「障害共生支援」論のディシプリンを示すためにも、基礎的と考えることができる文献を列挙しました。当該領域に馴染みの薄い人でも、読んでまあまあ理解できるだろうと思われる本であり、「障害共生支援」について考察を深める材料を提供している本を選びました。在学中の学生のみなさんや、大学院を受験しようとしている方などは、特にご参照ください。ただし、必ずしも、その領域で最高水準であったり網羅的に書かれていたり最新情報が掲載されているということではありませんので、ご留意ください。
□イリイチ『脱学校の社会』東京創元社、1970年
制度化が臨界点を越えることによって、人間は力を失い制度に支配されるというテーマを突いたこの本は、書かれて40年を経た現在でも私たちの社会、私たちの生き方に鋭く迫ってくる。障害共生支援に関するさまざまなテーマを考える際の礎としたい本。
□花崎皋平『生きる場の哲学:共感からの出発』岩波新書、1981年
他者と共にありながら研究をするという生き方について根源的な問いかけをしてくれる本。他者から何を感じ、何を拠り所にしてものを考えるかということについて、深い洞察を呼び覚ましてくれる。復刻が嬉しい。
□岩田正美『社会的排除』有斐閣、2008年
標題どおり、社会的排除とはどのような問題かということを知り、考える材料を的確に提供してくれる好著。「インクルージョン」を正しく理解するためにも必読。
□宮坂広作『現代日本の社会教育』明石書店、1987年
「相互主体的共習の共同的・親和的交信関係をつくりだすこと、ともに生き、ともに学ぼうとする人たちのネットワークの創出に手を貸すことが、これからの社会教育行政の責務である」という理念に基づき、社会教育に関連するさまざまな動向を批判的に考察している。出版されてから20年以上が経つが、批判のメスは本質的なところでいまだに色あせていない。
□赤尾勝己編著『生涯学習理論を学ぶ人のために』世界思想社、2004年
フレイレ、ノールズ、メジローなど、成人学習の理論を手軽に見渡すことのできるテキスト。関心が深まれば、それぞれ紹介されている原著を読むことを勧めたい。特にフレイレ『被抑圧者の教育学』(亜紀書房、1979年)。
□「国際生活機能分類−国際障害分類改訂版−」(日本語版)
障害とは何か?という概念について考える際に、避けて通ることのできない資料。「国際障害分類」からどのように発展したかという点をぜひ押さえたい。
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
□サラマンカ宣言
インクルーシヴ教育の思想の原点を知るためには欠かせない文章。「差別と闘う学校」といったキーワードなどによって、日本の学校教育がいかにインクルーシヴ教育からかけ離れているかということを思い知らされる。
http://www.dove.co.jp/sumomo/siryou_folder/Salamanca.html
□石川准・長瀬修編著『障害学への招待』明石書店、1999年
障害学の基本中の基本文献。特に第1章「障害学に向けて」は障害概念の歴史を学ぶのに、第8章「異形のパラドックス」は障害者運動の歴史を学ぶのに、第3章「自己決定する自立」は近代社会における障害の問題について理解を深めるのに最適。
□石川准・倉本智明編著『障害学の主張』明石書店、2002年
『障害学への招待』の続編。『招待』ほどのインパクトはないが、第8章「インペアメントを語る契機」は、障害学の基本課題の理解を深めるのに最適。より深めるためには杉野昭博『障害学:理論形成と射程』(東京大学出版会、2007年)を参照。
□要田洋江『障害者差別の社会学』岩波書店、1999年
やや問題をステレオタイプに切り取っている感じは否めないものの、問題の所在を明確にするという意味で、しっかりと批判的に読みたい本。特に、障害のある人の親がどのような揺れ動く立場に立たされているかということを理解するために拠り所となる図式を示してくれる。横塚晃一『母よ!殺すな』(生活書院、2007年=復刻版)や春日キスヨ『介護問題の社会学』(岩波書店、2001年)なども併せて読みたい。
□鯨岡峻『エピソード記述入門:実践と質的研究のために』東京大学出版会、2005年
実践と研究をつなぐ方法論に悩む私たちにとって、道標となる恵みの本。方法論としては、質的研究の歴史的積み重ねを理解した上で読んだほうがよいようにも思う。そのためには、佐藤郁哉『フィールドワーク:書を持って街へ出よう』(新曜社、2006年)、藤田結子・北村文編『現代フィールドワーク』(新曜社、2013年)が読みやすく入門書としてよい。
□津田英二・久井英輔・鈴木眞理編著『社会教育・生涯学習研究のすすめ』学文社、2015年
インフォーマル教育を含む現象を対象とする社会教育・生涯学習研究の難しさにターゲットを置き、特に実践研究に足場を置くべきことを強調しながら、基礎研究の課題やおもしろさ、そして研究自体のこれからのあり方についても追究した本。
□小林隆児『関係からみた発達障碍』金剛出版、2010年
玉石混淆の発達障害関連本の中でも、発達障害の捉え方、発達障害児との関わり方の基本的なスタンスについて多くを学ぶことのできる良書。読みやすさでもピカ一だが、より専門的には『自閉症の関係障害臨床』(ミネルヴァ書房、2000年)も参照したい。
□津田英二『生涯学習のインクルージョン』明石書店、2023年/津田英二『物語としての発達/文化を介した教育』生活書院、2012年/津田英二『知的障害のある成人の学習支援論』学文社、2006年
手前味噌だが、一応「障害共生」というテーマで考えようとしていることがらのエッセンスは書き散らしたつもりなので参照してもらえたらありがたい。『知的障害のある成人の学習支援論』では、社会教育論を背景としながら、知的障害者の自己決定というテーマに分け入った。『物語としての発達/文化を介した教育』では、発達障害の社会モデルの観点から、発達や教育の概念を捉え直し、「都市型中間施設」という概念を提示した。より平易な読み物として津田英二監修・神戸大学ヒューマン・コミュニティ創成研究センター編著『インクルーシヴな社会をめざして』(かもがわ出版、2011年)も参照いただきたい。『生涯学習のインクルージョン』では、あーちやKUPIの実践などをベースに、概念の整理や学びの分析を試みた。
□佐藤久夫・北野誠一・三田優子編著『障害者と地域生活』中央法規、2002年/鈴木眞理・松岡廣路編著『社会教育の基礎』学文社、2006年
いわゆるテキスト。使いやすいという点で2冊を取り上げた。日々移り変わる制度などについては、別に新しい情報を別に入手しないといけない。
□岩波講座・現代社会学15『差別と共生の社会学』岩波書店、1996年
好みの問題もあるが、テーマの取り上げ方がなかなか秀逸。「アイデンティティを超えて」「差別のエスノメソドロジー」「能力主義を肯定する能力主義の否定の存在可能性について」「アイデンティティの政治学」「複合差別論」など、豊かな示唆に富む文章群。
□SSIR Japan『これからの「社会の変え方」を探しにいこう。』英治出版、2021年
社会変革に向けて協働によるコレクティブ・インパクトをつくりだすために必要な知識、システム、態度について、多角的に述べられている論文集。実践的な示唆があるだけでなく、現在進行している社会変革のための実践を理解する上でも有益。また、こうした考え方が現れてきている背景の理解のために、広井良典の著作群(『ポスト資本主義』岩波新書、2015年など)や、水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、2014年)などがお薦め。