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コーヒーの病虫害について 神戸大学 黒田慶 子 2021年4月12日

   参考資料: 米国ハワイ州報告書、 Daily Coffee News (https://dailycoffeenews.com) な ど

 世界の広域でコーヒー収量を大幅低下させて いる、強烈な病原菌と害虫が3種類あります。コーヒー葉 銹病(葉さび病)、コーヒーノミキクイムシによるベリーへの加害、シイノキコキク イムシによる枝枯れです。
 
沖縄での被害 報告はまだありませんが、気づいていないだけかもしれません。コーヒー以外の樹木にも類似の被害があ り、3つめは、私たちが沖縄で発見したデイゴとマンゴーの被害とよく似ています。
 
被害発見時の対応方法
 被害を広げないためには、早期に見つけることが何よりも大事 です。 そのコツは、葉の表裏の斑点や変色に注意するこ とと、ベリーの先端に穴が空いていないか、枯れた小枝がないかなど、普段から注意することです。小さなキ クイ ムシ(サイズ1〜2mm)については、幹表面に爪楊枝の先程度の穴があいていないか、よく観察してください。
 斑点のある葉(葉さび病)や小さな穴(木の粉が出ていることもある)を見つけた ら、まず被害部分の写真を当研究会(黒田あて)に連絡してください。深刻な病虫害 であると判定されたら、それらの被害部分を完全に取り去って焼却処分してくださ い。農園内に積み上げて放置すると、被害が伝染して広がります。幹の被害の場合、伐採する かどうかの判断が必要です。キクイムシは根元にも入るので、枯れ枝のみ除去しても 被害は無くなりません。

1) コーヒー葉銹病(葉さび病)Coffee leaf rust
 真菌類 Hemileia vastatrix(カビの仲間)により、葉の裏側にオ レンジ色の斑点ができ(図 1)、胞子が風や雨で運ばれて健康な木に感染が広がる。感染後の落葉で収量は著しく減少す る。コーヒー産業を壊滅させることがあり、最近ハワイで発生した被害が大きな衝撃になっている。
 銹病菌のグループには中間宿主がある(例: ナシ赤星病ではイブキビャクシン)が、コーヒー葉銹病菌には中間宿主は見つからず、コーヒーだけで病気の伝播と感染が完結する。栽培作物では妙な進化が起 こるのかも知れない。
 被害葉らしいものを発見したら、すぐに専門家に相談し、被害部分は完全に焼却処分する。周囲の農 園にも被害発生のことを連絡する必要がある。


                      





 





















 
      図1コーヒー葉銹病の病徴  出典:米国ハワイ州Department of Agriculture資料


コー ヒーの病虫害






2) コーヒーノミキクイムシ  Coffee berry borer (略称CBB)
             学名:Hypothenemus hampei

 体長2mm以下の養菌性キクイムシで、真菌のFusarium solaniとの共生が知られている。(樹皮下キ クイムシと記載した論文は誤り) 
 雌の成虫がコーヒーの実(ベリー)に穿入し、種子(豆)に穴を開けて産卵する (図2)。幼虫が胚乳を食べて豆の質が 低下する。大半は近親交配でベリーの中で交尾し、雌は卵を産むために新しいベリー を探す。ブラジルでは年に5回産卵し、4回羽化して大被害となる。100年間にア フリカから世界のほぼすべてのコーヒー生産国(オーストラリア、中国、ネパールを 除く)に広まった(図3)
(出 典:M A Johnson et al. 2020)。
 このキクイムシはカフェインの解毒作用を持つシュードモナス属細菌 (Pseudomonas bacteria)を保有し、コーヒーの種子を食べても死なずに繁殖できる唯一の種である。アリがキクイムシの幼虫を食べるようで す。
 
韓国に分布 しており、日本も居る可能性が高い。日本の検疫有害 動植物に指定されている。被 害発生時には、専門家によるキクイムシの確認を行うこと。また、この虫に穿入され たベリーは確実に全部手で取り除き、焼却処分する。また、周囲の農園にも被害発生 のことを連絡する必要がある。













コーヒー ベリーボーラーの成虫、サイズ1〜2mm
(ハワイ州農務部門)









  図2. コーヒーベリーボーラーの生活史
(A) 成虫の雌
(B) 雌成虫が緑色のベリーの中心部に開けた穿入孔(矢印)。
(C)コーヒー豆の中の、卵(e)と幼虫(l)を含む幼虫室。
(D) 幼虫の摂食による豆の損傷が進んだ段階、蛹(p)、幼虫(l)、卵(e)

図2と3の出典:M A Johnson et al.: Coffee Berry Borer (Hypothenemus hampei), a Global Pest of Coffee: Perspectives from Historical and Recent Invasions, and Future Priorities, Insects2020, 11, 882

 









  





  図3 コー ヒーベリーボーラーの世界分布
   青色:CBBのない国、ネパール、中国、オーストラリア 緑色:2007 年以前に分布
   赤色:最近の分布、ハワイ2010年、プエルトリコ2007年、パプアニューギニア2018年





3) シイノコキクイムシ Black coffee twig borer (略称BCTB) 
           学名:Xylosandrus compactus (Eichhoff))
 成虫の体長1〜2mmの養菌性キクイムシ(図4)。枝幹への穿入時に共生菌Fusarium solani を持ち込み、幼虫の食糧にするとともに、感染枝を壊死させ通水を停止させる。最初は枝先の枯れが起こって被害に気づく。
 このキクイムシは東アジア原産と推測されており、日本に生息している。今では、熱帯アフリカ、ア ジア、太平洋諸島、中南米、米国のほとんどに広がっている(図5)。
 コーヒーだけでなく、世界中の225種の植物が加害されている。被害木は、茶、ココア、マン ゴー、アボカド、イチジク、コーヒー、ハイビスカス、デイゴなど。
 











  図4 シイノコキクイムシの
虫体(左)と繁 殖(右)
  オーストラリアMonash University 資料



 図5:BCTBの分布
 黒点は本害虫の分布地を、緑点はその地域に存在することを示す(CABI, 2016)
出 典:Lina Wu: Infestation and management of the Black coffee twig borer in Uganda and the potential impact of the leguminous tree Albizia chinensis on robusta coffee (Swedish Univ. 2016)