材線虫病の被害軽減に抵抗性マツが必要な理由
【近畿・中国地方ではアカマツがなぜ必要か】
マツ枯れがひどいのなら、マツは無くてもいいという意見があります。しかし近畿・中国地方ではアカマツはどうしても必要な樹木です。京都では観光資源とし
て、特にお寺の借景となる山や庭園にはアカマツが不可欠です。また、六甲山系をはじめとする痩せ地でも育つ樹木としては、アカマツしかないという事情があ
ります。兵庫、広島県、京都府などでは、治山のために毎年たくさんのアカマツ苗が植えられていますが、それがつぎつぎ枯れているのが現状です。
さて、従来の薬剤と伐倒処理を中心としたマツ枯れ防除は高コストで、近畿中国の府県では2億円/年(府県あたり、防除のみ)もかかっています。薬剤に頼る
防除は、毎年実施する必要がありますが、近年ではその防除費を削減したために被害が増加した地域もあります。マツ林保存のコストを下げるため、また、薬剤
使用による環境への負荷を軽減するためにも、今後は長期的な視野で抵抗力のあるマツ林を作る必要があります。
【抵抗性のマツとは】
本来は非常に枯れやすいアカマツ・クロマツの中から、抵抗性の個体が選抜されてきました。林木育種センターと府県では、激害のマツ林で残ったマツを探すことから始め、抵抗性のレベルを確認する作業を長年行い、すでに90家系以上の抵抗性アカマツを得ています(「抵抗性とは」参照)。その中で、特に抵抗性の高いアカマツ家系では、苗に線虫を接種した場合の生存率が8割に達することもあります(黒田2006)。しかし家系によってはあまり強くなくて、半数が枯れる場合もあります。
海岸でもマツ枯れが起こっていますので、抵抗性のクロマツも、実は必要です。しかしクロマツはアカマツよりもさらに感受性が高く、枯れやすいので、抵抗性のクロマツを探すのは大変です。今ある16家系の抵抗性クロマツはあまり強いとは言えません。
採種園が府県単位で作られ、抵抗性マツの種子の採種が行われています。しかし苗木生産が順調に進まないため、植栽にはまだうまく利用できていません。利用が進まない事情として、以下の問題が判明しており、早急な解決が求められています。
【利用を阻む問題点】
- 抵抗性の高さ(線虫を接種したときの生存率)が母樹や採種園によってばらつく。線虫接種で枯死する苗が半数に上るので、利用を躊躇する。
- 抵抗性の弱いものが多数混じったまま植えると、将来多数枯れる恐れがある。弱い苗を省くために、苗に予め線虫を接種し、弱い個体を除く作業(接種検定)が必要であるが、そのためには多大なコストがかかり、大量生産できない。
- 庭園や観光地への植栽に不適な性質(枝振りや伸び方)のマツが多い。母樹の選抜には抵抗性以外の性質は考慮されていないためである。用途にあった苗生産の態勢を作る必要がある。
- 抵抗性家系の成木の生存率データがほとんどないため、「将来もずっと強いかどうかわからない。安心して植えられない」という声がある。
- 抵抗性マツとは、「枯れる危険率が低いマツ」であるが、利用者には「絶対枯れないマツ」という誤解がある。そのため、植栽の積極的推進を躊躇してしまう。
近年、選抜家系マツの抵抗性メカニズムに関して、研究の成果がでてきました。基礎研究から応用のための研究へと発展させ、以上の問題を解決することが可能です。
【解決の方法】
- 採種園母樹の抵抗性を高いレベルにそろえると、自然受粉による抵抗性のばらつきが減り、抵抗性の安定した苗木が生産できる。まず、既存家系の抵抗性の強さレベルを把握し、やや弱い家系を省いて採種園を改善する。
- アカマツはすでに多数の抵抗性家系があるので、その中から抵抗性が特に高く、形質の良い家系を精選する。観光資源などに適した形質のマツを地元の候補木から選んで採種園に加え、需要を満たせるようにする。
- 種苗生産のマニュアルを整え、安定した抵抗性を示す苗の生産システムを作る。
- 抵抗性マツとは「絶対枯れないマツ」ではなく、「枯れにくいマツ」であることを広報する。
これらの作業には自治体や研究者が共同で取り組み、事業として軌道に乗せる計画をしています。
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