化学反応に関与する準位間における波動関数の位相の重要性を実証
NaK分子の解離限界近傍での準位間相互作用・前期解離について、その振動・回転準位依存性を詳細且つ徹底的に調べた。二つの結合的電子状態の準位間で相互作用(摂動)があり且つその両準位が解離的電子状態と相互作用する場合、その結果生じる前期解離の確率が摂動中心の周辺で顕著に変化する事を見出した。エネルギーシフト(摂動の大きさ)と線幅(解離速度)の解析より、摂動により混合した状態の波動関数の位相(混ざり具合を示す係数の符号)に起因する"干渉"が前期解離の確率を変化させていることを明らかにした。これは、ポテンシャル曲面上での古典的なトラジェクトリー計算等では理解できない量子効果が、化学反応の基礎過程で重要である事を実証するものである。
多原子分子への展開
外部磁場(または電場)下で、並進方向のそろった分子線に直交するように単色性の良い波長可変レーザー光(可視光の2倍波)を照射し励起スペクトルを測定する方法で、二硫化炭素分子について研究し、ゼーマン分裂、シュタルク分裂、磁場(または電場)により誘起された遷移・摂動等を観測した。それは準位間相互作用、磁場の影響に関する、エネルギーシフトとスペクトル強度を活用した先駆的研究である。
光共振器を活用したドップラーフリー二光子共鳴分光法でグリオキサール分子のスペクトルを測定した。これにより従来の分光法では観測できなかった微少な摂動や磁場の影響(わずか5ガウスでもスペクトルは変化した)を観測し、その機構を解明した。これは超高分解能分光法として有望なドップラーフリー二光子吸収分光法の、本格的な分子分光研究への最初の活用である。
解離原子の進行方向・速度だけでなく電子軌道の向きまで解明
磁場方向に垂直な平面内での Cs2 分子線に直交するように波長可変の励起用レーザー光を照射し、前期解離の生じる励起状態(D状態)の単一の振動回転準位に励起した。この場合、Cs2分子はCs(6s2S1/2)+Cs(6p2P3/2)原子に選択的に解離する。磁場に平行あるいは励起用レーザー光に平行な方向から波長可変の検知用レーザー光を照射し、Cs(8s2S1/2、mj')←Cs(6p2P3/2,mj)遷移の励起スペクトルを mj=3/2,1/2,-1/2,-3/2からの遷移を分離して測定した。これにより解離原子の進行方向・速度だけでなく電子軌道の向きまで解明した最初の研究である。