研究内容

運航効率向上に関する研究

強化学習による効率のよい管制官タスクの導出

管制タスクは多くの航空機を安全にかつ効率的に制御する必要があり非常に専門性が高い。この複雑な管制タスクを、強化学習とよびシミュレーション上で人工的な管制官に非常に多くの回数の試行錯誤を行わせることで、効率性と安全性を兼ね備えた人間を超える人工管制官の構築を目指す。

上昇推力制御による燃料消費削減

通常、航空機は上昇時に最大推力で上昇を行うが、厳密には巡航高度近辺で推力を減じることで、燃費改善がはかれることが知られている。最適な推力制御の研究の他、推力減の操作による乗員のワークロードや管制への影響など、多方面から実現の可能性を検討している。大手航空会社のシミュレータを用いた検証なども実施しており、近い将来に本方式が実際の運航で導入されることを目指している。

航空機の地上移動時の燃料消費削減

航空機は離着陸にあたり、スポットと滑走路の間を移動する必要があるが、地上の燃料消費は無視できないほどに大きく、減らす余地があると考えられており、特に滑走路および空港面混雑時には地上移動時間が長くなっている。その解決のため、地上移動ルートや移動開始時刻を調整する手法があり、どのように各航空機を制御すればよいかを最適化問題ととらえてその解法などを研究している。

風などの推定手法に関する研究

航空機や船舶は運航にあたり風の影響を受けやすく、その推定精度は運航効率に影響を与える。機械学習などを用いて、過去の実測データや数値予報モデルから将来の風の予測精度を向上する手法の検討を行っている。また、風の予測精度向上の運航効率に与える影響の評価なども行っている。

安全向上に関する研究

管制指示の音声認識に関する研究

管制官とパイロットは現在でも音声を通信としたやり取りを行っており、近い将来においてもこれが変わる見込みはない。管制-パイロットの意思疎通ミスは重大事故につながる可能性があり、それを防ぐために音声認識技術を用いることで、意思疎通ミスを検知する枠組みを提案する。

安全な航空機間の管制間隔を設定するための数学モデルの開発

航空機の運航は安全が第一だが、航空機間隔をとりすぎると運航効率が下がってしまうため、安全を担保した上でできるだけ小さい間隔基準の設定が望まれている。それにあたり、航空機の運航を数学的にモデル化し、その衝突確率の計算手法を開発している。その結果は、ICAO(国際民間航空機関)や本邦の管制間隔基準にも反映されている。

無人航空機や空飛ぶクルマへの新たな間隔基準の提案

近年、無人航空機や空飛ぶクルマの開発が進んでいるが、その安全基準はまだ明確に規定されていない。民間航空機の安全間隔基準の設定で培った知見を活かして、無人航空機や空飛ぶクルマの将来的な高密度運航時における基準を作成するための数学モデルの開発に取り組んでいる。

運航データを用いた安全運航につながる知識の取得

近年では非常に多くの航空機が運航されており、その蓄積データから航空機の安全性を高めることができるヒントが隠されていると考えている。国内航空会社から運航データを入手し、機械学習などの手法を用いることで、相対的に危険な運航がどのような場面で起こっているかを分析し、安全運航を行うための指針を出すための研究を行っている。

障害物基準の制限緩和に関する研究

空港周辺においては、制限表面などにより建築物等の高さの制限がされている。しかし、この基準は遠い昔に設定されて以来、長年にわたり変更されていない。そこで、近年の航空機の性能等を考慮した上で、新たな基準を設定するための方法を提案している。具体的には、航空機の逸脱などのデータを取得した上で、必要とされる保護空域の検討などを行っている。効率的なデータ取得など、その関連研究も実施している。

ヒューマンファクターに関する研究、その他

乗員の操舵モデル構築に関する研究

航空機や船舶など乗員におけるマニュアル操縦は、一般に経験とともに得られる技術と言われているが、効率よくその技術を取得することで乗員不足の問題を解決できる可能性がある。個人によってもその操縦技術や操縦手法に違いがあり、その分析を行うための手法の開発を行っている。

飛行方式設計手法の開発

航空機は飛行方式と呼ばれる経路や各種制限をもとに離着陸の飛行を行わなければならないが、その方式には厳密な設定基準がある。飛行方式は管制官により手動で設計されているが、それを自動化することで、方式設計作業を効率化できるだけでなく、より最短経路など効率性向上にも寄与する可能性がある。国土交通省航空局や電子航法研究所とともに、設計者が利用可能な方式設計ツールの開発を進めている。