衣環境学研究科

研究室紹介

神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 人間環境学専攻
環境形成論講座 生活環境論コース 衣環境学研究室 井上真理

はじめに


ねじり試験

糸の曲げ試験

 神戸大学は10学部、15大学院で構成されています。神戸市灘区の六甲山の麓、山に沿って点在する各研究科の中でも、人間発達環境学研究科は最も標高の高い場所に位置しています。海と山に囲まれた自然豊かな地域です。
 本研究科は2007年に総合人間科学研究科を改組して設置されました。1992年に教育学部を改組して設置された発達科学部を内包していましたが、2017年度から発達科学部と国際文化学部が合併して国際人間科学部をつくり、その一部を内包していることになります。
 平成30年度の衣環境学研究室は、博士課程前期課程2名、学部4年生6名というメンバーです。

衣環境学研究室では


糸の表面試験

 2つの観点から生活環境を捉えようとしています。

@人間と被服・繊維製品とのかかわり

被服と皮膚との間にできる微環境を形成する被服、すなわち"Portable Environment「持ち運びできる環境」(Watkins, 1984)"およびテキスタイル(繊維製品)全般の快適性能について研究しています。

A衣生活と生活環境とのかかわり

衣生活が環境に及ぼす影響(洗浄や退蔵衣料の問題、情報と流行など)について研究しています。

研究テーマ

1.テキスタイルの基本的物性の明確化

1) 繊維・糸の力学的特性

・単繊維のヤング率、圧縮弾性率、せん断弾性率を求めるための伸長特性、横圧縮特性、ねじり特性の測定
・糸の伸長特性、横圧縮特性、ねじり特性、交差特性、曲げ特性の測定(布の力学的特性の理論計算の基礎データとなる)

 繊維集合体の単体である繊維は繊維軸に配向した高分子構造のため、顕著な力学的・熱的異方性を持ちます。生活の中で多く利用されている布の動作追随性や肌触りのよさに関与する弾性率についてさまざまな繊維の基礎データ集積を行なっています。

<取り扱っている試料>

・衣料用の天然繊維、化学繊維
(オーガニックコットン、PETボトルから再生されたポリエステル繊維、ポリウレタン繊維など)
・高弾性・高強力繊維
・その他(蜘蛛糸繊維など)

2) 布の物理特性、熱・水分・空気の移動特性

・布の物理特性(KES-Fシステムによる伸長特性、せん断特性、曲げ特性、圧縮特性、表面特性、構造特性)の測定
・布の接触冷温感、熱コンダクタンス、保温性(水分移動を含む)、通気性の測定
・布の特性の理論計算

 繊維集合体は他の連続体材料にはみられない、微小な力で大きく変形する非線形性と強い異方性をもつ特徴的な力学的性質を示します。人間の皮膚の力学的特性も同様な非線形性を持ち、このことは繊維集合体が被服材料として人間に適合する理由の1つとなっていますが、その非線形性のために理論的解明が困難です。それを解析しようとするものです。


KES-Fシステム

<これまでおよび現在研究中の解析例>

・三軸織物の伸長・せん断特性
・毛布の圧縮特性の理論計算
・コーティング織物、多重織物の強度計算
・絆創膏用基布の伸長特性
・ネット包帯の応力緩和特性など

2.繊維製品他の快適性・耐久性の客観的評価

 さまざまな材料の各用途に適合した着心地、使い心地、肌触りに関する主観評価を行うとともに、力学的特性と外環境−衣服−人体の系での乾燥時および発汗時の熱移動特性、接触時に皮膚温と環境材料の表面温度との差によって感じる温冷感、通気性等を測定して、快適性能の客観的評価式を導いています。

<これまでおよび現在研究中の解析例>


紙オムツに関する
ポスター発表
(スイスにて)

・パンツ型オムツ着用時のはき心地の客観的評価
・熟練者の感覚技能を継承する−皮革の触感のデジタル化
・柔軟処理を施した編布の性能
・寝具である毛布・シーツの風合いの客観的評価
・衛生用品の快適性能の客観的評価
・絆創膏用基布の性能
・自動車の内装材料としての天然皮革・織物の風合いの客観的評価
・ゴム・樹脂などの工具の握り心地
・塗膜の触感の客観的評価

3.人間の生理作用と被服材料との関係

1) 人間の生理作用の測定

・人間の皮膚特性(さまざまな年齢層の皮膚の伸長特性、圧縮特性、水分率他)
・湿度の変化と人間の体温調節反応
・異なる素材の衣服内気候の変化
・圧迫される衣服着用時の心拍数変化とストレス反応

2) 衣服圧の測定と予測

 立体的な曲面を有する人体は、動作によって形態変化を起こします。衣服のゆとりと布の伸びが形態変化よりも小さいと衣服が人体を圧迫し、不快感をまねくことになります。布の伸長特性から衣服圧を予測する方法を提案し、人体計測値との比較により、その方法の妥当性を検討しています。研究例としてはストレッチ性布地を材料とする衣服やストッキング、ガードルなどの衣服圧測定と予測計算を行っています。


スウェーデンの複合施設で認知症
患者用のふとんに寝ている筆者

4.衣生活と生活環境(プロジェクト)

1) 乳がんや子宮がんなどの女性がん患者が放射線治療時に着用する衣服の開発

 神戸大学大学院医学研究科の放射線科の先生方とともに治療衣の開発を目指して研究中です。

2) 集団ケアから個人の尊厳にもとづくユニットケアへの移行研修プログラムの開発と評価

 所属する研究科内の様々な分野の先生方が集まって高齢者施設と共同で研究を行っています。

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