研究内容

1. 発酵プロセスにおける微生物の生態と酵素機能の解明

鰹節の製造には、「かび付け」と呼ばれる発酵熟成工程があります。この工程では、極端に乾燥した環境下でも生育できる好乾性糸状菌群(鰹節カビ)が働いており、極限環境微生物の研究として興味深いものがあります。本研究では、鰹節表層に優占種として生育する好乾性糸状菌の生態と、それらが生産する加水分解酵素群の機能を明らかにしています。特に、低水分活性環境に適応した脂質分解酵素やタンパク質分解酵素に着目し、発酵期間中の遺伝子発現動態、基質特異性および触媒特性を解析しています。これらの知見は、呈味性や熟成香の形成機構の理解につながるとともに、品質の安定化や熟成期間の短縮を可能にするスターター設計(最適な鰹節カビの育種)へと応用されます。

図の説明 鰹節表面から分離した好乾性糸状菌を解析した結果、製造元ごとに異なる微生物群集が形成されていることが明らかとなりました。これらの菌叢の違いは、発酵特性や品質形成に影響を与える重要な要因と考えられます。


2. 高塩・低水分活性環境に適応する酵素の機能改変と応

味噌や醤油などの高塩発酵食品では、塩濃度が高いため酵素活性が低下しやすく、耐塩性酵素の探索と設計が重要です。高塩環境と①で紹介した乾燥環境は、微生物や酵素が利用できる自由水が少ないという共通点があります。本研究では、好乾性糸状菌や発酵食品由来微生物の遺伝資源から得られる酵素について、構造・機能解析を通じて耐塩性や高塩環境下における安定化機構の解明に取り組んでいます。さらに、耐塩性酵素の特徴を基に、キメラ化や表面電荷の改変、N型糖鎖の導入などのタンパク質工学的手法を用いて機能強化を試みています。これにより、発酵食品製造の効率化や新規バイオプロセスの開発、特異な産業用酵素の創製を目指しています。

図の説明 耐塩性を示す好乾性糸状菌由来酵素と麹菌由来酵素の構造比較。耐塩性に関与すると考えられる領域を同定し、構造情報に基づくキメラ化やアミノ酸置換によって高機能酵素の開発を進めています。


3. 食品副産物や未利用バイオマスの高付加価値化


健康志向の高まりに伴い、機能性成分を高めた発酵食品や食品素材への関心が高まっています。一方、食品加工や農産物の製造工程で発生する食品加工残渣には、未利用なタンパク質やポリフェノールなど多くの有用成分が含まれています。本研究では、糸状菌や乳酸菌が有する酵素機能を活用し、食品成分や食品副産物を有用な機能性成分へと変換する技術の開発を進めています。具体的には、鰹節だしがら、黒大豆種皮、卵殻膜などの食品副産物を発酵・酵素処理し、機能性ペプチドや抗酸化成分の生成・増強を図っています。得られた発酵物については成分分析や生理活性評価を行い、抗酸化作用、抗高血圧作用、免疫調節作用などを有する機能性食品・素材としての可能性を検証しています。これらの研究を通じて、食品ロスの削減や資源循環型社会の実現に貢献するアップサイクル技術の確立を目指しています。

図の説明 鰹節だしがらに麹菌を接種して発酵を行うことで、タンパク質が酵素的に分解され、アミノ酸や生理活性ペプチドを含む発酵物へと変換されます。本研究では、このような微生物発酵を利用した食品副産物の高付加価値化に取り組んでいます。


4. AI・データサイエンスを活用した発酵プロセスの最適化


近年、人工知能(AI)やデータサイエンスを活用した研究開発が急速に進展しています。本研究では、微生物発酵による有用成分の生産効率向上を目的として、実験データと機械学習を組み合わせた発酵条件の最適化にも取り組んでいます。発酵条件と生産物特性との関係をモデル化し、ベイズ最適化などの手法を利用して効率的な実験設計を行うことで、新規発酵食品や機能性素材の開発期間短縮を目指しています。

図の説明 だしがら麹の固体発酵を対象として、AIとデータサイエンスを活用した発酵条件の最適化に取り組んでいます。実験データから発酵条件と生成物の関係を学習し、効率的な条件探索を行うことで、発酵プロセスの高度化を目指しています。


※研究内容の詳細については、本ホームページ内の研究業績一覧またはResearchmapをご参照ください。


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