研究内容
科学技術研究機構(JST)
研究成果展開事業 産学共創基礎基礎研究プログラム
研究課題
テラヘルツイメージング分光による高分子材料の劣化の
可視化と深さ方向分析
研究代表者
佐藤春実 (神戸大学 准教授)
研究分担者
尾崎幸洋 (関西学院大学 教授)
山本茂樹 (大阪大学 助教)
保科宏道 (理化学研究所 研究員)
実施期間
2014年9月~2017年3月
高分子材料の開発において高性能で高品質な高分子製品を生産するには、高分子そのものの劣化を把握することが必要不可欠である。本研究では、高分子の高次構造を反映するテラヘルツ(THz)イメージング測定により、非破壊・非接触で複合材料における構造・物性を可視化し、ひずみや欠陥がどのような分子構造に由来するのか、その原因解明に大きく前進することを目的とする。さらに、材料表面からの深さ方向分析により、高分子複合材料中の成分間の相互作用や分散性、結晶化度の分布、樹脂流れや残留応力などの深さ方向プロファイルを作成し、同時にそれらの性質の三次元分布の情報を得ることを目指す。ひずみ劣化のようなマクロな物性変化と分子間相互作用や分子構造のようなミクロな分子構造変化を結び付ける非破壊測定法は従来になく、THzイメージング分光を用いた高分子材料の構造・物性評価への応用は本研究が世界に先駆けたものである。これにより、近年ますます多様な特性や機能を要求される高分子材料において物性発現の機構を理解し、物性改良や新規材料開発に大きく貢献することが期待される。
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ポリヒドロキシブタン酸における弱い水素結合が結晶構造安定化と熱的挙動に果たす役割
―低分子量ポリヒドロキシブタン酸(PHB)の結晶構造と熱挙動―
The
role of Weak Hydrogen Bond in Poly(3-hydroxybutyrate) in Stabilization and
Themal Behavior of the Crystal Structure
-Crystal Structure and Themal
Behavior of Low Molecular Weight Poly(3-hydroxybutyrate)(PHB)-
これまでの我々の研究で、微生物由来の生分解性高分子であるポリヒドロキシブタン酸(PHB)の結晶構造中には弱い水素結合が存在し、それが結晶構造の安定化に寄与していることを見出しました。この弱い水素結合はラメラの中で隣り合う分子鎖同士を結び付けており、それが数多く存在することで、一つ一つは弱い力ですが、たくさん集まって大きな力を発揮するというものです。測定手段として用いている赤外分光法では、高分子の官能基の動きに非常に敏感であるため、この手法を用いることで、この弱い水素結合が形成されていく過程を介して、ラメラ構造が形成されていく様子を追跡することができます。本研究では分子量が1000程度の低分子量PHBを用いて、その結晶構造形成過程と熱挙動を観察し、ラメラ厚程度の分子鎖が結晶構造を作る様子を弱い水素結合を介して明らかにしていきたいと考えています。分子量の大きなPHBのラメラ構造形成と比較することで、ラメラ表面の結晶の乱れや高分子鎖の折りたたみ構造の必然性についても検討したいと考えています。
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振動分光法によるゲル化機構の解明
Investigation
of Gelation Mechanism by using Vibrational Spectroscopy
①ジェランガムはPseudomonas
elodeaとよばれる微生物が菌対外に産出する水溶性の多糖類であり、増粘安定剤(増粘剤、ゲル化剤、安定剤)として各種食品に幅広く利用されています。このジェラン
ガムは、カチオン類の存在により強固なゲルを形成することが知られており、そのゲル化機構はランダムコイルから2重らせんを形成し、さらに冷却すると2重らせん同士が水素結合により会合して
強固なゲルを形成すると提唱されています。しかしながらこのゲル化機構に関する詳細はまだ良く分かっていないことが多く、特に振動分光法を用いた研究例は殆どありません。そこで、赤外、ラマ
ン分光法を用いて、官能基を指標とし、ゲル化機構を追跡すれば、分子全体の複雑で大きな変化も単純化して捉えることができます。カチオンの種類や濃度の他にもpHの影響などを詳細に調べ、
複雑で難しいゲル化や会合体形成機構を官能基レベルの変化からアプローチしていきたいと考えています。
②カラギーナンは紅藻類から抽出される直鎖状多糖類で、ゲル化剤、安定剤、増粘剤として各種食品に広く使用されています。カラギーナンは硫酸基の結合位置と数によりκ-、ι-などに分類され、
溶解性やゲル化の様子が異なります。本研究では赤外分光法を用いて官能基レベルでのκ-カラギーナンとι-カラギーナンのゲル化挙動の違いを調べています。
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近赤外イメージングを用いたポリ乳酸繊維の風合いと生分解性評価
Evaluation of Texture and Biodegradability of Poly (lactic acid)
(PLA) Fabrics by using Near-Infrared (NIR) Imaging
生分解性ポリマーとして知られるポリ乳酸(PLA)は、ナイロンとポリエステルの中間のヤング率を示し、ソフトで清涼感のある風合いを持つため、衣料や生活雑貨等にも幅広く展開されています。本研究では、ボディタオルとして実際に市販されているPLA繊維の生分解の様子こうもを近赤外イメージング分光法を用いて観察し、風合いと併せて評価することを試みています。
PLA繊維と近赤外イメージング
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生分解性コポリマーの結晶構造と熱挙動
Crystal Structure and Themal Behavior of Biodegradable
Copolymers
共重合化やブレンド化はポリマーの物性改善において重要な方法ですが、生分解性ポリマー同士の共重合では、生分解性という大きなメリットをそのまま保持できるため、実用・応用面での期待も大きくなります。ポリ乳酸(PLA)とポリグリコール酸(PGA)の共重合体は、それぞれのホモポリマーの基本的な特性を保ちつつ、組成を変化することで結晶化度や生分解の速度を制御することができます。また、結晶性ポリマーで融点の近いポリ(
ε-カプロラクトン)(PCL)とポリエチレングリコール(PEG)のブロック共重合体において、異種高分子の長さの違いにより結晶化挙動に影響を及ぼすと考えられます。本研究では(1)PGA/PLA共重合体の結晶化の様子や熱挙動などが組成の違いによってどのように影響を受けるのか(2)PCL/PEGブロック共重合体の結晶化における成分鎖間の競合について調べています。
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ポリブチレンサクシネートの結晶構造と生分解性の相関
Correlation between Crystal Structure and Biodegradability of
Polybutylene Succinate (PBS)
ポリブチレンサクシネート(PBS)は延伸によりテトラメチレン部位の立体配座がTGTGTをとるα晶からTTTTをとるβ晶へ可逆的な結晶相転移を起こすことが知られています。結晶構造の異なるPBSの酵素分解していく様子をラマン分光法を用いて観察し、PBSの結晶構造と生分解性の相関について研究しています。