三ツ沼研究室 神戸大学大学院 理学研究科化学専攻

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Research

20世紀の化学は、分子そのものの構造や性質を理解し、それを自在に合成・変換することで大きく発展してきました。分子モデルに基づく自然現象の理解、新しい医薬品や機能性材料の創出など、分子を中心とした化学は、科学と社会に数多くの成果をもたらしてきました。一方で、21世紀の化学には、単一の分子をつくるだけでなく、複数の分子が相互作用し、全体として機能する「分子システム」を理解し、設計し、構築する視点が求められています。分子が集まり、ネットワークを形成することで初めて現れる機能を、化学の言葉で理解し、人工的に再構成することが重要な課題となっています。 私たちはこれまで、この考え方を有機合成化学へと展開し、複数の触媒が協奏的に働く「触媒システム」を構築することで、有機合成における最難関課題の一つであるsp³C–H結合の活性化に取り組んできました(Chem. Pharm. Bull. 2026, 74, 294)。その結果、単一の触媒や分子だけでは実現できなかった新しい反応性や選択性を生み出し、分子システムの設計が有機合成化学に新たな機能をもたらすことを示してきました。しかし、このような分子システムの設計と応用は、まだ始まったばかりです。 分子システム化学を最も高度に体現している存在が、生命です。細胞内では、酵素、低分子、金属イオン、生体高分子などが複雑なネットワークを形成し、特殊な反応場をつくり出すことで、極めて選択的な分子変換、情報伝達、自己組織化、応答性といった高度な機能を実現しています。 私たちの研究室では、精密有機合成化学を基盤として、生命に学んだ分子システムを人工的に設計・構築することを目指しています。これまで培ってきた触媒反応や触媒システムの知見をさらに発展させ、生命の仕組みに着想を得た新しい有機合成反応、物質変換プロセス、機能性分子・材料の創出に挑戦します。さらに、分子が集まり、相互作用し、ネットワークとして機能する原理を有機合成化学の力で再構成することで、生命らしい機能をもつ人工分子システムの創出を目指します。

Theme 1: 分子システムを用いた精密分子変換

生命の中では、複数の分子が精密に連携することで、極めて高い選択性と効率をもつ化学反応が実現されています。私たちは、このような生体に見られる分子システムに着想を得て、従来は発生や制御が困難であった高活性化学種を自在に操り、高選択的な分子変換を実現することを目指しています。特に、これまで培ってきた一電子移動化学を基盤として、複雑な分子や多官能基性分子にも適用可能な新しい物質変換システムを開発します。

Theme 2: 未開拓機能性高分子の創出

生命は、アミノ酸、核酸、糖といった単純な分子を精密に連結することで、タンパク質、DNA、オリゴ糖などの生体高分子をつくり出し、機能や情報を高度に制御しています。私たちは、このような逐次的な分子構築の考え方を有機合成化学へと展開し、これまで合成が困難であった新しい機能性高分子の創出を目指しています。これまでに、炭化水素資源であるブテンを原料として、ポリプロピオネート骨格を立体選択的に構築する人工的な逐次伸長法を開発してきました(Science 2025, 390, 272)。これから私たちは、生命がつくり出すことができない未踏の構造と機能をもつ人工高分子を合成する方法論を確立し、材料科学や医薬化学への応用を目指します。

Theme 3: 生命の全合成

生命は、多様な有機分子が集合し、相互作用し、ネットワークを形成することで、柔軟で複雑な機能を発現しています。私たちは、有機合成化学の力を用いて、このような生命に特徴的な分子ネットワークを人工的に設計・構築することを目指しています。これにより、化学の力で生命を創り出すことに挑戦します。

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