第38号(2008年1月号[08/1/1発行])
謹賀新年
本年もよろしくお願い申し上げます
整形外科リウマチ診療部門一同
エタネルセプト(エンブレル®)副作用報道について
昨年の12月6日から7日にかけて、リウマチ治療薬エタネルセプト(エンブレル®)の使用に伴う死亡に関する報道がマスコミ各社よりありました。 エンブレル® は、関節リウマチの炎症の原因となる腫瘍壊死因子(tumor necrosis factor: TNF)を選択的に阻害する生物学的製剤で、国内では2005年に承認された、非常に有効なリウマチ治療薬ですが、一方で、他の薬剤と同様に、重篤な副作用も報告されています。
報道における死亡者数は、マスコミ各社により様々でしたが、これは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構の安全部が、 エンブレル® の因果関係が否定できないと主治医によって報告された死亡例79名のうち、60例を検討した結果、 エンブレル® と死亡との因果関係がありと16名が判断されたとの公式報告の、どの数字を取り上げたかということに基づきます。なお、16名のうちの15名は敗血症などの感染症、1名は間質性肺炎であったと報告されています。
関西での各新聞の記事は比較的穏やかな論調でしたが、他の地域の一部新聞では、「死者数注意喚起せず、医師『なぜ早く知らせぬ』」との、厳しい語調の見出しで記事が掲載されていました。
エンブレル®などのリウマチ新薬は、厚生労働省より発売後一定期間、治療に使用した全ての症例について、日本リウマチ学会の協力の下に、各専門医から登録の上、副作用などの報告が義務づけられています。同時に、副作用の発現状況について、製薬会社側から、逐次、医師へ報告がなされており、「死者数注意喚起せず」は、事実に即していません。
エンブレル®は2005年3月の発売以来、2007年11月30日現在で、国内で延べ約2万人の関節リウマチ患者さんに使用されていますが、適正使用情報調査における中間解析時のエンブレル®使用患者の死亡率は一般人の1.3倍でした。関節リウマチは、生命予後に影響を及ぼす疾患で、性別や年齢を考慮して一般人と比較した場合、死亡率は一般人の1.5-2.0倍と報告されていますので、エンブレル®を使用することにより死亡率が上昇する訳ではないと考えられています。
もちろん、全体的に見て死亡率に変化がないとしても、重篤な副作用により死亡することは、 例え一人であっても、本来あってはならないものです。そのような事態を極力回避するために、厚生労働省、日本リウマチ学会や製薬各社からの情報に基づいて、リスク・ベネフィットを十分に考慮した適切なリウマチ治療を行うべく、私たちは全力で努めていく所存です。
以前、 代表的なリウマチ治療薬であるメトトレキサート(リウマトレックス®)や、レフルノミド(アラバ®)、タクロニムス(プログラフ®)についても、間質性肺炎や感染症による死亡に関するマスコミ報道があり、副作用を心配されて、薬を自己判断で中止した結果、病気を悪化させてしまった患者さんがおられましたが、今回、エンブレル®を使用されている患者の皆様には、非常に冷静な対応をして頂き、感謝しております。
先月号でも記載しましたが、リウマトレックス®、アラバ®、プログラフ®などの免疫抑制剤を内服している、あるいは、生物学的製剤(レミケード®、エンブレル®)を注射をされているリウマチ患者の皆様は、体調に大きな不都合が生じた場合、速やかに、かかりつけ医を受診するか、主治医に連絡して、指示に従っていただきますように、お願い申し上げます。
整形外科リウマチ教室のご案内
整形外科では、関節リウマチの皆様とご家族の方々に、関節リウマチについての理解を深めて頂いて、日常生活の中で、より良い療養ができますように、2003年より、整形外科リウマチ教室を開催しております。教室は、毎月最終木曜日、午後1時から2時に、定期的に開催しております。ただし、事情により、最終週に開催が困難な場合には、開催する週を変更させて頂きます。また、神緑会館を使用できない場合には、会場が、病棟5階カンファレンス室等に変更になります。お手数ですが、最新のリウマチだより、あるいは、大学病院ホームページで、日時と会場をご確認の上、来院いただけますように、お願い致します。講演は、予約不要、参加費無料ですので、他の医療機関で治療を受けておられる方も、ご自由にご参加下さい。教室では、療養に役立てて頂くために、関節リウマチの治療法、健康維持法や、保健制度など、様々な話題を取り上げております。参加頂いている皆様は、リウマチ教室を、患者さん同士や、患者さんと医療従事者の交流の場として活用されておられますので、初めての方も、安心してご参加ください。講演後に、時間が許す限り、個別の療養や治療に関する相談に応じておりますが、診察そのものは、リウマチ教室ではできません。リウマチかどうか分からない場合などは、お近くの医療機関で診察と検査を受けて頂きますように、お願いいたします。
1月のリウマチ教室は、年頭に当たって、三浦准教授から、新年度中に、承認が予想される、新しいリウマチ治療薬を初め、さまざまな最新のリウマチ治療について、講演致します。講演後には、手術についての個別相談を開催致しますので、ご希望の方は、レントゲン写真などの資料をご持参下さいますように、お願い致します。2月は、大学院生の内村千秋女史に、昨年秋にボストンで開催されたアメリカリウマチ学会への参加報告と、皆様にご協力頂いている、研究用の採血がどのように役立てられているかなど、関節リウマチと全身性エリテマトーデスの研究について講演して頂く予定です。3月は、澤村義肢製作所より、戸石義肢装具士、佐野義肢装具士の2名にお来し頂き、リウマチの上肢装具について、講演と装具の展示を行って頂く予定です。
これからも、整形外科リウマチ教室にご期待ください。
それでは、本年が皆様にとって素晴らしい一年になりますようにお祈り申し上げます。
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