作られることに起因することも明らかにしました(3)。 これらの希少種は、その分布特性から土地利用の変化(圃場整備や管理放棄)に、普通種よりも強く影響を受けるために減少していると考えています。 また、圃場整備・管理放棄によって草刈り頻度が増加・減少することが植物多様性の減少させることを明らかにし、土地利用の変化による多様性減少が中規模撹乱仮説で説明できることを示しました(4, 6)。 さらに、水田と二次林の間に維持されている林縁の里草地では林縁間のβ多様性(植生の違い)が大きく、地域の多様性を高めることに貢献していることを明らかにしました(5)。
動物の多様性: 圃場整備や管理放棄による植物種多様性の減少によって、里草地の植食性昆虫(チョウ・バッタ類)も急減していることを明らかにしました(4, 6)。また、水田性カエル類(トノサマガエル、シューレゲルアオガエル、ツチガエル)についてもその減少要因が水田環境の変化や周囲の景観改変によるものであるという仮説をたて、研究を行っています(2)。

(6) Uchida & Ushimaru 2015 J Appl Ecol 52:1033-
(5) Ohara & Ushimaru 2015 Appl Veg Sci 18:493
(4) Uchida & Ushimaru 2014 Ecol Monogr 84:637-
(3) Uematsu & Ushimaru 2013 Ecol Appl 23:1357-
(2) Tsuji et al. 2011 Landsc Urban Plan 103:318-
(1) Uematsu et al. 2010 Agric Ecosyst Environ135:304-

モリアオガエル,溜池,ササユリ,サワラン,棚田,トノサマガエル

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