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研究関連 /
研究概要~5~

高分子多孔膜の構造形成過程および分散系の細孔透過挙動に関する数値シミュレーション
Numerical studies on structure formation of porous polymer membrane and permeation behavior of dispersion through pores

石神 徹三野 泰志松山 秀人

布施 ひろみ、香川 裕輔、大貫 はるな

我々は、高性能な多孔膜の開発を目指し、数値シミュレーションの手法を用いた研究を行っています。

高性能な膜を開発するためのトライアンドエラーによる研究アプローチは現在限界を迎えようとしています。この現状を打破するためには、未だ明らかにされていない、多孔膜作製時における細孔構造形成過程や膜ファウリング発生挙動の機構を解明して、詳細な原理を理解し、プロセスを制御することが必要です。しかしながら、従来の実験的、あるいは理論的な手法のみで立ち向かうことは容易ではありません。従来手法にとってかわる新たな手法が必要です。

我々は、多孔膜の研究開発プロセスを、ダイナミクスが明らかになるスケールで階層分けし、構成される(マルチ)フィジクスに応じた数値シミュレーションモデルを構築しています。現在の研究テーマの例をいくつか以下に紹介します。

 

1.高分子溶液の相分離挙動および細孔形成挙動
相分離法を用いた多孔膜作製におけるSpinodal分解過程について、Phase field法を用いて、多孔構造形成シミュレーションを行っています。図1は非対称構造形成のシミュレーション結果の一例です。図中の黒い部分が孔であり、長方形の部分が膜の断面を示しています。右側で孔がなく、左側で孔が形成されているという非対称構造が再現されています。

図1 TIPS法による非対称膜形成の数値シミュレーション結果
2.精密ろ過膜における微粒子分散液のファウリング挙動
精密ろ過では、微粒子の堆積やブロッキングにより孔が目詰まりしますが、その詳細な機構は明らかではありません。我々は、定速ろ過における孔の目詰まりをImmersed boundary法と離散要素法(DEM)を連成させた直接数値シミュレーション法により、細孔近傍の微粒子および流体挙動を計算し、膜間差圧挙動との相関について検討しています。図2は、デッドエンド定速ろ過のシミュレーションの一例です。膜細孔入口で微粒子が凝集し、ケーク層が形成されています。

図2 精密ろ過における微粒子分散液の膜ファウリング発生挙動
3.油水分離フィルター細孔における細孔内のエマルションの解乳化挙動
油水分離フィルターでは、細孔表面における分散媒の濡れや細孔構造が、解乳化特性に大きく影響を及ぼします。我々は、CLSVOF (a coupled level set and volume of fluid)法に基づき、界面活性剤フリーの条件のエマルションの膜細孔透過に適用可能な数値シミュレーションモデルを初めて提案しました。図3は、油水分離フィルターにおけるO/Wエマルションの解乳化シミュレーションの一例です。分散媒が膜の細孔表面で濡れながら、細孔出口表面で液滴が粗大化している様子がわかります。

図3 油水分離フィルターにおけるO/Wエマルションの細孔内解乳化挙動